第8話 久しぶりの登校

 懸念となる事項は片付いた。やっと政務には一段落がついたわけだ。だから行かなきゃいけないところがある。僕は学ランに着替えてチャリに乗り学校へと向かった。学校は都心にある宮殿の近くにある。だから車とかよりもチャリの方が小回りが利いて意外と早くつける。


「え?」「いや。なんで」「うそでしょ?!」「ありえない!!」


 僕が久方ぶりに教室に入ると生徒たちが驚いたような顔をしていた。そりゃそうだ。僕は最近ずっと登校拒否状態だったわけだし、突然そんな奴が来たら驚きもするだろう。僕は自分の席に座って教科書を広げる。僕は学校でも基本ボッチなので教室の端っこで勉強をしているか本でも読んでいる。でも今日は様子がおかしい。


「第一皇子を速攻殺したとか」「宮殿から他の皇族を全員追い出したらしいわよ」「軍部相手に粛清したとか」「他国に軍を送り込んで拉致してきたとか」


 なんかみんなが僕の方を見ながらこそこそを話している。内容は良く聞こえないけど、きっといつも通りキモいだとなんだと言っているのだろう。


「騒がしいな。静かにしろ。授業を始め…ひゃぁ?!」


 入ってきた教師が僕の顔を見るなり卒倒してしまった。そんなにですか?いじめられっ子のボッチが久方ぶりに学校に来ただけなのにあんまりである。





 昼休みになって僕は購買に弁当を買いに来た。


「はい。1000園」


「ひぃい!お代なんていりません!もっていってくださいぃ!」


「ええ。そこまで貧乏じゃないんだけどなぁ。じゃあこれ置いとくね。おつりはいいよ」


 僕は1000園札をレジにおいてお弁当だけ持っていく。さてどこで食べるか。ボッチは食べる場所に気を使わなければいけない。カーストの高い奴らの近くで食べると虐められるので目の届かないところに行かなければいけない。


「便所飯。嫌流石にいやだわ。教室の隅でいいかな?」


「ん?本当に学校に来てる?!おい!お前ぇ!!」


 呼ばれたような気がしたので振り返るとそこには公爵子息のブライアン・アギーレがいた。


「ん?なにかよう?」


「なにかようじゃない!!貴様!なんで学校に来ている!!?」


「え?だって学生だし」


「そうじゃない!いやそもそも!くそ!よくものこのこ学校に来れたな!偽物の皇帝のくせに!お前のせいで父上は軍部の要職から外されたんだぞ!」


「あ、そう。で?」


「で?だと?!この野郎!」


 ブライアンが殴りかかってくる。だけど僕はその拳を避けて足だけ引っかけてブライアンをこけさせる。


「なんだてめぇ!いつもなら大人しく殴られてるくせに!」


「もう耐える理由がないんだ。殴られるのは勘弁だよ」


 ブライアンの一味にはいつもさんざん殴られていたが、それは後宮にまで問題が発展するのが怖かったからだ。今はそうじゃない。別に黙って耐える理由もない。


「くそ!この野郎!」


 ブライアンがさらに殴りかかってくるけど、僕はそれを全て躱した。ブライアンはそれで息切れして床にへたり込む。


「ちぃいい!おいお前ら!あいつをボコせ!取り囲めばいけるはずだ!」


 ブライアンは下級貴族子息の取り巻きにそう指示をだす。だが誰も動かなかった。


「おまえら!いつもさんざん世話してやっただろうが!なんで動かないんだよ!」


「あんたこそバカなのか!相手は皇帝だぞ!」


「混ざりもんが皇帝なんてなんかの間違いに決まってるだろうがようぅ!」


「現実見ろよ馬鹿!第一皇子だって殺されてんだよ!俺らはあんたとはもう関係ない!」


 取り巻き達はさぁっと逃げていった。


「そ、そんなぁ…」


「お友達いなくなっちゃたな。可哀そう。それじゃ」


 僕はブライアンを置いて、教室へと向かった。





 教室に向かう途中明るい茶髪にグリーンの瞳の美しい女の子とすれ違った。


「あんた。なんで学校に来たの?ばかなの?」


 話しかけられた僕は足を止める。彼女もまた足を止めて僕の方へと振り向いていた。この子は僕の知り合い。広義に言えば幼馴染だろうか?エルミア・ザネッティ。ヒューマンの大公令嬢殿下様だ。


「だって学生だし」


「でも皇帝でしょ。学校なんかに来てる場合?後宮のお妃たちをあやすのがお仕事でしょ」


 彼女はどこか嫌そうな顔でそう言った。珍しい。ツンケンしている顔は良く見るけど、嫌悪感を丸出しにするのは珍しい。


「後宮に妃なんていないよ。政務が片付いたから来たんだ。顔を見たかった人もいるし」


「後宮に妃がいない。へーそうなんだ。ふふ。顔みたいのってあのうさぎ耳の亜人の子?」


「そうだね。ハルドールの顔は見ておきたい。しばらく会えなくなるかもしれない」


「大概変わり者だとは思ってたけど、あんたってほんとおかしなやつよね。まさか皇帝にまでなっちゃったなんて」


「僕もそんなつもりはなかったんだけどね。なっちゃったよ」


「でしょうね。あんたは皇帝になりたいなんて望むようなやつじゃないもの…」


 どこか悲し気にエルミアはそう言った。


「ねぇ。その。妃いないのよね」


「うん。正直後宮の妃たちの争い見てると作る気になれないよ」


「それなら…あ…」


「殿下ぁあああああ!!!」


 エルミアが何かを言いかけたときに後ろから誰かに抱き着かれた。うさぎ耳がぴょんぴょん揺れている。


「お、ハルドールじゃん。おひさ」


「おひさじゃないですよー殿下!心配だったんですから!テレビで皇帝になったって聞いて!もう会えないのかと思ってましたぁ!うわーーん!」


 ハルドールはボロボロと涙を溢している。俺はハンカチでそれをぬぐってやる。それを見たエルミアがどことなく不機嫌そうに言った。


「あんた。その男は殿下じゃないわ。陛下よ。不敬にもほどがあるわよ」


「え。あ!す、すみません殿、陛下!」


 べつにどっちでもいいんだけどね。望んだ地位ではないし。


「だいたいベタベタとひっつくのもどうなの?あいては皇帝よ。それとも色仕掛けで取り入る気?」


 エルミアの追及は止まらない。ハルドールはしゅんとしてしまう。


「まあまあエルミア。ハルドールにそんな気はないよ」


「…そうね。その子にはないでしょうね。でも忠告を一つ。女には気をつけなさい。これから先は昔からの知り合い以外の女はみんなあんたの敵だと思いなさい」


 それだけ言ってエルミアは背中を向けて去っていった。


「なんかきつい人ですね。亜人嫌いですか?」


「いや。人種差別はしない子だよ。単に機嫌が悪かったんじゃないかな。とりあえずご飯いっしょにたべる?」


「はい!お供します殿陛下!」


 なんか合体してる。まあいいけどね。エルミアはさっき何を言いかけていたんだろう?それだけは気になった。

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