第14話 青の聖女

とある酒場にて


「……なぁ、アンタ。この話は知ってるか? 巷で噂の"青の聖女"様の話を?」


「噂?」


「何でも青い法衣を着た別嬪さんが次々に治療していくんだとか!」


「あぁ、教会に来た新しい治療士のことか」


「なんだ知っているのか?」


「知ってるも何も治療してもらった。ありゃあ、将来いい女になるぜ。小せぇ癖して腕前は大人顔向け。片っ端からどんどん治療していくんだからよぉ」


「へぇ〜っ、そいつは凄いや」


「お陰で調子が前より良いたらキリがないぜ。青の聖女様々よ」


と言った風に噂されていた。




また、冒険者ギルドでは


「青の聖女は白い肌に黒髪がサラッとした美少女で……お菓子を食べる時の笑顔がなんとも言えねぇんだ!」


「側仕えしてる奴らも一度見たら忘れられねぇわな。特にシスターの胸がやべぇ……」


「ありゃあ、青の聖女の前にきた"鮮血"のノア様だな。その容姿とは裏腹に鬼人の様な苛烈さを持った御仁よぉ。手を出そうとした奴らが全員血に沈みおった」


「忘れられないといったら、ウチは妖精ちゃんだね」


「そうそう、小さくてめっちゃ可愛いの!」


「はぁ〜っ、青の聖女は周りも話題が欠かねぇようで……」


といった具合に話題の中心になっていた。





そして、とうの本人であるミヤビはというと


「青の聖女? 誰それ?」


そんな噂を知りもせず、教会に入り浸り治療を続けていた。

報酬は良いし、宿を貸してくれる。オマケに治療で微妙に経験値が入ってウハウハだった。


「……誰って、アンタよアンタ」


カノンに言われて後ろを振り向くミヤビ。後ろ所か、周囲には他に人が居なかった。


「まさかの自分だった……」


「そうよ。自覚した?」


「自覚も何も男ですけど!? 君もしっかり確認したよね!?」


ノアとの行為を覗き見していたらしく、後日ミュウとノアに連れられノコノコやって来たので美味しく頂きました。


「ええ、そうですね。お陰で性癖が歪みましたよ。こんちくしょう! ヒールかけても違和感が消えないんだから!!」


そのせいか、タメ口になり距離感もかなり近くなっている。


「まぁまぁ、このお菓子でも食べて落ち着きなよ」


「はむ、もぐもぐーー(パァァッ!)」


お菓子を食べるとカノンの周りにお花が咲いた。


そうだよね。美味しいよね。俺だってそう思う。でも、それがめっちゃ有るんだよ。


横のテーブルを見るとその箱が山のように積みがっている。なんで同じお菓子?


「ごくん。このお菓子どうしたの? ミヤビってぜんぜん外に出てないよね?」


現在、治療は俺一人でも行えるまでに減ったので治療士のシスターたちは全員休暇中。なので診察室にずっと篭っているのだ。


「治療した患者さんに貰った」


「貢がせてるじゃん!?」


「これは御礼御礼。別に態々男だと言う必要無いし、持ってこられたのを拒む理由はないので」


山になりました。しかも花より食べ物が好きと言ったせいで。だって、次から次に花が贈られてきたんだもん。


「うわっ、ぜってぇわざとだ。ひでぇ男だ」


「言ってな。お菓子箱でいる?」


「お菓子に罪は有りません。有難く頂きます」


「どうぞどうぞ。好きなだけ持って行って下さい」


とりあえず、3箱くらい押し付けといた。その他シスターたちの分という事で。


それでも残るお菓子の処理に思い悩む。

ふむ、教会のお茶請けに回すにしても限度がある。残りは孤児院の子供たちへ寄付。それとギルドとの関係を円滑にすすめる為の賄賂という事で受付に流そう。


「まぁ、これ以上贈られてくる事はそうそう無いから良いか。次にいく予定だし」


「次って?」


「患者の数もだいぶ落ち着いてきたから治療士の依頼が終わるんだ。それに合わせて部屋を出ようって話」


「え〜っ、居れば良いじゃん。誰も文句は言わないよ。お風呂だって作ってくれたし。お湯を作る魔法も教えてくれたじゃん」


俺が入りたかったので土魔法を使い、寄宿に隣接する形で何処にある様な露天風呂と脱衣場を作った。


そもそもお風呂が普及しないのは水の用意とお湯を作る魔導具は有るもまだ高く、1回に使う薪代も馬鹿にならないからだ。


なので、生活魔法による〈おヒートウォター〉をシスターたちに教えた。


残り湯は洗濯や畑の水やりに使い、残った分は"水の勇者"が普及に貢献したというしっかりと整えられた下水道へGO。それだけの力が有ったならお湯の魔導具の値段も落としてくれよと思う。


そういえば、トイレもボットンやファンタジースライム便所でなく、普通に魔導具による水洗なのはよくやったと褒めたい。ウォシュレットは流石に無かったけどね。


「依頼も無いのに居座るのは気まづい」


「じゃあ、ノア様の部屋は? 司教様の部屋を使ってるから一回り広いよ」


「色々問題になったら駆け込む」


下手したら宿にもプレゼント攻撃が来そうな気がするんだよな。


「そういえば肝心のノア様を見ないけど?」


「俺の周りで飛び回る羽虫がどうとか……? 誰かさんみたいな覗きか、ストーカーでも絞め行ってるんだろう」


「確かに……影から教会を見てる人とか怖いよね。教えて貰うまで気付かなかったし」


熱い視線や気持ち悪い視線を送る奴はとりあえず無視していい。問題は隠れてこちらを伺うプロの方だ。


大規模回復で注目を集めてしまったからお偉方さんの命令で調査に来てるんだろうな。

鑑定で隠密系のスキル持ちも多数いたから。


"青のーーーー!!"


「誰か騒いでいるわね。しかも"青"って聞こえた(ニヤニヤ)」


早速何か騒ぎが起きているみたいだ。関わりたくないけど、俺も"青"と聞こえてしまったからには行かない訳にはいかない。




カノンと2人で騒ぎの元凶を隠れて伺うと。


「んげぇっ!」


そこに居たのは前に絡んできた貴族様だった。

ノアが必死に仲裁しているもヒートアップした奴は色々下品な言葉を投げ掛けている。大司祭という立場が無ければ俺みたいに掴み掛かられていそうだ。


また、落してやろうか? でも、ノアに迷惑がかかるのもなぁ……


「げぇ、ミエーハリー子爵じゃん」


「見栄っ張り? 知っているのか? 実は有名人?」


「ミエーハリーね。色々悪い意味でだけど」


カノン曰く、メルディンを治める領主様の奥さんのミエーハリー子爵家だそうで、それをいい事に婚家の領地で我が物顔してるのだそうだ。


「妙に貴族らしいプライドを意識する癖して、チクチクと嫌がらせする陰湿な奴。追い詰めて追い詰めて相手をすり潰す事で有名よ。潰された店は当然有るし、女の子に手をあげたなんて話も聞くわ。どうせミヤビの噂を聞いて『よし、お前を我の臣下にしてやろう』とでも言いに来たんじゃないかしら?」


「有り得そう。この街に来てそうそうに絡まれて『愛妾にしてやる』って言われた」


「ぶはっ、ナニソレ!? ウケるww!! 男に迫るとかマジでっ!? あっ、見た目は完全に女の子か!!でも、あははっ、おかしい!!」


「こらこら、笑っちゃダメでしょ? そっちのけの人も居るんだから」


「でも、アイツは確実に女の子派でしょ。それなのに男にって……ひぃひぃ、もうダメww。お腹がいたい。我慢が出来ないよぉぉww!」


ゲラゲラ笑い出したカノンを止める事は出来なかった。


「おい、そこで隠れて笑ってる奴出てこい!!」


まぁ、当然バレますわ。


「はいはい、今行きますよ。ふふっ……また会いましたね。そんなに怒ってばかりだと血管が破裂しますよ」


「……貴様はあの時の小娘っ!!?」


一瞬ポカンとした後に思い出したのか、ミエーハリー子爵は怒りの声を上げた。そんな彼に従者が耳打ちをする。


「……なに? 奴が青の聖女だと? 希少な治療士で魔力も多いーー」


話を聞き終えこちらを振り返ると


「よし、お前を我の臣下にしてやろう!!」


「ぶふっ!!」


カノン満点! 一字一句まんまやん!!

これには俺も吹いてしまった。陰に残ったカノンの爆笑に拍車がかかっている。


「貴様、なぜ笑う!ゲラゲラと声に出して笑いおって!! 何度も何度も我を馬鹿にするとは何様じゃ!!」


俺様さ!! と返したい所だが、余計に怒りそうなので止めておこう。あと笑い続けているのはカノンです。俺じゃ有りません。


「そうさねぇ。いたって普通……の平民?」


自分で言ってて自信がなくなってきた。

よく考えると男聖女で女神の伴侶で大司教の信仰対象……普通じゃないな!? なんか悲しくなってきた。


「それに貴様は我に行った暴行を働いたことを忘れたとは言わせんぞ!!」


「おやおや、怪我をされたんですか? こう見えて一介のヒーラーでして、治療して差し上げましょう。もちろん代金は頂きますが? とはいえ、怪我は無い様ですね。だって、一度も教会へ治療に来られた事が有りませんから。そにれ聞き覚えが有りませんし、騒ぎになってすら居ませんよね?」


患者の管理をしているノアが言うのなら間違いない。


そもそもちゃんと周りに気付かない様存在を薄めてた上、怪我しない様に気を付けて座らせてやったからな!


「だとしても、平民が貴族に楯突くとは何事じゃ!!」


「面倒くせぇ……」


やっぱり落してやろうか?と少し距離を詰める。


「貴様、何故距離を詰めた!また奇怪な手で我を辱める気かっ!?」


「…………」


「だが残念だったな!度は、前回のようにはならん!我が家でも選りすぐりの者達を連れてきた」


「…………」


そんなの知らんとばかりに俺はもう一歩距離を詰めた。

最悪、争いになったら空間魔法で外に投げ出してやる。

そんな一触即発はという時、


「双方、そこまで!!」


声の主はまさかのシャロンさん。


「誰ーーこれはこれはシャロンお嬢様。どうしてこちらへ?」


「教会で騒ぎが起きていると馳せ参じました。叔父様、また貴方ですか? ここは伯爵領。貴方の領地ではないのですよ?」


「それはもう分かっておりますとも。しかし、この度の一件は我に歯向かい名誉を傷付けた不届き者を成敗しようとしているに過ぎません」


「おいおい、俺がアンタに手をあげたなんて証拠はないだろうが……(残さない様に行動したからね)」


「……双方、何やら言い分が色々有るよう。この場は私の顔に免じて一度引き、後日改めて場を設けさせて頂けないか?」


「……良いでしょう。姪の頼みですし引き受けましょう」


ミエーハリー子爵はシャロンさんの説得もあって引いていった。

姪って事は貴族様? 血縁的にまさか……


「ミヤビさん。あなたにお会いしたい方がいます。お時間を頂けないでしょうか?」


「あっ、はい。大丈夫です。それでどなたでしょうか?」


「私の父であるシリウス・リュミエール・メルディン伯爵。この街の領主です」

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