第4話


あの日から数日が過ぎた。



「あの子、最近来なくなっちゃった」



 いつもの様に午前中のお勤めが終わり、中庭でお茶をしながら少年を待っていたが、ここ数日訪れがない。

 目の前に並んだ色とりどりのお菓子をなんとなく摘みながら物足りなさを感じていた。

 いつもなら外のお話を聞かせてくれるのに。愚痴にも満たない独り言。彼にだって外の生活がある。仕事をしなくては行けないと、そう話していた。来れない日もきっとありだろう。

 それでも、習慣化されたものが突然無くなると寂しさを感じてしまう。



「聖女様。あの」


「?」



 リュカが気まずそうにこちらを見る。

 何かを話したい、けれど話してはいけない。そんな葛藤が見えた。いつもははっきりと物事をこなしていく彼にしては珍しい。



「どうしたの?……何か知っているなら話して」


「実は……」



 サアラが少年に気が付き周りの者に知らせた為、彼は今牢屋に閉じ込められている。大きな怪我はしていない。けれどもこれからは彼にどんな罰がくだるか分からないとの事だった。



「そんな……」


「すみません」


「ううん、リュカが謝ることではないよ」



 でも、どうしよう。私のせいだ。いつまでもここに彼を呼んでいたから……。

 せめて罰を取りやめることは出来ないだろうか?私がここに呼んでいたのだから。



「大神官様に話してくる」


「部屋の前までお供いたします」






 図書館かと思うほど本が沢山置いてある部屋。その一角に机があり、そこの上にも本がたくさんある。その本に埋もれるようにして大神官は座っていた。



「聖女様、今日はいかがされました?」


「あの、少年が捕らえられたと聞いて……」


「おや?聖女様に知らせるつもりは無かったのですが」


「あ、あの、少年は私が呼んでいたの」


「そうだとしても決まりは守らなくては」



 いつも優しい笑みを絶やさない大神官は困った顔をしている。

 決まり事は決まり事。守らなければ秩序が乱れ、収集がつかなくなってしまうと諭される。



「でも彼は悪くないのです。私が彼が来るのを楽しみにしてしまったからきっと彼も来るのを止めることができなくなってしまって」


「何度も忍び込んでいたのですね」


「あ、えと」


「……聖女様、神殿の外にご興味がおありですか?」


「え?」


「外の事を知りたくて彼を招いていたのでしょう?」


「お話を聞くのは楽しくて」


「いけない事と分かっていても」



 にっこりと笑い話す大神官に責めの色はない。それどころか安心しているようにも見えた。



「聖女様、少年と外に出てみたいですか?いえ、少年が罰を受けないように連れ出しついでに外の世界を旅してみませんか?」


「大神官様?」


「貴方の力は力が強すぎて、外を経験する事なくここへ来てしまった。私としてはそれが気がかりなのです」


「でも、私しか治療ができない」


「実はそうでもないのですよ。この水晶にありったけの力を注いでいただけますか?そうすればこれを使って彼らを治すことができる。もちろん溜めた力は減っていくので定期的にここに訪れて補充していただかなければいけませんが……」


「私は…」


「迷うのであれば少年を助けるついでに少しだけ外を見てきなさい。その後どうするか決めればいいのです」



 そう言って優しく追い出された。私は…ここをでたい?考えた事がなかった。ここには大切な人々がいて、私の力を頼りにしてくれている人がいる。でも大神官様は外に出る必要があると言う。

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