第21話 撲殺シスターズ

「警告する!第一発見者であるミヤビ・カミシロにはリュミエール伯爵殺害の容疑がかけられている。大人しく引き渡せば、汝らの隠匿罪には目を瞑ろう」


子爵と伯爵の両兵は教会を包囲するも光の壁を越えられず、降伏勧告しか行えない。


「嫌です! ミヤビさんがそんな事する筈が有りません!」


「どうせ、子爵が何かしたんでしょ! なんで、子爵領の兵士が混じってるんですか?!」


「そうだそうだーっ!!おかしいぞーっ!!」


「文句があるなら超えてみろ!!」


「貴様ら、こちらが下手に出れば図に乗りおって!!」


シスターたちに降伏する気はないので膠着状態に陥り、光の壁を挟んで罵り合いになっていた。


「聞き捨てならないね。一体、誰が殺害されたって?」


「ん?……貴方様はっ!?」


シリウスさんの登場にどよめきが走った。

なんせ、死んだとされる人物が堂々と歩いて来たからね。


「やぁ、コリントン。君は子爵領の兵士なのに誰の許しを得て我が領の兵たちを率いているのかな? 答えなさい」


「貴様らぁぁっ!!やっていいことと悪いことがあるぞ、亡者を愚弄するとは!!」


「ほお、私が偽物で有ると言いたいのかね?」


うわっ、めっちゃキレてる……


お願いだから落ち着いて!血圧上がって倒れちゃう?! 後ろから魔法で支えてる俺の身にもなって!!


「突然だ。伯爵様が死んだのを私はフラン様たちと確認している」


「それはおかしい。君たちの言い分だと第一発見者はミヤビ君なのだろ? 彼は私を治療する為に一緒に連れ出している。それを確認するとなるとフランに刺された直後ということになるのだが……どういう事だろうね?」


「うぐっ……」


「お父様の証明が必要なら私がしましょう。この方は父親であるシリウス・リュミエール・メルディン本人である事をシャロン・リュミエールが宣言致します!」


シャロンさんも登場してシリウスさんは本物で有ると宣言した。


「なっ、なぜシャロン殿がここに!? 賊に捕まったはず!!」


「賊ですって? 貴方たちの攻撃から守っていてくれたにすぎません!!」


「君の事だからシャロンすらも信じられないのだろ? だから、確実な物を見せてあげよう。ギルドカードを知っているかね? アレは体液を落とす事で隠された内容を表示する」


シリウスさんが懐から取り出したのは豪華な装飾のされた短剣と1枚のカード。


「この短剣も証明になるだろうけど、本命はこのカード【貴族証】さ。これに当主の体液を付けると……この様になる。私がシリウス・リュミエール・メルディンだという確固たる証明になったよね?」


シリウスさんがカードに血液を付けると、何も描かれていなかった背面にリュミエール家の紋章が表示された。


「あっ、ああっ……」


貴族証の秘密を知らなかったのかコリントンは狼狽えている。


「我が領兵たちよ。目が覚めたな? 我が命に従い子爵領の兵たちを拘束せよ。抵抗するなら攻撃して構わん」


「くっ、こうなったら徹底抗戦するまでだ!今の兵力差では拘束する事は出来まい!!」


確かに伯爵領の兵たちは全体の3割程しかいない。直ぐに取り囲んでくれたとはいえ、この人数差はどうしようも無い。


でも、お忘れじゃ有りませんかね?


この場に対多数戦闘が出来る人間がいる事を。


「ミヤビ君、手伝ってくれるかな?」


「お任せ下さい。ちょうど1箇所に集まってるから余裕です。無力化するので拘束はお任せします」


知った時からずっと言ってみたかった重力魔法が有るんだよね。


「〈グラビモス〉!」


モンスターじゃないよ、技名だよ!!

Mostから来てるんじゃ無いかな……?


「ぐがっ、ぐぐぅぅ〜〜〜っ!!」


敵さんの大将を中心にごっそり潰せました。俺の前で集まる貴方たちが悪いです。


新しい重力魔法は効果範囲も圧力も段違いな為、一部は気絶した方もいらっしゃいますね。


「は〜い、メイスを持って下さ〜い!」


持ってない人には俺の予備を渡してあげる。


「それでは皆さん一列に並んで並んで〜。後は……分かるね?」


「「「「「…………」」」」」


俺の試合を思い出したのか、無言でメイスを構えるシスターズ。


「おい、貴様ら何をするつもりだ?!」


「それでは前から順番に解除していきます。浮かび上がらなかったら気絶してるからスルーでよろ〜」


それでは蹂躙を始めよう。

真っ先にやり始めたのはシスターズ。


「よくも売女って言ったわねっ!!」


「ブスって言ったな、死ね!!」


「誰が貧乳だ、コラッ!!」


「影が薄くて悪いかぁーーっ!!」


どうやら待たせる間に色々あったらしい。シスターたちの怒りがメイスに乗っている。

死ねって、間違って殺してないよね?ね?

ほら、領兵さんたちが困惑しながら拘束しているよ。


「粛清!粛清!粛清!」


ノアだけ別ゲームでもしてるのかな?

俺たちがバッティングセンターだとしたら彼女はモグラ叩きだ。テンポよく次から次へと吹き飛ばしていく。


「シャロン……目をキラキラさせても参加させないからね?」


「えっ……?」


武器が傷んだ時用に置いていたメイスを持ったシャロンさんが残念そうにしていた。


「あの……シリウス様。申し上げます。拘束する人数が足りないので他から呼んで来ても宜しいでしょうか?」


「確かにこの人数だからな。多分衛兵たちも困惑しているだろうから説明して手伝わせなさい。後、部隊の一部で彼らを闘技場に移動させなさい。そこを仮の収容所とします」


「承知いたしました」


子爵の兵隊の処置も決まったみたいなので作業ペースをあげた。


ぴぴるぴ〇ぴるぴぴるぴ〜♪


「これでラスト!」


「きゃん!?」


最後の一人を仕留めて周りを見渡す。みんな返り血を浴びてるけど、凄くいい笑顔をしていた。


「皆さん、お疲れ様でした!」


「「「「「お疲れ様でした!」」」」」


「〈クリーン〉!」


締めの挨拶をしてみんなの返り血を魔法で落とす。


メイスを回収するよ。えっ、気に入った?


何故か、皆さん気に入ったようなので仕事の報酬としてメイスを進呈することにした。


「疲れたけど、スッキリした〜」


「汗かいたしお風呂入ろう〜」


「掃除住みで何時でも入れるよ」


一仕事を終えたシスターたちはお風呂に向かった。

でも、俺たちにはまだやる事がある。








「往生せいやーーっ!!」


「「ひぃいいいいっ!!?」」


メイスの一撃で床が爆ぜた。子爵と元伯爵夫人は必死に避けて床をゴロゴローー。


「あっ……」


「「えっ? ーーごはっ!?」」


既に空いていた床の穴から下の階に落ちた。大人の鬼ごっこはまだまだ続くよ。


なんでこんな事をしてるかって?

教会襲撃から色々あったんだよ。


まずは領邸に向かう間に残っていた子爵の兵たちが襲いかかってきたので、昨日の祝勝会の後にダンカンから購入した新装備。


「メリケンサック〜!」


で、殴って殴って殴りまくった。

小さいけど拳もいける事が十分アピール出来たと思う。


そして、領邸に到着するとーー


「んんん〜〜っ!? なんで、壁に大穴が開いているのかな?!」


「あっ、やべぇ……」


子爵たちを脅した時のやつだ。まさか、外から見るとこんなに壊れているとは思わなかった。


シリウスさんに事情を説明。


「う〜〜ん、よし。子爵に払わせよう」


老朽化していたし、この際に立て替えるとの事なので、可愛くおねだりしたら好きなだけ壊して良いと言われた。自分の可愛い容姿にこの時ばかり感謝した。


「でも、調度品はできるだけ回収してね」


建物はいくら壊しても良いけど、"調度品の回収"をという条件が付いた。

でも、危険を避けれるなら避けるべし。鬼ごっこ前に部屋ごと調度品をアイテムボックスに収納したよ。


更に2人が外に出られない様に建物周りの草木を 〈植物魔法〉で活性化して窓や出入口を塞いだ。


一部草木が部屋を貫通したのもあって足場は悪く、明かりは隙間の木漏れ日だけで薄暗い。ホラー感が増した。


そして始まる大人の鬼ごっこ。さながら気分はサイ〇ントヒルの処刑人です!


「うぎゃあぁぁっ!?」


大ケガさせても大丈夫! さっと回復させてリスポーン!!


なお、治療中は眠らせているので正夢悪夢と勘違いする様だ。


「私は悪くない! 私は悪くない! 私は悪くない!」


元伯爵夫人は壊れてしまった。

うわ言の様に自分を擁護する言葉を繰り返している。なんか黒いモヤッぽいのも出てたので〈浄化〉……したら気絶した。

目覚めて暴れられても困るので 〈闇魔法〉でサクッと精神を弄って出口にポイッと。シリウスさんたちが無事に回収してくれました。


今度は良い人に生まれ変われよ〜。


憑き物が落ちた様にスッキリした見た目なのが印象的だった。


「子爵様〜。何処ですか〜?」


魔力感知で場所は分かっているので、わざと通り過ぎた振りしてーー


"ドカーーン!"


隣の部屋の壁をぶち抜いてご挨拶。


「見付けたーーっ!」


「ひぃいいいいいっ!!?」


あるときは部屋に立て篭ったりしたのでーー


"ザクザクザクッ!"


扉をナイフで穴開けシャイ〇ニング!!


「くっ、来るなぁああーーっ!!」


顔だけ出すと抵抗されるし、回避が大変なので1回しかしなかった。


それからも大人の鬼ごっこは続きーー


「ほわぁ〜〜っ……」


彼は燃え尽きた。それはもう髪も白くなるくらいにさ。


あっ、また黒いモヤが出てる。浄化浄化。


全くアンタらは色々やり過ぎだから呪われるんだぜ。もっと自分の持ってる物で満足すればいいものを。


お仕置が済んで満足した俺はシリウスさんへ引き渡した。

この後、王都で裁判にかけるらしい。


「それじゃあ、壊しま〜す」


建物を安全の為に結界で覆って〈風魔法〉で裁断し、〈水魔法〉で乾燥、最後は〈火魔法〉でファイヤー!


あとに残ったのは綺麗な更地と灰の山。我ながら良い仕事をしたもんだ。


これにて一件落着。


「そういえば、息子さんを見なかったけど大丈夫ですか?」


「息子? 私には娘しかいない筈だが……?」


「いや、まぁそうでしょうけど。奥さんの托卵息子の事ですよ」


「…………んんっ!? なんで、いない筈の息子の記憶があるんだ!?」


何故か困惑し始めたシリウスさん。


「シャロン。弟を覚えているか!?」


「弟? 私は一人子の……っ!? 居ました!? リゲルという子がっ!!」


何やら不穏な空気を匂わせる幕切れとなるのであった。

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