第17話 武器

「今日も多すぎなんだよ、バカヤローッ!!」


もうすっかり日常とかしたベッカルさんの叫びが解体場に響いた。

魔物たちの山が慣れた手つきでどんどん解体されていく。日に日にスピードが上がっているようだ。


「ねぇ、武器を買いたいんだけど何処か知らない? 杖も置いてあると良いな」


「あん? それならーー」


レベルが上がり、お金もしっかり貯まった俺たちは武器屋を訪ねた。


『杖買うの?』


「いや、メイスを買おうと思って」


青の聖女として戦うからにはイメージにあった武器?を用意しようと思った。


お金に余裕が有るなら杖も買おうっと。魔法使いなのに杖が無いのはおかしいし。


「ダンカンさん、いますか? ベッカルさんの紹介で来ました」


「はいよぉ〜。こりゃあまた珍しい組み合わせが来たど」


やって来たの正真正銘のドワーフ。ベッカルさんに良い武器屋を尋ねたらここを紹介してくれた。


「そんでベッカルの紹介? なら、アンタが巷で噂の青の聖女様かど? ベッカルが酒場で騒いでいたど」


「多分そうです。ここなら本命のメイスだけじゃなく杖も売ってるって言ってました」


「杖がメインじゃないど? メイスなら色々取り揃えているど。要望は有るかど」


「片手でも両手でも運用しやすいのがいいですね」


「それなら幾つかある持って来るど」


店の奥から武器が数本入った箱を持ってきた。


「手に取って、軽くなら試し振りして良いど」


「こっ、これは!?」


初めに手にしたのは、銀色をした厚みが均一で細長いフォルムのーー


「お目が高いど。火の勇者様が広めようとされた武器〈バット〉シリーズだど」


金属バット!!武器カテゴリーww


確かに殴りやすいフォルムをしていて、昔のヤンキーが振り回すイメージだけどww


ここはゴルフバットという選択肢じゃない事を素直に喜ぼう。


「でも、すぐに芯が折れるから人気ないど。発展系にはこれが有るど」


多分見なくても分かる。だって、バットを発展させて武器と言えばアレしかない。


「釘バット。……それに金棒」


撲殺天使にでもなれというのかな?


「細い棘を生やした奴ど。正式なのは棘が細くないとイケないらしいのに直ぐに折れるから整備が手間で人気ないど。こっちは邪道で棘を太く、芯もしっかりした奴ど」


金棒って邪道なんだ。俺は1つ賢くなった。

でも、取り回しは良いので普通に欲しいな。


「ーーここまで紹介したけど全部冗談ど。まともな武器じゃないど」


「いや、冗談なんかい!!」


「さっきも言ったど。それらは人気ないから全く売れない不良在庫ど。欲しいなら全部で銀貨4枚。材料費ど」


「買う」


「毎度ありど〜」


ミヤビは金属バット、釘バット、金棒を手に入れた。金棒以外は使い道が無さそうだけど。


「そんで本命は?」


「こっちの奴だど。コイツなら殴って良し、突いても良しど」


紹介されたのはランスに太い凹凸を付けてメイス化させた様な武器だった。片手で取り回せる様にと2m弱と少し短くされている。


試しに両手で振ってみると"ブンッ!"と力強い音とそこそこの重さが有った。素の片手だと触れなくないが、ずしりと重く感じるので軽い身体強化が必要そうだ。


人様がバットシリーズで、魔物用にこのメイスと使い分けるのが良いかもしれない。


「今なら大安売り金貨3枚ど」


銀貨1枚がおよそ五千円で、10枚集めて金貨1枚。それが3枚だから十五万円。そこそこな金額するな。俺の1週間分の治療費と同じじゃん。


「でも、これは絶対買いだな。丈夫そうだ」


ダンカンにお金を払いメイスたちをアイテムボックスへ収納し、店を出る。


「いや〜、良い買い物が出来ーー」


『アレ、杖は?』


ミュウの言葉で俺は急ぎ武器屋に戻り、杖を見せて貰った。

完全に杖の存在を忘れていたよ。


「有るには有るがこんな物ど。うちとは専門性が違うど」


杖といっても棒に魔石を付けただけの簡単な物が殆どで駆け出しが買うものらしい。

魔石を交換する事で付与効果が代わり、長く使える仕様なのだとか。


「じゃあ、オススメの杖を1本」


彼の薦めで買った杖は魔法効果アップ(小)と魔力回復速度アップ(小)が付いていた。


「ちなみに値段はーー」


オススメのメイスが最低3本は買える値段だった。駆け出し様の杖とはこれ如何に?


「剣帯してるし剣も使うど? お金に余裕があるなら良い剣が有るど」


ついでに見せて貰った。魔鉄仕様の丈夫な剣。


「……買います」


「取り回しの良い短刀がーー」


「めっちゃ良いデザイン! 買い!!」


「エルフが作った弓でーー」


「命中補正? 買った!!」


ダンカンはやり手の様で金が有ると分かり、次から次に武器を見せてきた。気付いた時には剣と短刀、弓まで購入してたよ。


ぐすん、俺のお財布はもうゼロよ!!


ダンカンの商売テクニックにまんまとやられたぜ!(単純にミヤビが散財しただけです)


「あっ、ミヤビさん! 例の集落の件でギルドマスターがお呼びです」


まだ残していた魔物を売って資金を調達すべく冒険者ギルドに向かうとシャロンさんに呼び止められ、ギルドマスターに会いに行く事になった。


「いやぁ、良く来たね。君が青の聖女様か。席にどうぞ」


部屋で待っていたのは椅子に座る着崩した赤髪の男性と側に仕えるエルフの女性だった。


「君を態々呼び出して悪いね。面倒くさかっただろ? だから、今回の目的を簡単に言うね。報告が認められたから報酬を支払うよ。あとはランクアップだ、おめでとう!……以上」


「ありがとうございます……?」


「「…………」」


いや、本当に終わりかい!!

横のエルフのお姉さんが頭を押さえているよ!!


「……ギルマス。もう少し説明してはどうですか? 自己紹介すらしていません」


「えぇ〜っ、面倒くさい。ギルマスはギルマスで良くねぇ? あと必要な事はちゃんと言ったよ? 無駄に長話をする事こそ無駄さ」


「長話の中にも得るものはあるのですよ?」


「だるい。めんどい。気力が湧かない。もう寝たい。帰っていい?」


「そうですか。なら、元気が出る様にゴリアス茶を入れますね」


「おおっと、ちゃんとした挨拶がまだだったね! 私はこのギルドでマスターを務める"スルト"という者だ。そして、隣の彼女が副マスターの"ベレッタ"で私の懐刀だ」


「ベレッタです。よろしく」


「青の聖女……いや、ミヤビ君。君は良くやってくれた! お陰で大規模討伐を編成せずに済んだよ。情報の報酬には色を付けるからね!それから小さいとはいえ集落を潰せるだけの実力者を駆け出しのままにしておくのは持った無いから一人前と呼ばれるCランクになってもらうよ。

でも、護衛の経験がないからそれが終わってからだね。とりあえずはDランクとする。

また、これからは指名依頼も来るかもしれないから担当のシャロンと良く相談してね!!」


相当ベレッタさんの用意するお茶を飲みたく無いのか、めっちゃ早口になりながらもしっかりと説明してくれた。


「報酬は受付に用意しているので、帰りに受け取ってください」


「分かりました。それでは失礼します」


「ギルマス。こちらお茶になります」


「ちゃんと説明したよね!? ぎゃあぁぁーーっ!?」


ギルドマスターの悲鳴を無視して部屋を後にした。

ベレッタさんには逆らわない様にしよう。あれはきっと裏ボスとかそんな奴だ。帰る時の圧がヤバかった。


「ただいまシャロンさん。報酬を受け取りに来たよ」


「お帰りなさい。こちらが討伐と情報の代金、金貨10枚です。一部を銀貨で用意しました。それからギルドカードをお貸し下さい。……終わりました。ご確認下さい」


ギルドカード自体は変わっていないがランクがE → Dに変わっていた。金額に問題ない事を確認したので銀貨を財布に入れ、残りはカードと一緒にアイテムボックスへ収納した。


「おっ、噂通り受付に来て見ればやっぱりいたな。よぉ、ミヤビ。今暇か?」


声を掛けて来たのは治療士のモルドだった。


「今日はもう止めたから時間は有るよ」


「そうか、ならバイトの話は聞いたか? 臨終職員として治療室で働くってやつ」


「えっ、誰からも聞いてないよ?」


シャロンさんを見ると彼女も驚いていた。


「ギルドマスターから聞いていないのですか? 私はてっきり既に聞いているものだと……」


あっ、だからお茶責めを食らっていたんですね。


「報酬は冒険者負担金から出るので教会より安いが毎週定額が支払われるぞ。それにギルド職員扱いだから街で色々優遇されるな」


冒険者報酬の一部から税金の様な形で回収しているので、ギルドの治療室は軽い怪我なら無料で行ってくれる。


「う〜ん、どうだろう? そこはノアにも話さないとなんとも……」


ノアや聖女の事で、後々教会所属になるかもしれないんだよね。まぁ、浄化が終わり正常化した後の話になるだろうけど。


「そうか……。気が向いたら声を掛けてくれ。俺がそこの担当者だからな」


「うん、わかった」


冒険者ギルドを後にして教会へと戻る。

道中、3人程追跡者をプチッと刑に処した後、衛兵に引渡しお小遣いをゲット。異世界定番の串焼きをお土産に買って帰った。


翌日も昨日と同じ事を繰り返す。


追跡者 → お手玉 → 魔物 → 追跡者 → お手玉


そんな風に経験値を稼いで過ごし、順調にレベル上げを楽しんだ。

そして、気付けば決闘当日になっていた。

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