第5話



 真夜中、こっそりと渡された水晶に癒しの力を込める。けれども思ったより早くあっという間にいっぱいになってしまった。これではあまり持たないのではと思い、手持ちの宝石にも込められるだけの力を入れてみた。できる限り、たくさん。壊れてしまわない程度に。

 私の力が強いのか宝石に込められる力が少ないのか分からないけれど全く疲れずに終わってまった。

 できる限りのことはしたと思う。

 少年のところへ行こう。






 癒しの力とは便利なもので眠気を起こす事もできる。

人をどうしても避けられない場所はこっそりと眠らせて進んで行った。

 こんな事をすると考える人はきっと少ないのだろう。あっという間に少年が捕らえられている場所にたどり着いた。

 彼は牢屋のベッドに座って俯いていた。服も汚れてきていてボロボロで怪我もしている。



「ねぇ、大丈夫?」


「え?!どうして君がここに?」


「あなたが捕まってるって聞いて。それに大神官様があなたを逃がすついでに外をみておいでって」



 牢屋の鍵を開けながら、たどたどしく言葉を紡ぐ。まだ、外にでてどうしたらいいか決めかねていたせいだ。



「そっか、じゃあ、おれが外を案内するね!」


「うん……」


「でもおれを逃がしても君は怒られない?助かるけど君が怒られるならここに残るよ」


「私は大丈夫。大神官様の言葉もあるし。私より君の方が危ないくらい」


「なら大丈夫だね!さっさとここを出よう!」





 二人で手を繋ぎながら神殿の中を走る。

 シーンと静まり返った長い廊下を二人の足音だけが響いている。



「あ、そうだ。君の名前を教えて!」



 彼は振り向きながら私に問いかける。

 キラキラした、希望に満ちた目で私を見る少年。きっと怪我は殴られたのだろう、それでも悲しみや苦しみをその目には映していない。

 彼が聞いてきたのは私の名前。

 衝撃がはしり、私の感情を大きく揺らす。けれどその感情を何と呼ぶのか分からない。

 少年の手を取り神殿を、私がいた世界から抜け出す。

 その時私は何を思っていたのか。分からないままただただ心を揺らした。

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