第20話 蘇生

神聖魔法 〈蘇生リザレクション

それは神の奇跡と言われる1つの極地。怪我や状態を癒し、死者を蘇生させる事が出来る。


「もちろん、デメリットは有る」


・死後から6時間経った

・寿命で死亡した

・肉体が残っていない

・魂が生きる事を諦めている


この場合は魔法が成功したとしても蘇生する事は不可能だ。


「〈鑑定〉の結果、まだ蘇生可能時間内である事は確認済み」


「ですが、〈リザレクション〉は魔法レベルが最大であってもその成功率がとても難しくーー」


「そう、そこなんだよ!」


何故、蘇生が最高難易度に位置しているのか?


成功率が低い? 魔力量が足りない?


本質はそこではない。怪我や状態異常を一緒に治す事にある。


「不思議に思わない? 蘇生と言うのに身体の怪我や状態異常は全て癒えるんだよ? これは蘇生させる時に身体のダメージが残っていれば、また直ぐに死亡する事になるから先に治しているんだ。それに健全な身体でないと魂を定着させる事が出来ないらしい」


魂は健全な身体の状態を取っているから定着させる時に不一致が起きる様だ。


「つまりは〈リザレクション〉について簡単に説明すると〈エクストラヒール〉などの回復と〈キュア〉などの状態異常回復に"魂の定着"を加えた複合技って所だね。だから、先に身体の回復を施し魔法を使うと?」


「蘇生が可能だというのですか!?」


「正解!」


魔法講座の時に疑問に思って魔法神〈イシス〉に尋ねてお墨付きを頂いている。


「とはいえ、魔法レベルが低いから魔力によるゴリ押しは必要となるので、ノアの杖を貸して欲しいだ」


「なるほど。では、直ぐに行いますか?」


「その前にシャロンさんの身を確保しようと思う。このままでは彼女にも危険が及ぶかもしれない。今なら向こうが行動する前に先手を打てる筈だ」


領主の館は冒険者ギルドから離れているし、俺が転移で移動したから向こうは混乱している筈だ。


「分かりました。私がシャロンさんを呼んでくるので、ミヤビさんは蘇生の準備をしていて下さい」


「ノア、ミュウを連れて行って!彼女がいれば転移で直ぐに戻る事が出来る。それに下手したら俺よりも強いよ」


『ミュウちゃんの出番です! 護衛なら任せて!』


ノアたちが去った後、騒ぎにならない様に自室にしている来賓室でシリウスさんを取り出す。


流れる血は生温かく、体温もまだ残っている様だ。死亡した原因は正面からの刺殺のみでその他の外傷は見当たらない。


「〈ハイヒール〉〈キュア〉」


死んでいるとはいえ、回復魔法により傷はしっかりと癒えた。毒以外も警戒した全ての状態異常解除を施した。


「これ、魔物にも効くのかな?」


魔力を温存する為、魔力回復薬を飲みながらそんな事を思った。


もしそれが可能で有れば、素材の状態をワンランク上にする事が出来て報酬金額が増える。


今すぐ試してみたいがそんな余裕は無い。残念ながら次回の楽しみに取っておくとしよう。


「こっちは終わったけど、ノアたち大丈夫かな?」





Sideノア


「シャロン!シャロンは居ますか!!」


冒険者ギルドに駆け込み、シャロンの名を呼びながら受付へと向かう。


「シャロンさんなら先程帰られましたよ?」


「っ!?」


『ノア!シャロンはまだお屋敷に着いてないよ!! 今なら空間を接続出来る!!』


「本当ですか、ミュウ?!」


『でも、帰りは魔力が足りなくて難しいかも……』


「今はシャロンさんの確保を優先しましょう。人目が有ればそう簡単に手が出せない筈です」


『分かった!〈転移〉!!』


浮遊感と共に視界が一瞬で切り替わる。ここは領邸にほど近い大通りの様だ。


『ノア、あの馬車だよ!』


「シャロン!そこの馬車止まって下さい!!」


"ヒヒィーーン!"


馬車の前に身を乗り出すと馬が驚いて嘶き馬車が急停車した。中からはシャロンが慌てた様子で顔を出した。


「ノアさん、危ないじゃないですか!!」


「謝罪なら後で行います!今はそれ所では有りません!今、領邸に戻るのは危険です。教会に来て頂けませんか?」


「何があったのですか? 突然そんな事を言わーーきゃあ!!」


「待ちなさい!」


突然、また走り出した馬車。どうやら御者は子爵の手の者らしい。


「弁償代は配当金から必ずお払います!」


《身体強化》《風魔法》


アイテムボックスから愛用のメイスを取り出し、身体強化に風魔法で補助を行い馬車へと追い付いた。


「ハァーーッ!」


「えっ……ごぎゃあああ!?」


馬と馬車の連結部分を粉砕し停車、その余波で御者は吹き飛ばされていった。


「いたたたっ……」


「大丈夫ですか?〈ヒール〉!!」


「ありがとうございます。それで一体何が?」


むっ、不味いですね。もうこちらへ来てしまいますか。


「時間がないので走りながら説明します。とりあえずは、後ろを見てください」


「えっ、何で叔父様の兵たちがっ!?」


「先程シリウス様が殺害されました」


「ーーっ!?」


「ですがご安心を。ミヤビさんが蘇生の準備を行っています」


「ちっ、父は助かるのでしょうか?!」


「それは神の思し召しとしか……でも、ミヤビさんならやってのけると信じています」


『不味いよ、ノア!向こうが気付いてスピードを上げてる!!』


「……転移はまだ無理そうですか?」


『無理……かな? アレは魔力をバカ食いするから』


「不味いですね。どうしましょうか?」


「でしたら大通りを封鎖する事は出来ますか? 資料で確認しましたが〈ストーンウォール〉でオークの集落を囲い込んだ時の様に」


『ああ、なるほどね。領主の娘が許可したのなら誰も文句は言わないでしょ!〈ストーンウォール〉!!』


高さ5mの土壁により大通りが封鎖された。


「これで教会までは小道を行くか大きく迂回するしか方法は有りません。追手の数を少なく出来る筈です」


「追手が来たら私たちが対処します」


『それじゃあ、教会までレッツゴー!』


シャロンと合流した私たちは教会を目指して駆け出した。






Sideミヤビ


「……うん、分かった。ありがとう」


ミュウからの念話でシャロンさんと合流出来たことが分かった。

しかし、追手がここまで近付いている様だ。


「我を害するモノ、望まぬモノ。これら総てを拒絶する。〈聖域サクチュアリ〉」


空から降りた光のベールが教会を包み込んだ。


「えっ? ナニナニ? 何が起こっているの!?」


「うわーっ、綺麗い!」


ちょうどタイミングよく帰ってきたカノンたちは光のベールを問題なく通り抜けた。


これならノアたちも通れそうだ。問題は拒絶する人たちだけど確認出来ないんだよね。発動してるから大丈夫だと思うけど。


「ミヤビ、これ結界? 通れたけど?」


「……驚かないんだな」


「その状態のこと? ミヤビが怪我するとかイメージが全然わかないし。それどう見たって返り血でしょ。血くらい治療で見慣れているわよ」


「そうか。なら全員こっちに集まって。現状を説明するから」


「……それで何が有ったの?」


「シリウスさんが刺殺されて死んだ」


「「「「はっ?」」」」


「その犯人を捕まえる為に子爵が挙兵。ちなみに奴ら曰く犯人は俺らしい」


「「「「いや、待って!」」」」


「そして、シャロンさんもピンチ。ノアたちと一緒に子爵の兵に追い掛けられてる」


「「「「待って待って!」」」」


「でも、大丈夫。シリウスさんは蘇生させたら万事解決!……たぶん?」


「「「「情報量が多過ぎる!!」」」」


「たぶんって何? そこは自信を持って!! そもそも《リザレクション》を使えるのっ!?」


「今までに2人しか使い手のいない超高等魔法ですよ!!」


「いやいや、ミヤビ君でもそれは無理じゃないかな?」


「使える。ちゃんと準備も出来てーー」


「ミヤビさーーん!!」


ちょうどノアたちが姿を現した。後ろから兵士たちも追い掛けて来ているが


『《エアハンマー》《アイスロック》!』


ミュウによって吹き飛ばされたり拘束されたりして動きを封じられている。


「危ない!《プロテクト》!!」


ミュウを半透明の障壁が包み込み、迫り来る矢を全て弾いた。


ミュウに弓を放った奴らは全員プチッと刑に処してやる。


空間魔法 〈ワームホール〉


十円玉サイズの穴を作り、彼らの首筋に接続。ノアが用意した毒針ver.2を突き刺した。


"ギャアァァーーッ!!?"


「3人共、今がチャンスだ!ベールの中に駆け込め!! 奴らは入って来れない」


流れ弾の魔法と弓を防ぐ事が確認出来たから侵入も出来ない筈だ。


『ふう〜っ、危ない危ない。ありがとね』


「はぁはぁ、聖域ですか。さすがです。ミヤビさん」


「ぜぇぜぇ、話は聞いてます。それでお父様は何処に?」


「こっちだよ。他の皆はここをお願い。万が一、突破したり侵入されたら降伏して良いからね」


あとを皆に任せて、シリウスさんが寝かされた来賓室へシャロンさんを案内した。


「ーーーっ!!」


死んだ父親を見て彼女は唇を噛み締めた。


「それじゃあ、始めるよ。

生命神〈イシュタル〉に乞い願う。

終わり逝く者に再び生命の灯火を。

不変なりしその理を我は否定する。

御身の名の元に迷える魂を救済し、

空の盃へと導き給え。

蘇生リザレクション〉!!」


『まっ、か、せ、な、さーーい!』


「…………」


遠くでイシュタルの声が聞こえたけど気のせいだろう。

取り敢えず、帰ったら無茶ぶりされるかもしれないが蘇生の対価だと思い甘んじて受け入れよう。


「これはっ、成功ですか?!」


淡い金色の光がシリウスさんを包み込んで消えた。


「ううっ……、ここは?」


「お父様っ!!目を覚まされたのですね!!良かったぁぁ……」


「シャロン……?」


突然泣き出した娘にシリウスさんは困惑している。


「どうも、伯爵様。いきなりで悪いですが、何処まで覚えていますか? 俺が領邸に伺ったのは知っていますか?」


「ミヤビ君?……確か君が来たと報告を受けたが仕事で手を離せず少し待って貰い……そうだ思い出した。待たせている間に最後の挨拶だと部屋に来たフランに刺されて……」


なるほど、通りでタイミングが良い訳だ。扉の裏にでもいたかな?


「私は死んだ筈じゃなかったかな?」


「蘇生しました。お陰でマジックポーションをガブ飲み。お腹がたぷたぷです」


「ありがとう、文字通り命の恩人だ。ポーション代は後で請求してくれ。しっかりと払う。それで今はどうなっている?」


「……お父様、心して聞いて下さい。お母様たちの陰謀によりミヤビさんが伯爵殺しの濡れ衣を着せられています。その為、子爵の兵と我が領の兵が彼を捕まえようと教会に押しかけているのです。お父様が言えば兵たちは引くでしょう」


「相当マズい状態だね。分かった。兵たちの説得は私がしよう」


「それでは肩を貸します。傷は癒えても流れた血は直ぐに戻りませんから」


「私も支えます」


「ありがとう。助かるよ」


シャロンさんと一緒に肩をーー。


「…………」


「むっ、無理しなくて良いからね」


「はい、私だけでも支えられます!!」


届かなかったよ、ドンチクショーー!

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