第15話 シリウス・リュミエール

なんと冒険者ギルドの受付嬢シャロンさんは、領主の娘であった。

領主様に会うことになったので、ノアを連れ伺う事にした。


「おぉーっ、大きな御屋敷だ!」


教会から馬車に揺られて、大きな屋敷の前に到着。


「これでも貴族にしては小さい方ですよ。土地の関係上、制限がありますからね」


それでも十分だと思うが、王都にある屋敷はこれ倍以上有るそうだ。


「私はこっちの方が好きなんですがね」


シャロンさんに促され進むと執事服を着たドアマンが扉を開ける。


「「「「「おかえりなさいませ、お嬢様。ようこそお越下さいました、ミヤビ様。ノア様」」」」」


ホールに並んだ執事とメイドさんに出迎えられた。


「お父さんはどちらに?」


「現在、執務室にて仕事をしてございます。時間が出来たら呼ぶのできて欲しいとのことです」


「……ちなみにお母様とリゲルは?」


「……お二人共朝に外へ出られたきり、まだ戻られておりません」


「そう……分かったわ。帰ってきたら教えてね」


「畏まりました。それではお部屋にご案内をーー」


「私が案内するから大丈夫よ。さぁ、行きましょう」


来賓室で少し待たされた後、階段を登って2階の部屋へと案内された。


"コンコンコン"


「シャロンです。ミヤビさんをお連れしました。入っても宜しいでしょうか?」


『ああ、入ってくれ』


「「失礼します」」


「(なんとまぁ……綺麗な人が多過ぎない?)」


中で待っていたのは綺麗系のイケおじ。

シャロンさんの年齢を考えるに最低でも40代といった所だろうにそれを一切感じさせる事はない美男子だった。


「待っていたよ。話は既に聞いている。子爵がまたやらかしたんだって?」


「はい、止めに入らねば危うく教会と一触即発になる所でした。今の教会の状況的に行けると思ったのでしょう。一旦引いて貰い、言い分を聞いた上で改めて場を設ける事になっています」


「そこからは私が引き継ぐよ。止めてくれてありがとう。教会だけならまだまだし、下手をすると……」


シリウスさんは俺を一度見てた後、こめかみを押さえていた。


「それじゃあ、シャロン。紹介してくれるかな?」


「こちら冒険者のミヤビ・カミシロさん。教会で"青の聖女"と呼ばれている方です」


「初めまして、ミヤビ君。シリウス・リュミエールです。君の事は竜王陛下より話がきているよ。本当に女の子みたいな子だね」


「お初に目にかかります。冒険者ミヤビです。本日はお時間を頂き感謝します。竜王陛下からというと……」


「うん、君の素性だよ。急で済まないね。本当なら機会を設けてゆっくりと話をしたかったんだけど……そうも言っていられない状況になった。どうやら市井で"青の聖女と子爵の決闘"という話が広がっているらしい」


「なっ、どうして!? そんな提案は有りませんでしたよ!?」


「だろうね。どうも子爵による手回しが有るみたいだが、青の聖女人気が思いの外あったみたいで尾を引いてる。部下の話だと『悪の子爵を聖女様が断罪して下さる!』と聞いたそうだ」


「その決闘は正式なものですか?」


「まだ正式なものではないけど、受けることをオススメするよ。もし受けなければ、そこを足掛かりに名声を落とさんと色々画策するだろう。そういう所だけは上手いんだから」


本当に面倒くさいのに絡まれたな。


「はぁ……まっ、向かって来るなら潰すだけです。レベルは低いですけどやりようは色々有るので」


レベル上限のない存在相手にお墨付きを貰った対策の数々を見せてやるよ。


「ふむ……驚いた。どうやら君は物怖じしない所か、確実に勝てると確信してる様じゃないか」


「あっ、いえ確実に勝てるかは最終的にやってみないとなんとも……」


「あの、条件を絞ればどうですか?」


「条件?」


「場所を指定するとか、人数を指定するとかです。私なら数人同時に対応も可能です」


ノアが強いは分かるがここは男らしさを見せてイメージを払拭したい所だな。


「叔父様は他の貴族以上に名誉を重んじる傾向に有ります。なので、形振り構わずあらゆる手段をこうじてくるでしょう」


「そうなんだよ。お陰でこちらもどれだけの後処理と風評被害に悩まされていることか。切りたくても婚家だから騒ぎになるのは目に見えてるし……そ、こ、で、提案が有るんだけどさ!」


シリウスさんの提案は目を疑うものであった。

でも、正直面白い。負けてもデメリットは殆どなく、勝てば活動の拠点といえる場所も手に入れる事が出来るのだ。






Sideシリウス


「伯爵様!!」


彼らが帰って少しした後、問題を起こした当のの人物を部屋に呼び出した。


「あの不埒な小娘の進捗を聞きに来ましたぞ!!」


「やぁ、ミエーハリー子爵。よく来たね。それにフランもお帰り」


彼の後ろには妻であるフランが付き添っていた。


「……シリウス。何故、小娘一人に手間取っているのですか? 平民風情がお兄様に歯向かったのです。当然処罰するのですよね?」


挨拶も無しか……。それに子爵の擁護するとはな。


「勿論、全面的に私が認められたのでしょうな?」


「子爵。私の方でも調べて見たが、あなたが暴行を振る舞れたという瞬間を見た者は誰一人とていなかった。せいぜい告白の練習を路上でしているのを見た者がいたくらいか?」


「そっ、そんな!? しかし、私の部下が見ております!」


「部下なら口裏合わせをすることも可能でしょう。それに傷はどうしましたか? あなたの部下には治療士はいなかったはず。それなら教会を訪れないとおかしいですよね?」


「それは傷が浅かったから自然に治っただけのこと」


「それで……相手はなんと言っているのですか?」


「残念ながら交渉は決裂でね。やってないと言い張っているのだよ」


「治療士の小娘風情が身の程知らないのか!! 我が愛妾や部下にしてやると言っているのに無下にしおって!!」


「そうです。下賎な身なのですからお兄様に全てを差し出して然るべきです!!」


「まぁまぁ、向こうには冒険者ギルドと教会という大きな後ろ盾がある。それに青の聖女としての名声が思いの外あってね、敵に回すのは得策じゃない。……だというのになぜか貴殿とあの子が決闘することが広まっているじゃないか? 何か知っているかね?」


「「…………」」


「まぁ、良い。お互いの話は平行線でどちらも譲らず、噂通り決闘で決めるしかない流れになっている。だから、私の方で手を打たせて貰った。これは誓約書だ。あの子が決闘する為の条件と勝敗時の取り決めが記載されている」


誓約書

・決闘日時は1週間後

・双方の代表が戦い、気絶するなど戦闘不能になるか降参する、または死亡により決着

・勝敗の結果に関わらず異議申し立てを行わない

・会場は領内の闘技場

・武器、魔法等に制限なし

・故意に負けた相手に攻撃、戦闘区外へ攻撃は禁止。違反時は失格とする。

・勝者は相手が所持する全ての財産となるとのを得る。

・敗北時は以下のものが確定する。

ミヤビ:子爵との婚姻し、部下になる。

子爵:シリウスとフランの離縁に承認、フランとリゲルを引き受ける。


「なっ!? 何故私が離縁などっ!?」


「……なるほど、考えましたな。我を破滅させたいらしい」


「先も言ったが"青の聖女"人気は凄いからね。これで負けようものなら婚家の悪影響が私にまで及んでしまう。それに財産に差はあれど結婚を条件にするからには同等の権利を用意しないとね。だが、残念ながら子爵は独り身なってしまい子供も居ない。なら、私でもって釣り合いを取ろう。……それに私が何も知らないと思っているのかな?」


「っ!?」


「……代表ですが、それはこちらで用意しても?」


代表と記載すればノッてくると思ったら案の定気付いてしまったか。一応、止めたんだけどな。


「ああ、構わないよ。向こうはミヤビ君だ。君も好きにするといい」


「そうと決まれば早速準備をーー」


ミエーハリー子爵は直ぐに踵を返し部屋を去って行った。つられてフランも私を気にしながら部屋を後にした。


「さぁ、ミヤビ君。君に期待してるよ」


彼がどんな手段に出るか分からないが、恐らく勝てないだろう。

私は彼が実験で見せてくれた魔法に思い出し勝利を確信した。

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