第19話 暗殺

「それではミヤビさんの勝利を祝して乾杯ーー!!」


「「「「乾杯!!」」」」


今日だけは教会といえども無礼講。庭にテーブルを出し、関係者を集めて宴会に突入した。


「ミヤビ、どうしよう!配当金が凄い事に……!!」


「おっ、賭け金の話? 幾ら貰った?」


「……貰ってない」


「えっ? そんな事有るのか? 公式賭博だったよな。一緒に文句を言いに行くか?」


「うんうん、そうじゃないの。配当金は金貨18枚だったけどーー」


「用意していた金貨が足りなかった様です。代わりに商業ギルドで交換する割札を頂きました」


飲み物を持って来たノアが教えてくれた。


「あっ、それは……」


「俺たちが原因かもしれないな」


『金色のお山が出来ました♪』


試合が終わって直ぐ、モルドと合流して配当金の回収しに行った。

俺が金貨120枚で、モルドが金貨240枚。そして、ミュウが一番ヤバい。今までの全財産を賭けたから金貨600枚を貰い受けていた。

他にも大当たりした人たちが側に居たから用意した金が尽きたのだろう。


「そういえば、ノアもかなりの額を掛けてくれてたな」


「大金貨12枚が確定しました。今日はいつも以上に奉仕させて頂きますね」


「あっ、うん。楽しみにしてる」


他の皆も賭け金の話で盛り上がっている様だ。


「私は金貨12枚〜。こんなに稼いだの初めてだよ」


「貯めたお金から魔導書代として賭けたから金貨30枚。最低半年は遊んで暮らせる」


「しくしく、私は金貨6枚。借金してでも賭けてれば……」


「「いや、借金はダメでしょ!!」」


シスターたちもしっかりと懐が潤った様だ。

一人物騒な事を言っていたが大丈夫だよ? 依存症とかにならないよね?


「そういえば試合後に子爵様へ何を言ったの? あの愕然とした顔!!絶対ミヤビが何がしたでしょ?!」


「ああ〜っ、アレか。男だと暴露したww」


「えーーっ、最後まで気付いてなかったの!!そういえば、試合中も『小娘っ!』って言った気がする。でも、それだけで何故?」


「俺が男だと分かっていたら勝負に乗らなかったって事さ。誓約書の負けた場合の条件を思い出してみて」


「負けた場合……ミヤビの結婚と財産の譲渡。あっ、そっか。男同士だからそもそも結婚出来ないのか!」


「しかも財産と言っても貴族の資産よりは少ないし。元々旅人だったから財布とアイテムボックスにある分しかない訳よ」


「うわっ、やっぱりミヤビは詐欺師じゃ!」


「相手が勝手に勘違いしただけだよ。《鑑定》でも使って調べたらわかる事だし」


まあ、ブリギッテ姉さんの腕輪を使う内に覚えた隠蔽で性別表示を変えといたけどね。何度か見られて心配していたけど、まんまと騙されてくれて安心したよ。


ついでに決め手になった重力魔法は、人が見る事は出来ない様に厳重に隠蔽されているので使われる事すら念頭になかった筈だ。


「遅くなりました。ミヤビさん。この度の勝利おめでとうございます」


「シャロンさん!」


「お陰様で父は無事に離婚する事が出来ました。母と弟については後日叔父様の子爵領へと送る事になっていますのでこれから忙しくなりそうです」


「離縁って……本当に良かったのですか?」


「……身内の恥を晒す様で心苦しいのですが、ここだけの話、弟とは血が繋がっておりません。それは父も同じです。この意味はご理解いただけますね」


浮気による托卵か……。DNA鑑定のない世界だから横行してても不思議じゃないよね。


「世間を学ぶと称してギルド職員に扮し、証拠集めがバレない様に信頼する人たちへ指示を出していました」


「だから、伯爵令嬢なのに受付嬢をしていたんですね」


「そして、確固たる証拠を掴んだのは最近の事です。相手は子爵の側近で、弟が継いだ時の相談役と称して傀儡にするのが狙いだった様です」


早く死ねば代官としてって感じかな?

後継者を決めなかったのもそういう事だろう。また、女領主もいなくはないが、なかなか認められる事はない様だ。


「なので、父からも御礼が言いたいとの事で明日にでもいらしてくれませんか? 招待状を持って入れば入れますので」


「分かりました。それでギルド職員は続けるのですか?」


「……少しばかり思いも寄らぬ事を仕出かす冒険者様がいらっしゃるので暫くは辞められそうに有りませんよ」


「そうですか。それは良かったです」


シャロンさんとの雑談を終えて、次はダンカンさんの元へ向かった。


「ダンカンさ〜ん、壊れた」


「そりゃそうだど。あそこまでの力は想定していないど」


「なんとかならない?」


「溶かして作り直すしかないど。棘がボロボロど」


「それなんだけどさ、棘を別に作ってあとから刺したらダメなの?」


元々釘バットってそういうもんだし。

ダンカンさんは俺の提案に目を丸くして、アゴヒゲを撫で始めた。


「確かにそれなら……刺を硬い金属で作り溶接すれば折れる心配は大分減る。試してみる価値は有りそうだど。もし使うなら……」


ダンカンさんは思考の海に沈んだので、違う所に行って祝勝会を楽しんだ。


「ふふっ、今日も可愛がって下さいませ」


「わっ、私は配当金のお礼よ! お礼! やりたくて来たんじゃないからね!!」


『私もご飯の時間! たっぷり食べるぞー!』


夜はノアだけでなくカノンも参加しに来たので夜中過ぎまで全力で戦いを楽しんだ。






翌日。早速リュミエール邸を訪ねた。

シャロンさんに貰った招待状を門番に見せると問題なく屋敷の中へと通された。


「シリウス様の準備が出来るまで少しお待ち下さい」


執事に言いわれてシリウスさんが来るまで来賓室で待機。


「…………」


いや、長くない?

既に部屋へ通されてから一時間近く時間が経過しているが誰もやってくる気配がない。


「実は外出中だったとか?」


伯爵という立場だから色々仕事が立て込んでいるのだろう。暇なだけで支障はなし、このまま待つか。

そう思っていると案内した人とは違う執事がやって来た。


「ミヤビ様。お部屋にて主がお待ちです。直接来て欲しいとのこと」


来賓室で会うと思い気や前回と同じで執務室の方まで来て欲しいと案内された。


「それではこれにて失礼致します」


執事はドアを開けること無く去って行く。

勝手に入って良いのかな?と思いノックするも返事がない。

仕方なくドアノブを回すと開いていたので、怒られたら謝ればいいやと中に入る。


「…………えっ?」


あまりの光景に思考が停止した。

血、血、血、目の前に広がる血溜まりの中、シリウスさんがうつ伏せで倒れたいた。

急ぎ《鑑定》すると状態は死亡。

魔力感知でも何でも使ってもっと前から様子を伺っていれば気付き助けられたかもしれないのにと後悔が襲う。


「なんでこんな事に……?」


"キャアアーーーッ!!"


悲鳴が聞こえて後ろを振り返るとそこには伯爵夫人が立っていた。


「どうしたフラン!」


「シリウスが下賎な冒険者に殺されました!」


「なにっ!? 直ぐにでも我が騎士たちを集め賊を捕まえてみせよう。安心するのだ!!」


「ありがとうございます、お兄様!賊を捉える為の兵に我が領の兵もお使い下さい!!」


それを見て大体の事を察した。なんともいいタイミングで子爵が出てくるじゃないか。


魔力感知で屋敷全体を見渡すと事前に用意でもしなければ無理な人数が集められ周囲を取り囲んでいた。


計画としては伯爵殺しを俺に擦り付けて共に排除。後継者が決まっていない以上はシャロンさんより息子へと権利が回ってくる。その後、シャロンさんを何かしらの形で排除すれば伯爵家の乗っ取りは完了ってところか。


「…………」


シャロンさんの方は大丈夫かな? 今日はギルドで勤務だから冒険者ギルドにいる限り安全だと思うけど。


「はっはっは、バカな奴め! 素直に従わないからこうなる。今度こそ年貢のーー」


「やかましい」


《エアハンマー》


「「がはっ!?」」


殺さない程度に弱めた風魔法で子爵と伯爵夫人を壁に叩き付けた。


"ドゴォーン!!"


それから痛みで怯み壁に寄りかかっている二人の間を蹴り抜き脅す。身体強化してないのに壁が吹き飛んだが今はどうでもいい。


「おい、よくもやってくれたな」


「なっ、何がっ……?」


「それはお前が一番分かっているだろう? 俺が伯爵を殺しても一切メリットがない。むしろお前たちの方に理由が有り過ぎる」


「なっ、この期に及んで罪を否定するのかっ!!」


「誰かどう見てもあなたが犯人じゃない?! 平民と貴族。どちらの意見が信じられると思っていて?!」


もうそれが犯人ですと言ってる様な者じゃないか。


「はぁ、お前という奴は1回殴っただけじゃ分からなかった様だな……。良いぜ、その喧嘩買ってやんよ。その代わり、覚悟は出来てんだろうな? てめぇもだ。伯爵夫人」


「わっ、私が何をっ!?」


「この子爵とグルなんだろ? 側近と浮気して托卵してることは既に聞いてるぜ」


「ーーーっ!?」


「だんまりか……まぁ、良いさ。今から戦争だ。アンタも覚悟だけはしておきな。次は容赦しなし、徹底的にすり潰す」


そう言ってシリウスさんを収納すると俺は空間魔法を使って教会へと移動した。直ぐに目的の人物を探す。


「おや、ミヤビさんお帰りなさい。早かーー血がっ!? ……これは返り血ですか? 一体伯爵邸で何かあったのですか?」


血塗れの俺に驚くノア。しかし、直ぐにそれが返り血である事に気付き心配してくる。


「シリウスさんが殺された」


「っ!? 」


「でも、希望はある。だから、ノアの神器を貸してくれ」


鑑定で見た結果の中に気になる項目が含まれていた。


状態:死亡(蘇生可能時間残り5時間)


「構いませんが、一体何をするのですか?」


「神聖魔法の極地 《リザレクション》 を使う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る