第23話 子爵邸
「大量、大量〜っ!!」
ドロップの山に自然と踊り出す。ミュウと3回くらいクルクルと回ったら落ち着いた。
「これは早速シャロンさんにも見せなければ……っ!!」
そして、急ぎ戻った冒険者ギルド。
「シャロンさん!見て見て大量〜っ!」
「へぇっ?」
カウンターに種の山を築きました。
「……これまた多いですね。必要数は3個で良かった筈なのに……?」
余った分の買取を視野に入れて査定に出す。
「……ミヤビさん。アレはどうやって手に入れた物ですか? 1個以外全てが高品質な種でした。普通の方法ではないですよね?」
そしたら個室に連れ込まれ尋問が始まりました。笑顔なのになんか怖いです。
「過去にですね。同じ物が納品されました。それは事故現場に偶然落ちていた物です」
キルリーフに殺された冒険者の傍に落ちていたんだそうだ。
「私が何を言いたいかというと"火"を使いましたか? いや、使いましたね?」
「…………使いましたーーむにゃ!?」
「あれ程、火を使ってはいけないと言ったじゃないですか!! 何をしているんですか、貴方はっ?! 危うく死んでいたかもしれないのですよ?!」
「いひゃいです〜〜」
シャロンさんの視線に耐えきれず暴露すると頬っぺたを引っ張られた。
「それにあの数……言いなさい!何回やったんですか!!」
「ごっ、ごぉかあぃです〜」
「そんな訳ないでしょ!種の数が30個を優に超えているんですよ!!」
『マスターが言ってるのは正しいよ。お試しが1回、検証が3回、再現が1回しかしてないから』
「それであの数なのですか?」
『火力にもよるけど一体からおよそ7〜15個は取れたよ』
「はぁ〜っ、全く貴方と来たら……」
ようやく頬っぺたを離してくれた。
「検証と言いましたね。どうやって採取したのか説明して下さい」
「は〜い」
まずは、お試しで一方面だけと分かったから検証1回目は曲線にした土壁を厚さ5mで用意した。
「んっ?」
「威力が4mを超える種は無かったよ。でも、割れたのが多かったなぁ〜」
検証2回目は厚さ1mの土壁を前後に残し、間を 〈アクアウォール〉による水壁3mに変更した。
「んんっ?」
「水は圧力をかけると土壁みたいに硬くなるし、勢いがおまると種は自然と浮かぶから」
種は地上の野菜と同じ様に水に浮いた。
その為、次の種が飛ばされる前に上へと避難して割れる事はなかった。
「最後に火加減で変わるのかなっと?」
検証3回目は 〈プチファイヤ〉でも倒せる事が分かったから一番使われる事の多い 〈ファイヤーボール〉で燃やした。
「その結果、早くにキルリーフが燃えて種はあんまり飛びませんでした。一番効率が良いのは、〈プチファイヤ〉で燃やす事だね」
『キルリーフごとに種の数も違ったけど、土壁と水壁を組み合わせたら安定して防げるみたいだよ』
「んんん〜〜っ!?」
話を終えるとシャロンさんは頭を抱えているが、これで説明責任は終わりかな?
「待って、色々ツッコミたい所が多過ぎる! 土壁1m? 水壁3m? どこの世界にそんな分厚い壁を出せる人がいるんですか!!」
俺とミュウはお互いを見合った後に指差した。
「『ここ』」
「貴方たちは例外です!!」
あれ? まさか一般の人たちは分厚く出来ないとかないよね?
「普通の人は厚くてせいぜい20cm程です。それに魔力量が足りません」
「そうなのっ?!他の人たちでもできる様に考えた方法なのに!?」
俺たちだけなら水壁のみで十分だった。
マジか……異世界人定番の"俺なんかやっちゃいました?"をリアルにしてしまったのか。
「でも、魔力量はボール系の2つ分くらいだったよね?」
『〈アクアウォール〉なら5個分くらいだったけどね』
「あと、それですそれ! 魔法の名前!! 『ウォーター』じゃなくて『アクア』?」
「魔法はイメージが主体だからそのくらいの違いは全然いけるよ。そもそもウォーターもアクアも言語が違うだけで同じ意味だから」
「…………」
とうとうシャロンさんがテーブルに突っ伏した。
なにか問題になる事でも俺は言ったかね?
とりあえず、帰ったらノアとかカノンとかが出来るようにしよう。そうすれば問題ないよね?
『マスター。面白い称号が増えてますよww』
「…………」
正直称号を見るのが怖い。今までも見ない様に避けていたくらいだ。あまり増えていませんように!!
称号:世界を渡りし者、創造神の寵愛を受けし者、永遠のショタ、豊穣神の夫、ショタコンキラー(笑)、聖槍を生やし男、搾り取られし者、白濁100回達成者、女神を白に染めし男、夜の覇者、絡繰技巧師、夜の女神に勝ちし者、神々に同情されし者、殲滅者、スケコマシ、撲殺聖女、一攫千金、触手マスター
そして、新しい称号がここに加わっていた。
【キルリーフ炎上事件】
火気厳禁のキルリーフが大量に燃やされる事件が発生。犯人は種欲しさに燃やしたとのこと。(人類初称号により特典:植物系魔物への特攻付与)
「……これは喜んで良いのか?」
植物系魔物への特攻は嬉しいが、これは称号なのか? 称号なんだよな? ニュースのタイトルみたいだけど?
「よし、俺は何も見なかった」
もう帰って寝よ。寝て忘れるんだ。
「はぁ〜っ、……近々護衛依頼がくるので本当に気をつけて下さいね。それから帰る前にコレを……」
帰り際にシャロンさんから手渡されたのは何処かの鍵と1枚の地図が書かれたメモ。
「それは子爵邸の鍵です。売却が終わりましたのでお返しします。でも、本当に良かったですか? 調度品を売り払った代金を我が家の建築費用に回して」
「元々壊したの俺だから……」
罪悪感もあって、子爵邸にあった物を全てを売り払い建築費用に充てて貰った。
「それにあんな事があったから……」
「そうですね。私も忌避感から関係ない物も処分したかもしれません」
「まぁ、もう大丈夫でしょ。有難く使わせて貰うよ」
俺はメルディンでの家を手に入れた。
でも、忘れる事はないだろう。あの地下での事を……
それは伯爵殺害の騒動が落ち着き、報酬の子爵邸を確認しに行った時のことだ。
「ここが子爵邸です」
「うわぁ〜……」
案内されたのは成金趣味全開のお屋敷だった。
しかも全体的にモヤッてる。これはあの二人からも感じた呪いとか怨嗟とかそういったものだ。
とりあえず、浄化だ浄化だ。範囲が広いし《聖域》で良いや。
「〈
"ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ーーッ!!"
モヤが集まって顔っぽいものになったけど、空から降り注ぐ光のベールに包まれて消滅した。
「……今、なんか居ませんでしたか?」
「気のせい。気のせい」
怨霊のようなものなんか居ませんでした。俺たちは何も見ていません。
何事も無かった様に屋敷へと入る。
中の造りは伯爵邸とそんなに変わりがない。
どこの貴族もこんなもんだろうか?
「うん、気のせい!」
さすが子爵、期待を裏切らない。
廊下に並ぶは調度品の数々。無駄に多いし、統一感もない。良い物だから自慢したいという意志だけを感じる。
「これは珍しい。"闇"の勇者のデッサンですか。こんな貴重な物まで叔父様は持っていたんですね」
うん、勇者の絵って言った時点で予想してた。
某ゲーム3の主人公じゃん! しかもエロ漫画に良く登場する人!!
「……売れます?」
「勿体ない!これは絶対残すべきです!!」
俺としては残したくないんだよなぁ……
いや、悪くは無いんだよ。槍を構えたポーズだし、綺麗なタッチで描かれたデッサンだから飾っていても問題ない。
ただ同人誌を知る人が見れば、ヲタクの熱意を感じるんだ。ピンクな方で。純粋に俺が穢れているだけかもしれないけど。
「彼はずっと絵をひた隠しにしており、死の間際に多くの絵を燃やしそうなのでそんなに数が残っていません。その理由はこの絵のモデルが奥さんであるエルフだから恥ずかしかったのだと噂されています」
多分違うよ、黒歴史が見られたくなかっただけだよ。死の間際に思い出して急いで燃やしたんだと思う。
「しかし、特徴的な耳がないのでこれは別人ではないか、もしくは彼女が人だったらとの想いが込められているのではないかと言われています」
めっちゃ熱弁しますやん。これは伯爵邸にあげるとしよう。飾るもよし、売るもよし。それは其方にお任せします。
「……ねぇ、シャロンさん。今まで〈火〉〈水〉〈闇〉の勇者は聞いたけど他にもいるの?」
「はい? いますよ。基礎属性の数だけ〈風〉〈木〉〈土〉の勇者がいますね」
「あれ、〈光〉の勇者は?」
「……人と共存派の魔王を殺して、自分が魔王になりました」
光の勇者に何があったの!!?
「おや?」
なんか隠蔽の魔法が掛けられた部屋を見付けたので〈ディスペル〉する。
「ん? そんな所に扉なんて有りましたか?」
「隠蔽の魔法が掛けられていたよ」
「あやしいですね。調べてみましょう」
扉を開けると地下に続く階段があったので降りる。
「ーーーーっ!?」
シャロンさんが息を飲むのが分かった。何故なら自分も同じ気持ちだからだ。
血で描かれた魔法陣に本棚に置かれたビンに入った臓物。端にある檻には白骨化した動物の死体まであった。人の死体がないのがせめてもの救いだ。
「悪魔召喚の儀式……」
〈鑑定〉により魔法陣が悪魔召喚の為のものだと分かった。
召喚って神々のタブーじゃなかったっけ?
イシスに禁止されてるって聞いた気がするんだけど。
「この服はリゲルのっ!?」
シャロンさんが見付け服から灰が流れ落ちる。
……よく見ると灰が人型を取ってないか?
名称:上級悪魔リゲル
説明:聖域に巻き込まれ浄化により死亡した。ざまぁ(byイシス)
〈鑑定〉の結果がツッコミ所満載だね!!
「あ〜っ、その、シャロンさん? 凄く言い難いこと有るですけど……言っていい?」
「……何でしょう」
そんなに警戒しなくてもいいのに……
一体誰のせいだ!!(ミヤビのせいです)
「実は偽弟ことリゲル君なんですが……その灰です」
「はい? ……灰?」
シャロンさんが足元の灰へと視線を落とす。
「その灰がですね。偽弟君こと【上級悪魔】リゲルの亡骸です。俺の神聖魔法〈
「………」
「………」
「…………もう帰りましょう」
シャロンさんのキャパがオーバーしたみたいです。
直ぐに部屋を片付ける。
魔法陣は魔力に触れると発動しかねないので物理的な破壊が必須。メイスで陣をしっかり壊した後にやっと魔法で処理できた。
臓物と白骨化した生き物は灰のある場所に集め 〈蒼炎〉で跡形もなく焼き尽くした。
「〈ガイヤコントロール〉!」
最後は土魔法で地下を埋め潰して存在を抹消。
扉を後日取り外すことにして、屋敷を後にした。
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