第8話 スタート

「……触手魔法って何?」


「こんなの」


〈アクアテンタクル〉


触手生やすならやっぱり背中だよね。足だと行動の邪魔だし、手だと自由にならないじゃんか


「うわぁ〜……」


帰ってきた早々にイニスは増えた魔法の多さにびっくり。やはりイメージがしやすいのが影響している気がする。

そして、知らない魔法が増えいて二度びっくり。超食いついた。

でも、実際に見せたらドン引きされた。


「何に使うか聞かないけど、聞かないけど」


2回言った。気になるのかな? うんうん?


「似たのがあるよ」


「マジで?」


「〈魔導装甲複腕部〉。腕ごとに属性も変えられる」


彼女の背中から8本全て色が違うロボットアームが現れた。


俺も再現してみよう。8本目は無色で半透明だし無属性かな?


「〈魔導装甲複腕部〉!……あっ、あれ?」


途中まて上手くいったが、完成まじかで腕が霧散した。


「……先生。俺に教えて下さい!」


土下座する勢いで頼み込んだ。

俺もロマン技を習得したいです。そういうのに憧れるんです。


「ロマンは一旦置いといて普通に便利だから教えてあげる。まず、問題点は複数属性の同時展開に慣れてない。次に私と貴方のイメージが違う。始めは二属性から初めて慣れたら1つずつ増やすといい。造形イメージも含め貴方だけイメージで構成すること。そうすれば発動はする」


「分かりました!」


まずは熟練度の高い光と水を選択。練習すること数時間。青と黄色のマー〇ニヒトの様なゴツい腕が完成した。


"ドゴォオオーーン!"


威力も十分。魔法の練習で一切壊れなかった黒板にヒビが入った。


「あの……腕の動きに連動する感じなんですが独立出来ないのですか?」


「そこは慣れ。手足を別々に動かしながら複腕を動かす。意識して行えば直ぐにでも並列思考のスキルを習得出来る」


「分かりました。訓練します」


それから一般的な詠唱を教えて貰い板書ながら足でリズムを刻む。複腕は連動するので特に意識して背後で上下に動かし、一日かけて並列思考を習得した。




「ただいま」


空間魔法〈ヘブンズゲート〉

転移門の一種で神界への行き来も可能にする。魔法勉強2日目に習得した。本当は初日に習得して貰う予定だったらしい。


「今日も遅いのか?」


ニュンフェの部屋に戻ると食事が用意されているが彼女の姿はない。帰って来るのは寝るくらいの時間だ。それが既に1ヶ月。理由は聞いてもなかなか答えてくれない。明後日には滞在期間の限界で異世界に行く事が決定している。


まさか、結婚早々に倦怠期!?


一応お風呂は一緒に入るし、添い寝もする。夜の営みは魔力を使いたくないらしく回復魔法なしで数回のみ。むしろ、搾ると同時に俺の魔力を回収さえしている。


う〜ん、女神と人だから感覚の違いが出てきとか? このまま離れ離れになってしまうのか?


「たっだいま〜♪」


そう思いきや、ルンルン気分で彼女は帰ってきた。


「お帰り。今日は早かったね。それに凄くご機嫌だ」


「はい、聞いて下さい! なんとか間に合ったんです!雅さんのサポートアイテムが!!」


「へっ?」


どうやら彼女は異世界に行く俺の為にせっせとサポートアイテムを作っていた様だ。


「私の魔力だけじゃ足りなかったので夜に雅さんが補給してくれなかったら間に合いませんでした。今まで寂しくさせてごめんなさい」


色々思い悩んで心配したけど、それを聞いて安心した。


「良かった。女神と人で価値観が違うからもう離婚されるのかと焦ったよ」


「そんなことは有り得ません! 私か雅さんを離す事なんて!」


「ありがとう」


「それでですね雅さん。明後日には異世界じゃ無いですか」


「そうだよ」


「サポートアイテムの話をしたら、明日以降は全て休日にしてもらえたんです。今まで寂しくさせていた分、埋め合わせは必要だと思うんですよね」


あれ、なんか凄い圧を感じる?


「話によれば触手魔法なるものも覚えたんだとか。残りの全てを使って一生忘れられない爛れた生活を過ごしましょう」


彼女はお気に入りの下着を付けてベットに誘う。その淫靡な雰囲気にあっさり呑まれるのであった。





今、俺の前にゲートが開いている。


その行先は異世界の東大陸で最大の国【ドラコニア王国】の首都から2つ領を挟んだダンジョン都市【メルディン】近くの森の中。


主に冒険者が活動するこの街では、レベリングとランク上げを行う事になる。


そして、毎年首都で開かれる大会で入賞し、竜王に謁見するのが目標だ。これは竜王からの要望でもある。


「神託でお願いしました。本来なら教会を頼る所ですが、大分腐りかけているようですね。このままでは神罰も必要かもしれません。ですが、竜王に会うのも一筋縄では……」


聖女とはいえど、竜王にいきなり会うことはできない。

しかし、大会の入賞なら声掛けだけでなく、勧誘を兼ねた食事会に招待される事も有るそうでコレを利用した欲しいとのことらしい。


「容姿や現在の隠しジョブなども伝えています。問題が起これば直ぐに人を送るそうなので安心でしょう」


「うぅ〜……離れたくない……」

「ミヤビちゃんが傷付くのが嫌ぁ〜。ワタシ、まだ堪能しきれてない〜」


朝からずっと抱き締めたままのニュンフェと……イシュタルが離してくれない。


なんか増えてると思ったそこの君。イシュタルとの邂逅は出発の2日前に遡る。


「ニュンフェちゃん、騙したわね!! アナタの夫が不老の合法ショタだなんて!!同じ同士だと思ってたのにぃぃ!!」


「チッ(独り占め出来なかったか)」


いきなり彼女は夜の営み中に飛び込んできたのだ。


「フォオオッ、マジだ!!えっ、26歳!? マジもの合法ショタじゃん!! えっ、しかもデカっ!? 大人どころかオークも負けそうじ!! ……じゅるり。ぐへへへ」


ミューに負けず劣らずの爆乳美女。彼女は俺のステータスを確認すると目を椎茸にし、ヨダレを垂らしながら服を脱ぎ出した。


「これはお姉さんも味見をするしか無いわよね!いや、するべきよ!!」


「はっ、えっ? はっ!?」

「ちょっ、待っ!?」


ニューが止めるのも聞かず、すごい力で押し倒されて食べられた。それ以降、突然やって来て参戦する。だからなのか、めっちゃ懐かれた。


「やっぱりここにいたよ。挨拶は昨日済ませてただろうが。イシュタルは2人の邪魔をすんな。そして、仕事しろ」


「ワタシもニュンフェの同士なのにぃぃぃ」


「来年には確実に帰ってくるから我慢しろ。ミヤビは頑張ってレベル上げて来いよ〜」


「ミヤビ君助けてぇええ〜〜っ」


魔法の次に勉強したのは武術。指導してくれたのは武神のアレスさん。

彼のおかげで最悪でも逃げるだけの基礎戦闘能力を手に入れる事が出来た。これで早々に死ぬことはないだろう。有り難い。

師匠は手を振りながらイシュタルさんを引き摺り去っていった。イシュタルさんの悲鳴なんて聞こえない聞こえない。


「ふう〜っ、私もわがままばっか言ってられませんね。まぁ、私は対策してるし大丈夫でしょ。ミヤビ、これ。例のサポートアイテムです」


ミューに手渡されたのは緑色の結晶体。


「向こうで割ると使い魔が出てくるので体液を与えて下さい。それがエネルギーになります。最初は指に付けた唾液だけで構いません。最初は。あとは勝手に契約されて起動します」


「分かったよ」


あれ、なんで"最初"を2回も言ったんだ?


「それじゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。早いお帰りを待っています」


「うん。頑張るよ。直ぐに帰ってくるからね!」


俺はゲートを潜り異世界へと旅だった。

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