第12話 教会
「こんにちは。ギルドの依頼で来ました」
ギルドの依頼を受けて教会にやってきた。
教会の建物は向こうの造りとそんなに変わらず白造りで、違いがあるとすれば目印になる十字架がないくらいか?
「ギルドの依頼ですか? 治療士以外に何か依頼してたかな? あっ、それともモルドさんに用事?」
外で掃除をしていたシスターさんに声を掛けると首を傾げられた。
「いや、治療士です」
「えっ、君みたいな幼い子がっ!? 確かに女の子なら多いけどっ!?」
おお〜と、ここでも見た目が災いしたぜ。
『あははっ、また女の子に間違われてるww マスターはこれでも男性で20代ですよ』
「えっ、妖精!? えっ、男!? 20代!? そんなのオジ……オジサンじゃんない!!? エルフの血でも入ってるの!?」
性別を間違われるのがそんなにおかしかったのか、ミュウは笑いを堪え切れなかった。
シスターさん、驚き過ぎです。そして、誰がオジサンか!!
彼女はその内高血圧で倒れるんじゃないだろうか?妖精のミュウに驚き、俺の性別と年齢にまた驚き声を上げていた。
「治療士なら大歓迎だよ!私、カノン。よろしくね。年齢が上?みたいだし、タメ口でいいよ。それじゃあ早速、見て貰えないかな!?」
直ぐ様、彼女に手を引かれながら教会へと入る。
「もう皆魔力がカツカツで力尽きてるの!だから、治療はストップして重篤者のみを優先してるんだけど……その治療もノア様1人だけだから儘ならなくて……せいぜい悪化しない様に留めるだけで手一杯なの」
カノンに案内された部屋には呻き子をあげる患者たちと力尽きたシスターたちが所狭しと並べられていた。何処の野戦病院かな?
そんな中、まだ立って治療を続けているシスターが1人。
「あら、カノン。掃除は終わーーっ、アナタ様はもしやっ!?」
「あっ、ノア様! ギルドから治療士の応援が来てくれました!!」
「凄っ」
そのシスターに一瞬で目を奪われた。巨乳のミューを富士山に例えると彼女のそれはエベレスト級。どうして重力に負けないのかと思う程にツンと張った魔乳であった。
そして、容姿も素晴らしい。絹のように白い肌。桜を連想させる淡い桃色の髪。優しい緑の瞳。
ただ、どういう訳だろうか? 彼女からミュー似た気配を感じるのだが……
「んん〜〜……?」
敵意はないし、勝手に鑑定していいものかと悩んでいると
「紹介します。こちらは冒険者の……誰?」
「いや、知らなかったのかい! あっ、そういえば名乗ってなかった。ミヤビと言います。そんでこっちがミュウ」
『よろしくです\(^^)/』
「だそうです!」
「あぁ、やはりそうなのですね……。神よ……この運命に感謝します。ーー改めまして、私はこの教会の代理人を務めるノアと申します。ようこそいらして下さいました」
簡単に自己紹介をして、部屋の外で治療についての話合いが行われた。
「現在の魔法レベルを聞いても良いですか?」
「レベルは7。魔力量も多いから数をこなせると思います。でも、治療経験は有るけど多人数は初めてですね」
「レベル7!? それじゃあ、エリアハイヒールも使えるってこと!?」
神聖魔法……所謂回復魔法はレベル関係なく詠唱を知っていれば魔力ゴリ押しで使えなくは無い。
しかし、レベルを上がる程に発動率と効果が上がるので、無詠唱の場合は確実に上げておく必要がある。
Lv.1 ヒール
Lv.2 アンチドーテ(毒消し)
Lv.3 ハイヒール
Lv.4 エリアヒール
Lv.5 キュア(浄化。状態異常)
Lv.6 エリアハイヒール
Lv.7 マジックコネクト(魔力譲渡)
目安としてこんな感じで習得されていく。
「分かりました。まずは一人二人で様子を見てみましょう。問題無ければ広域回復をお願いしても?」
「あっ、杖があったら借りていいですか? さすがに媒体なしの広域回復は難しくて」
「それでは私の杖をお貸しします」
杖は魔力を円滑に運用する為の制御器にして安全装置。なかには増幅器を兼ねたものも有るらしい。
普通に杖が無くても出来るけど、聖女の回復イメージが引っ張って何処まで届くか分からないんだよな。
ノアさんに杖を借りて部屋に戻り、最も重篤者から治療を始めた。
《鑑定》
状態:裂傷、微毒、熱
まずは鑑定で状態を調べて余計なものを取り除く。
「《ウォッシュ》《アンチドーテ》……《ヒール》」
傷を洗い、毒を消して傷を治す。先程まで呻いていた患者は穏やかな寝息を取り戻した。杖が良い仕事をする。予想以上に魔力の消費がない。余剰魔力もしっかりと使ってくれた様だ。
「えっ……ヒールで治るものなの?」
「この程度の傷ならね。欠損部の持ち込みならワンチャン? 無かったら無理だけど」
「ヒールで治せるなんて聞いた事がないよぉぉぉ!」
カノン、本日三度目の驚愕。目の前で起こったことが信じられないのか、目を白黒させていた。
「ふむ。……知識量でしょうか? 後程教えを乞いたいのですが可能でしょうか?」
「俺もそれほど詳しい訳じゃないからそれでも良いなら」
「もちろんです。十分効果が出ていますから」
という事で治療を再開し、検証を続ける。
「《ヒール》《ヒール》《ハイヒール》《キュア》《ヒール》」
ふむ、ファンタジーだな。回復魔法が傷ならまだしも病にも効くとはこれ如何に?
神界の詰めみ講座では走りながら薬草の勉強させられて、間違えるとファイヤーボールがーー
うっ、頭がっ!? ……早く忘れるんだ!
色欲。色欲……ミュー……よし、落ち着いた。
「……よし、3分の1が終わったけど魔力はまだまだ余裕みたいだ。広域回復行けそうだけどどうします?」
「ちょっとお待ちを……はい、下準備が出来ました。それではお願いします」
「《ハイエリアヒール》!」
回復魔法の淡い光が部屋中を満たし始めたーー
おっ? おおっ? あれ、なんか予定より範囲が広くなってない!?
「あっ、やべぇ……ストップ、ストップ!!」
『かっ、回復範囲が教会を越えて街に……』
「にょわぁあああーーっ!?」
ふぅ、なんとか魔法を止めれたぜ。安心したら力が抜けた。
それにしても魔力をそんなに込めて無いのにどうしてだろう……と思ったら、ノアさんに借りた杖に回復量アップ(大)の効果が付与されていた。
名称:神器・ケーリュケイオン
説明:豊穣神ニュンフェが自らの使徒へ貸し与えた杖。おねショタ愛護倶楽部会長の証。
なんか、不穏な事も書いてあったけどさ。
「みっ、ミヤビ様!?」
「大丈夫なの!?」
「だっ、大丈夫。借りた杖の性能を把握し忘れてたもんでね……。効果が大きくなっちゃった。だから、今外がヤバいかもしれない」
「外? あれ、本堂から何か聞こえる?」
"ガヤガヤガヤガヤ"
ほら、案の定人が集まってるみたいですね。
教会の外にまで回復が飛ん来たから何が起こった詰め掛けたのだろう。
「大変! 早く皆に説明しないと!!」
「あっ、ちょっ、待ちーー」
「皆さん聞いて下さい! 今のは応援にきた治療士によるものです!!」
「「「なっ、なんだってーーっ!!?」」」
遅かったか……
カノンのお馬鹿。今そんな事を言いようものならーー
「治療が再開するぞ!!」
「おっ、俺の怪我を見てくれ! 痛みが日に日に増してんだ!!」
「お願いします!うちの子を見て下さい!!昨日から熱が下がらないのっ!! 」
「儂は腰をやってしまいーー」
「俺は魔物にーー」
「あわわぁぁ〜〜っ!!?」
今まで差し止めていた分、治療を求めて人が殺到するに決まっている。カノンは治療を求める人の多さに目を回していた。
「静かにしろ!!」
「「「「ーーーーーっ!?」」」」
大きな声と共に放たれた威圧が暴走した怪我人たちを静かにさせた。
「アナタは?」
現れたのは筋肉マッチに白衣を羽織った男性。先程まで治療室の床に転がっていた人だ。
「俺の名はモルド。こう見えてギルドの治療士をしてる。わりぃな、治療を任せきりでよぉ。久しぶりに魔力枯渇で落ちてたわ。まぁでも、ちったぁ寝たから回復してる。俺も治療にあたるぜ」
見た目同様、うちの兄貴の様に頼り甲斐の有りそうな人だ。
「そんでお前さんの魔力はどうよ?」
「まだ全然イける 」
「そうかい。なら、付き合って貰うぞ。治療士としてイける所まで逝くとししますか。……ノア大司教。人が多いのでシスターたちにトリアージをお願いしても構いませんか? 既に何人か目を覚ましています」
ええ〜っ、大司教!? そんな身分の高い人がどうしてこんな所に!?
「ええ、構いません。うちのカノンが原因ですのでしっかりと責任を取って貰いましょう。皆を呼んで来なさい」
「うぅ〜っ、……ぐすん。はい。皆を呼んで来ます」
見ない内に大きなたん瘤作って涙目になっていた。
「それでは皆さん。私たちの前に三列で並んで下さい。治療を再開します。また、魔力に限りが有りますのでシスターから緊急と判断された方は優先します。ご了承ください」
怪我人たちの治療は問題なく再開された。途中で他のシスターたちも復活し、無事に集まった人たちの治療が終了。
これを機会に"青の聖女"としての名が広まるだなんて知る由もなかった。
「おお、個人レベルが上がってる!!」
治療でも経験値が入るんだ。結構な数を診たけど、まだまだ魔力に余裕が有るし、いいレベリングになるぞ!
ただ周りと比較するに今のランクBでも十分異常と認識される魔力量みたいだ。適度に疲れた演技も必要かもしれない。
「あっ、宿……」
既に夜へ突入している。今から宿を探すのは無理そうだ。どうしよう?
「でしたら教会へ泊まり下さい。来賓用の部屋が空いておりますので」
ノアさんの進めもあって教会に泊まる事になった。
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