士に富む山の麓にて
デトロイトから成田まで飛行機に乗って12時間。さらに成田から東京駅を経由してロマンスカーで1時間強。
[や、やっと着いた……]
平均身長176cm(
[やあCGLの諸君。festaの舞台へようこそ!]
駅でハミルトンさんの熱烈な歓迎を受ける。
現役F1レーサーでありながらF1のルール改正や運営に関わっている彼は、国際的なエンジン車規制の機運にあえぐF1を盛り上げようと奔走している。今回のイベントも主催は
[festaは25日の金曜日――すなわち今日!から27日の日曜日までだが、1週間富士グランレイクホテルを抑えてある。存分に羽を伸ばしてくれたまえ]
[富士グランレイクホテルって……最高級リゾートホテルじゃねえか!?めちゃくちゃ高待遇だな]
[FE+1festival、それはFEシリーズとFシリーズの夢の競演!諸君はそのfestaのメーンイベント――FE1・F1レーサーによるチーム対抗4×11ラップリレーの主役なのだから、このぐらいは当然だとも]
相変わらずミュージカル俳優のような身振りで歌うように話す人だ。オレがデビューした時から変わってない。
[荷物はホテルまで運ばせよう。じいや、頼んだぞ]
燕尾服の老人が4人分の荷物を軽々と運ぶ。オレたちも早くホテルでゆっくりしたいが、そうも言ってられない。
[では行こうか!FE+1festivalの会場――新富士ホムラサーキットへ!]
***
新富士ホムラサーキット。
一般客が入場する前から、サーキットは業界関係者でごった返していた。
[うわーっ!すごい人ですよジャスミンさん!]
[すっげえ……あっちのブースではモーターショーしてて、こっちじゃFEチームのレプリカユニフォーム売ってるぞ。何でもありだな]
リコとロイが落ち着きなく周囲を見回していると、人並みを掻き分けてハンダのロゴが入った作業服を着た集団がこちらに向かってきた。
[ようこそ、CGLの皆さん。我々ハンダメカニックチームが3日間皆様をご案内します]
若いメカニックが一礼する。ファクトリーでランと呼ばれていた子だ。女みたいな見た目なのに男の声でびっくりしたのを覚えてる。
[よろしくな、えーっと……ラン?]
[……好きに呼んでください]
ランに案内されてバックヤードに向かう。
[一般入場と開会式は10時からです。レーシングスーツは更衣室のロッカーに入っています……分かってるとは思いますが、照選手は女子更衣室を使ってください]
[わーってるよ]
FEの選手たちは既にスタンバイしているようで、女子更衣室は貸切だった。冷え冷えとした部屋に1人はちょっと寂しい。
スウェットとカーゴパンツをロッカーに放り込み、白いスーツに腕を通す。CGLのレーシングスーツはレース開催国に合わせてデザインを変えていて、この白いスーツは日本専用だ。
[さて、行くか!]
**
開会式といってもセレモニー的なもので、
サーキットの直線コースに作られた特設ステージ。その前に普段人前に出ることが少ないレーサーたちが整列している光景は、まさに夢のようだ。
「ディー様〜〜!」「カゲツー!こっち見てー!」「カワイイ〜〜!」
横目でディーちゃんの方を見ると、スポーツサングラス越しに目が合った。
ディーちゃんがオレに向かってはにかみながら小さく手を振ると、スタンドからえげつない黄色い悲鳴が上がった。韓流アイドル並みの人気だな。
「ウオーッ!『
黄色い悲鳴に混ざって、男女入り混じった歓声が聞こえてくる。
『ペルセウス』のカミーユ・ロレックス。26歳、元FE選手。FE時代は人気の高さから「最もファンブーストを勝ち取った男」なんて呼ばれてたらしいが……
《――ここで、YABAI!!Japan代表取締役、
ステージ上にワインレッドのジャケットに柄シャツとジーンズの青年が上がる。ぱっと見ドラマに出てくる俳優のような見た目のヤツが、オレを日夜悩ませているバカ社長だ。
「本日はFE+1フェスティバルにお越しいただき、誠にありがとうございます――」
甘い笑顔。優しい声。180cmオーバーの高身長。35歳という年齢に目を瞑れば少女漫画のヒーローみたいな彼と結婚すれば、玉の輿ハッピーライフ間違いなしと誰もが思うだろう……実際オレも、一度はそう思ったわけだし。
「この三日間が皆様にとって有意義なものになりますことを祈念いたしまして、開会の挨拶にかえさせて頂きます」
拍手と歓声が上がる。バカ社長の挨拶が終わったらしい。
開会式が終わったら、ほとんどのレーサーがイベントエリアに向かう。自分たちのチームをPRして、新しいスポンサーの目に留まるのが今回のイベントの主目的だからな。
「照選手」
CGLの展示ブースに向かう途中で、バカ社長に捕まった。
「今夜、ディナーでもいかがですか?山中湖を一望できる、いいフレンチレストランがあるんです」
身長180cm以上あるから、背後に立たれると威圧感がすごい。
「……ごいっしょしたいのはやまやまなのですが、あいにくディナーに着ていくような服は持ってきていませんの」
「ご心配なく。ドレスとパンプスをホテルに届けさせますので」
どの辺が心配いらないのか全くわからない。ていうか、なんでオレの服と足のサイズ知ってんだコイツ。
「ホテルまで迎えに行きますから、待っていてくださいね」
バカ社長に耳元で囁かれて鳥肌が立っているところに、今度はカミーユがやって来た。厄日か?
[どうしたんだ?プリンセス。随分と浮かない顔してんじゃねぇか]
話しかけざまに腰に回された手を払いのけて、足早にCGLのブースを目指す。
[また
[別に。社長にアプローチかけられる前から30過ぎたら引退するって決めてたよ]
CGLのブースに展示されている白いフォーミュラマシン『ハンダアマテラス340』が見えた。来季のFEレギュレーションマシンらしい。
[ま、まあ?どーしても引退するってんならぁ?俺様の妻にしてやらなくもないっつーか?俺様がアンタを世界一ハッピーなプリンセスに……って、いねぇ!!]
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