第18話 決闘
決闘当日。この戦いで街がお祭りの様な騒ぎとなった。
会場である闘技場の周辺には屋台が建ち並び、当然ながら賭けも取り行われていた。
ちなみにレートはこんな感じです。
青の聖女 ミヤビ 11倍
ミエーハリー子爵 1.2倍
「…………(ごしごし)」
一瞬目を疑ったが、どうやら見間違いではないらしい。レート差が無いと思いきや倍ですらなく10倍近かった。
俺は賭博のカウンターに向かって賭け金の入った袋をドン!!
「青の聖女に金貨20枚!!」
「こっ、こいつ自分に賭けやがった!?」
「流石に貴族様相手は無理じゃねぇか?」
「彼女は実は冒険者って話だぞ……?」
「でも、相手はあの子爵だから卑怯な手を使うのは目に見えてるし……」
さすがに"青の聖女"人気があっても俺みたいな奴が悪名高い貴族相手に勝てると思っていないらしい。
「おうおう、何だい? 誰も賭けねえのか? だったら俺もミヤビに賭けるぜ。俺はコイツに期待してるからな。倍の金貨40枚だ!」
「モルド……」
決闘を見に来たらしいモルドが金貨の詰まった袋を2つ置いた。
「……お前の実力は職員なら当然知ってるからよ。賭けるわな。でも、正式な職員は賭けに参加出来ないから俺が集めてきた訳よ。それよっかアレは良いのか?」
「アレ?」
モルドが指指した方を見ると隣でノアたち賭けていた。
「ミヤビさんが子爵に負ける筈が有りません!大金貨2枚!!」
「うわぁ、ノア様金持ち……。私もミヤビに賭けようかな? ギリギリ金貨3枚?」
『ミュウはお小遣い全額プッシュです!!』
「私たちも賭けようかな? お風呂とか作って貰ったし」
「魔法も教えて貰ったしね。魔法書買うなら最低金貨5枚くらいだよ」
「私、そこまでお金貯めてないよぉ〜。金貨2枚がやっとだよぉ〜」
「お、おおっ……」
職員さんがあまりの賭け金に引いていた。一番ドン引きしたのはノアに違いない。
「そんじゃ、俺も俺も!銀貨5枚!!」
「聖女様には世話になったし賭けようかね。治療費の銅貨10枚」
「おじちゃん!青の聖女様にお小遣いの銅貨3枚!!」
ノアたちやシスターたちが賭けたのを皮切りに老人や子供まで俺に賭け始めた。
何処かで見たなと思っていると会話から俺が治療を施した人たちだった。
「青の聖女様頑張って下さい!!」
「負けないで!!」
「応援してるよ!!」
「ありがとうございます」
応援を受けながら控え室へと向かう。
結局、大量に集まった賭け金で再度計算されるとレートは6倍まで引き下げられていた。
「う〜ん、ここまでするか?」
ノアの忠告を受けて、色々な物を《鑑定》すると酷い有様だった。
ドアノブや備え付けのドリンクに一度の毒消し《アンチドーテ》では完全に消しきれない程の毒が使われていた。しかもそれが遅延毒だから恐ろしい。
「ミヤビさん、時間のようです」
ノアの案内で会場へと入る。全ての席を埋め尽くす様に人で溢れ、立ち見の人たちもいた。
そんな会場の中央にシリウスさんとスルトさんが立っていた。
「お疲れ様、準備は大丈夫かい?」
「問題ないです。スルトさんも来たんですね」
「面倒くさい事に俺が公証人なんでね。向こうはまだ来てないがもう先に書いちゃってよ。シリウス様もです」
俺は誓約書を受け取り署名した。隣ではシリウスさんも離縁届に署名し、スルトさんに渡していた。
「おい、子爵様が来たぞ!」
声のした方を見ると、案の定ミエーハリー子爵は大量の人たちを連れてやってきた。
隣を歩くのはシリウスさんの奥さんかな?
子爵は隣に性格のキツそうな女性を連れ添っていた。
「ミエーハリー子爵様。並びにフラン伯爵夫人。誓約書に署名を」
子爵は黙々と署名し、奥さんの方はキッとこちらを睨むと乱暴に署名していた。
「……それでは確認が出来た。そろそろ試合を始めたいと思いますので護衛の方は退場して下さい」
「いや、彼は護衛ではない」
「と言いますと?」
「これは代表同士の戦いと明記されている。つまりここにいる者たちは私を含めて代表の"ミエーハリー特戦隊"だ!」
メンバーはタンク1、魔法使い4、弓兵1、残りの4人は前衛職だと思われる。
あからさまに遠距離から嬲る気が満々だろ!!
あと個人的には特戦隊らしいポージングが欲しかったかな?
「シリウス様?」
「問題ないよ。これは解釈の違いによるものでルールを逸脱した訳ではないからね」
「伯爵様はよく分かっていらっしゃる」
「はぁ〜っ、ミヤビ君もそれで良いのかい?」
「ぷぷっ、問題ないです。むしろ子爵が負けた時の方が楽しみですね。もう街を出歩けなくなるかもしれません」
「小娘っ……!!」
「それでは両者の承認を得ましたので、合図が有り次第試合を開始します」
スルトさんは伯爵夫婦を戦闘区域から連れ出し観客席へと案内。
「今回の戦いについて説明する! 誓約に従いーー」
そして、観客たちに闘いの経緯と勝敗による取り決めを説明した。
「それでは両者は距離を取って! 鐘の合図と共に試合を始めて下さい!!」
スルトが合図を送ると部下の人が"ゴォォーン!"と鐘を鳴らした。
「小娘。貴族を舐めた事を後悔させ、その顔を恥辱に染めーー」
《サンダージャベリン》
「ぐふっ!? ぎゃあああ……!!」
「まず一人。でも、2つも防がれるとは思わなかった」
開始そうそう後衛の3人に向けて放った雷槍の内、1つが弓兵を仕留めた。残りは子爵と魔法使いを護衛していたタンクに防がれてしまった。
「クソガキがぁぁーーっ!しかし、盾で魔法を防げる事は十分に分かった!魔法使いは集まり、盾を前に前衛共はやってしまえぇぇ!!」
かかった!!敵が良い感じに密集してる!!
「《グラビティ》」
「「「「「ーーーーッ!!」」」」」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」」
観客たちが突然地面に倒れ付したミエーハリー隊の面々に困惑した。
前衛と後衛に別れてしまったが、重力魔法で地面に縫い付ける事に成功。
後衛と子爵は起き上がれないが、力のある前衛の人たちは四つん這いになり抵抗している。
「それでは刮目せよ。アイテムボックスから出しますのは〈火〉の勇者が広めたとされる金属バット」
金属バットを前衛の人の前で構えて身体強化を発動。重力魔法を解除する。
「えっ?……ぐふっ!?」
「ホームラン!」
重力に抵抗する為に込めた力の反動で勝手に浮き上がり直立。バットの餌食となって背後の壁にメリ込んだ。
「ありゃ、やっぱり折れたか。なら次はこれだよね? 真打ち登場〜釘バット〜」
「「「「!!!!?(さぁーーーっ)」」」」
アイテムボックスから出した釘バットを見て前衛の人たちが青醒める。
「降参しますか?」
「「「「…………」」」」
「残念です。それじゃあ、誰にし〜よ〜う〜か〜な? 君に決めた!!」
「正気かっ!? お嬢ちゃん、止めっ……へばっ!?」
「ツーホームラン!!(ニコッ)」
今度は血飛沫付きで飛んで行った。
ちょっ、殺傷能力高過ぎぃぃ。そして、また折れた!魔力強化前提の武器だろ!!
身体強化に加えて魔力強化まですると確実に殺してしまうので出来ず、釘バットも真ん中から折れてしまった。
「ぐすん。また使えなくなった……」
「「「ほっ」」」
「なので、次を出します!これなら折れる事は無いよね?」
安心したのも束の間、金棒の登場である。どう見てもこっちの方が危険度高めでヤバい。
「せ〜のっ!!」
「待っ……おがぁっ!?」
「止めっ……ひぎぃぃ!?」
「こう……ほぎゃああ!?」
ぴぴ〇ぴるぴるぴぴるぴ〜♪
殴りながらついついOPを口づさんでしまった。
「……これ楽しいな」
だって楽しかったんだもん。前衛が全滅したので次の獲物を求めて子爵の元へと向かう。
「は〜い、子爵様。ご気分如何ですか〜?」
「小娘貴様っ!! この奇妙な術を解け!神聖な決闘を穢すのかっ!!」
「穢すも何も大人数で来た人が言いますかね? それに魔法の使用許可されてますよ」
「こんなのが魔法である筈がない!!どうせ我らに気付かれるぬ様に毒でも飲ませたのだろう!恥を知れ!!」
「はぁ〜っ、良く見てな。《グラビティ》」
子爵の前の地面が"ボコッ"と陥没する。
「重力魔法。列記とした魔法だよ。使い手はまずいないけどね(重さ追加)」
「アグッ!ググーーッ!!」
「それで皆さんは降参しますか?」
「今だ!焼き殺せ!!」
「「「《ファイヤーボール》!!」」」
"ペシッ"
ファイヤーボールを蚊でも払う様に跳ね飛ばした。
「「「………………えっ?」」」
魔法使いたちが目を点にしている。
「継続の意思は有りますかね? 流石に女性も居ますし、殴る趣味は無いので降参して貰うと助かるのですが、無理そうなら致し方ないので一瞬で楽にーー」
「「「こっ、降参します!!」」」
「おい、貴様ら!それでも冒険者か! 高い金を払ったのだぞ!!」
「こんなバケモノだなんて聞いてねぇよ!!」
「うわーん!無理!勝てない!!」
「死にたくないーーっ!!」
あっさりと子爵は見捨てられて一人になった。
「子爵様。空気投げというのご存知ですか?相手の力を使って投げる技の事です」
「……何が言いたい?」
「つまりはお仕置の時間です♪」
ここはとある観客席。
「なぁ、俺。人があんなに何回も飛ぶなんて思わなかったよ。目の錯覚かな?」
"ポーーン、ドサッ! ポーーン、ドサッ!"
「安心しろ。錯覚じゃない。飛んでいるのは子爵様だ」
"ポーーン、ドサッ! ポーーン、ドサッ!"
もう何回目になるのか、青の聖女様は子爵様を掴み打ち上げては落とし、打ち上げては落としを繰り返している。
"ポーーン、ドサッ! ポーーン、ドサッ!"
「なぁ、子爵様は何で降参しないんだ? もう負けは分かりきっているだろ?」
「多分、風魔法で音を消してるんだ。ほら口は動いているのに声が聞こえないだろ?」
確かに言われて見れば子爵様は口をパクパクされている。
"ポーーン、ドサッ! ポーーン、ドサッ!"
「しかも気絶しない様に手加減している様だ。今、青の聖女様は欠伸してただろ」
「あぁ、確かにーーってメイスを構えたぞ」
"ポーーーーン、バキッ! !"
今までより一際大きく上に投げるとメイス?をフルスイング。子爵様は前衛たちと同じく壁にメリ込み動かなくなった。
「試合終了ーー!勝者ミヤビ!!」
「うぉおおおっ、勝ったぁあああっ!!」
「なんだアレ!? 一方的じゃないか!!」
「きっと神に選ばれた御方なのよ!!」
あちらこちらから青の聖女の勝利を祝う歓声が上がる。
「えっ、レートが6倍で賭け金が銀貨5枚だから……金貨3枚!? 青の聖女最高ぉおお!!」
「きゃああーーっ、青の聖女様!ありがとうございますーーっ!!」
でも、一番盛りがっていたのは彼女に賭け者たちだろう。あまりの金額に支払いが出来ず、商会ギルドでの支払いになった者たちが後を立たなかった。
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