第24話 とある悪魔の話をしよう
悪魔とは、魔族と似て非なるもの。魔界で暮らし、負の感情を糧に生きる。
彼らは契約を重んじる。もっともその契約が対等であるとは限らないが。
ここに、ある悪魔がいた。名をリゲル。勇者が闊歩した時代から生きる上級悪魔だ。
勇者たちによって引き起こされた問題により全ての召喚物が強制的に帰還させられた際、彼も優に漏れず魔界へと引き戻れた。
それから幾年もの月日が流れる。
勇者が消え、彼らが物語となったタイミングを見計らって彼は地上へと召喚される。
それというのと魔界に戻る前、地上へ眷属を残していたのだ。それにより神々が隠匿した召喚システムを使う事が出来た。
「あぁ〜っ、楽しみです。何時ぶりでしょうか? 人の感情を喰らうのは……」
彼が神々の目を盗んででも召喚システムを利用したのは、一度味わった人の欲から生まれる負の感情の味が忘れられ無かったのだ。
バレないように策を講じた。
召喚場所は【メルディン】ダンジョンの最下層。まだ、誰も到達していない場所を選んだ。
「今まで良くやった。褒美をやろう!」
そして、眷属たちを殺し力に変える。
召喚された事実を知る者を減らし少しでも神々に悟られぬようにする為だ。
また、規制された召喚により削がれた力を回復させる目的もあった。
「これで精々3割がいい所とは……」
使ったとしても即座に潰すという神々の意志を感じた。
人を一人殺しても得られる力は高が知れてる。彼は諦めてゆっくりと回復することを選んだ。
ダンジョンを出た彼は贄を求めて街を散策する。
「おい、貴様! こんな物を食べさせる気か!?」
望む相手は思いの外、早く見付かった。
虚栄心の塊で嫉妬深く、相手を下に見る事に悦を感じる貴族であった。
身分も悪くはない。子爵という低く過ぎず、高過ぎず、下級貴族の中で上でありながら伯爵家との繋がりを持っていた。
まずは使用人として近付き、彼の望みを叶え続けた。
「よくこの絵を手に入れたものだな!」
世に出回っていないとある絵を入手してみせた時は、普段部下を褒めない彼が手放しで賞賛したものだ。何時しか周囲から側近と呼ばれる程に彼からの信頼を得ていた。
地位が確立した私は子爵を唆し、伯爵家へと手管を伸ばす。ちょうど良いことに彼の妹が伯爵の妻だった。
「私は要らない存在なのでしょうか……?」
子爵の妹も現状に不満を抱えていた。いつの時代も夫婦の問題を上げればきりがない。
必要なことだと分かっていても、仕事に構って触れ合いをないがしろにする夫へ不信感。それを刺激すれば面白いように転がり落ちた。
「嫉妬、逆恨み、虚栄、強欲、背徳。あぁ、負の感情……なんと甘美なことか……」
やはり人は素晴らしい!
どんな聖人君子でも欲とは切り離せない。負の感情をいつでも生み出す下地を彼らはもっている!!
「もっと……もっとだ!」
だいぶ力を取り戻した私は、次なる一手を打つ。
〈闇魔法〉を使い精神に干渉。認識を改竄し、まんまと伯爵の息子へとおさまった。
しかし、デメリットもある。側近と伯爵夫人の逢い引きには同一人物だとバレない為に私も同行しなければならない事だ。
だが、これは伯爵領を掌握し、ゆっくりと味わい続ける為のスパイスだと言い聞かせ順調に駒を進めた。
そう全ては順調だったのだ。
それなのにある日を境に崩壊する。子爵が1人の人族に手を出して返り討ちにあった。
これは悪を成すことへの抵抗を減らす為に私の"精神体"の一部を纏わせていたことに起因する。それにより後先考えず感情のまま行動するようになるのだ。
それ故に最悪の状況で伯爵夫人が夫を殺すことも起きてしまった。
彼女の考え的には伯爵が死ねば息子が継げるという考えがあるのだろう。
しかしながら伯爵家には優秀な姉がいるのだ。仕方なく、この機会に姉を排除出来ないか手を回してみるが恐らく難しいだろう。
そもそも亡骸が有れば憑依するなり誤魔化しようは有ったものの、例の人族に奪われてしまったようだ。
「これはっ!?」
そうこうする内に伯爵たちへ掛けた〈闇魔法〉が解かれた。少しのキッカケが有れば思い出して色々露呈するだろう。
私はこの場に見切りを付けて逃げる事にした。
一先ずは子爵邸に身を潜めよう。あそこは感情の貯蔵庫兼逃走資金の保管庫としており、屋敷に"精神体"を憑依させ侵入者を排除していた。
「グッ!? アギャアァァァァッ!!?」
逃げ込んだは良いものの、更なる悲劇が襲った。子爵たちに憑依させていた"精神体"が浄化されて消滅したのだ。
本来なら対象が殺されようと"精神体"であるが故に死ぬことのないのだが、〈浄化〉の魔法はそれを可能にする。その結果起こるのは魂の破損。永遠に癒えない痛みと力を喪失する。
「ハァ……ハァ……」
かなり長い時間痛みで意識を失っていた。ダメージにより身体が思う様に動かない。
私は這うように地下へと移動した。そこには悪魔召喚の魔法陣を設置している。
「こんな事に使うとは……」
傷を癒すには魔界に帰るしかない。
魔界に置いてきた力だけを召喚出来ないかと実験していた魔法陣を魔界に帰還する為に使うとは予想だにしなかった。
「効果を反転させる事で帰還できる。ここの書記を書き換えーー」
「〈聖域〉《サクチュアリ》」
魔法陣を書き換えようとした時、外では浄化の光が空から降り注いだ。子爵邸を包み込んだ浄化の光は地下にあるこの部屋まで届いた。
『ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーッ』
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーッ」
次第に浄化の光がおさまった。
あとに残った魔法陣を書き換え様と手を伸ばす人型の灰だけであった。
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