第9話 新後宮結成

 学校に行ったことはヤーノシュとルドゥーテに滅茶苦茶怒られた。そして次の日には学院の『御修了証』が発行されて僕は学校を卒業?みたいな扱いにさせられた。それはともかくとしていまルドゥーテとヤーノシュと共に後宮の会議室にてとある議題が紛糾していた。


「リストにある家はみな娘の後宮入りを承諾いたしました。それともに新たに後宮のメイドたちの総入れ替えを行います」


「メイドさんの入れ替え?それ必要なのか?人から仕事を奪うのは良くないよ」


「彼女たちは別に再就職先には困らないでしょう。それよりも問題は今いるメイドたちが先帝陛下の皇妃たちの派閥意識に染まっていることの方が問題なのです」


「ふむ?どういうこと」


 ヤーノシュはしきりに頷いていたけど、僕にはぴんと来なかった。なにせいつも生活はテントでしていたのでメイドたちとは関りがなかったからだ。


「今いるメイドたちは皇妃たちの世話をしていたため各皇妃たちと心理的に距離が近いのです。それがこれから入る新しい皇妃たちに良くない政治的影響を与えかねません。今のメイドたちは皆ヒューマンですし、皇妃たちは亜人です。その点も懸念があります」


「ああ、はいはい。わかってきた。それならいいよ。やっちゃって」


「はい。お任せください。背後調査から処女検査までわたくしみずからの手で全部やらせていただきます!」


「おい。いまなんつった?」


「背後調査や処女検査のことですか?何か問題が?」


「あるに決まってんだろうが!なんだよ背後調査はわかるけど処女検査?!なんでメイドにそんなことするの?!」


「お兄様。メイドたちは皇帝の性処理も仕事に含まれるのです。病気を持ち込まれたり、どこぞの誰かが遊女をメイドに仕立てて送り込んでお兄様を誑し込んだりされたら困ります。安全保障のために処女でないと困るのです」


「パワーワード過ぎてびっくりだよ。ていうかメイドさんにそんなことさせるつもりとかないんだけど!?」


「向こうはこちらが言わずともそのつもり出来ますよ。女たちが後宮で働くなら皇帝の御手付きになることを心のどこかでは望むものです。それが女のロマンスですからね。すでに募集を掛けましたが、倍率100倍を超えました。より取り見取り選び放題です」


 僕はきっと名伏し難い顔をしていたと思う。


「募集は下級貴族のヒューマンなどからもありました。正直に言うとこちらが本命です。上級はともかく下級貴族は新皇帝に尻尾振りたくてした方がないのですよ。さすがにヒューマンの皇妃がいないのも国民に不安を感じさせるでしょう。これはメイド募集の名を借りたヒューマンの皇妃候補探しも兼ねています」


「しょうもない現実なんだなぁ…」


 ハーレムって大変なんだね。もっと気安いものじゃないの?男の欲望のままじゃないの?政治的思惑と女たちのロマンスが溢れてて胃もたれしそう。


「後宮の女たちの管理はわたくしが行います。次はヤーノシュから宦官の人事について説明があります」


 ヤーノシュが代わって立ち上がり僕に資料を渡してくる。


「人事の刷新を行いました。それと思想調査を行い、先帝陛下の皇妃と近しいものたちは排除いたしました。つきましては人員の補給を行いたく思います」


「人員の補給?宦官を作るってことか?」


「はい。奴隷身分の中の少年たちから優秀なものを選ぼうと思います。本来であれば後を継がない貴族の子弟などから選ぶのですが、貴族たちは嫌がるでしょう。この際奴隷でも構いません。奴隷ならばどこからも文句は来ませんでしょう」


 奴隷。その言葉を聞いたとき、僕の中で何かが沸騰するように弾けたのを感じた。


「駄目。認めない」


「陛下?どうかしたのですか?気分がすぐれないのでしょうか?」


「そんなんじゃない。奴隷の少年たちを宦官にするのは駄目」


「ですが上級貴族の後宮でもよくやっていること…」


「だから駄目だって言ってるだろうが!!」


 僕は机を叩いて立ち上がる。それに二人はひどく狼狽している。


「お兄様。なんでそんなに怒っているのですか?」


「当たり前だろうが!まともじゃない!子供に去勢手術を施してここで仕事させるなんて正気じゃない!」


 ヤーノシュもルドゥーテも僕の発言に首をひねっている。


「陛下。ですが宦官制度というものはそういうものですよ」


「ああ。それもおかしいさ!宦官制度自体もな!そしてなによりもお前ら二人とも奴隷相手なら何をしていいと思ってる!それが気に入らない」


 僕は本気で怒っている。だけど二人にはそれが通じない。


「お兄様。奴隷とはそういうものでしょう」


「お前は僕のことを忘れたのか!母はエルフだぞ!エルフが過去にどれだけ奴隷狩りにあったのか忘れたのか!!」


 母から僕は聞いて育った。奴隷たちの悲惨な生活を。それを初めて聞いた日は恐ろしくて眠れなかった。


「でもお兄様は皇族ですわ。奴隷ではありません。サビーナさまだってエルフの部族の姫だったでしょう。高貴な生まれです」


「そんなの問題じゃない!人の生まれに上も下もない!」


「お兄様!!何を言っておられるのですか!上も下もないというならばお兄様は何なのですか!!皇帝でしょう!帝国の頂点ではありませんか!今お兄様はご自身のことを否定なさったのですか?!」


 ルドゥーテも僕の様に本気で怒っている。彼女は皇族という身分に誇りを持っている。だからこそだ。身分。それが人を別つ。僕は皇帝という階級社会の頂点なのに、奴隷制度というものを認めることが出来ない。矛盾だ。これは矛盾でしかない。


「お二人とも。きょうだい喧嘩はおよしください。陛下。わかりました。宦官の募集についてなのですが、定年を迎えて出世レースを外れた官僚たちから募集するのはいかがですか?もちろん本人たちの意思確認は十分とります。宦官という国家の中枢に入りたがる者たちは多いはずです」


 僕は逡巡した。ここでこれ以上ルドゥーテと言い争いたくない。だからヤーノシュの提案に頷いた。


「わかったそれでいいよ」


 話が終わったので僕は会議室を後にする。ルドゥーテには謝るつもりはない。僕は皇帝だ。だけど奴隷という存在を容認できない。たとえそれが矛盾であっても。











 そして新たなる後宮が結成された。後宮の方の玉座の間にて皇妃候補たちが横一列に並んでいる。その後ろには彼女たちが連れてきた女官が並びその後ろには新たなるメイドたちが控えていた。


「帝国各地よりはるばるこの後宮に来たことご苦労。今後汝らには臣民の範となることを切に願うものである」


 僕は一応威厳を込めて皇妃候補たちを出迎えた。だけどね。目の前の娘さんたちどう見てもやる気なさげなの。それどころか何人かは僕のことをあからさまに睨んでいる。


「ちょっとよろしいだろうか?」


 一人の皇妃候補が前の方に出てきた。僕の真正面に立って睨み上げてくる。金髪で瞳の蒼い女だった。ぱっとみはヒューマンだけど虹彩は縦に割れている。ドラゴニュートの亜人だ。


「なにかね?」


「私の名はファーガル・ソルヴァルト!騎士としてはっきり言っておこう。ここにいる誰もがお前の物になるなどと思わないことだ!!この暴君め!」


 いきなり啖呵切られたんですけど。なに?ヤンキーなの?どこかのいいところのお嬢様じゃないんですか?


「新しい皇帝は亜人だと聞いていたから期待していたが、いきなり皇子を殺したり先帝のご遺体を焼いたり他国に乱暴に内政干渉したりとさんざんではないか!ここにいる美しい女たちだってお前の欲望を満たすために集めたんだろう!私たちは体は好きにされても決して心までは屈しない!権力などで人の心が踏みにじれるなどと思うな!!」


 くっころぉ!そんなつもり全然ないんですよねぇ。でもその啖呵に同調している素振りを見せる娘たちもけっこういるように見えた。逆に後ろにいるメイドたちはそうでもなかった。しらーとした目でファーガルに同調した皇妃たちを見ている。空気が澱んでいる。出だしからして最悪だ。こんな連中と一緒に暮らせる気がしない。もうテントに帰ろう。そうしよう。こうして僕の後宮生活が始まったのだ。































次回第二章『皇族の闇』



















****作者のひとり言****



皇妃たちは家の都合で来てるのでやる気がない。メイドさんたちは自由意思で来ているのでやる気がある。


ハーレムの内情もなかなか大変である。頑張れヴァンデルレイ!帝国の未来は君にかかっている(・ω・)

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