第3話
その日から少年は毎日中庭に忍び混んで来るようになった。少しだけのお喋り。彼は外で経験したことをキラキラした目で語り聞かせてくれる。
本で知っているはずなのに彼の口から語られる言葉はどうしてワクワクさせられるのか。言葉だけで楽しいのに実際に経験するとどうなってしまうのだろう?それになぜこんなにも楽しそうに話すのだろう?
色々なお話を聞かせてくれるからとお礼をかねてお菓子を用意するようになった。いつも嬉しそうに食べるけれども少しだけの躊躇っているようにも見える。理由を聞くと弟分たちにも食べさせたいと思っているみたいだ。
「それなら持って帰って?」
「だめだよ、絶対誰かに話してしまう、だから……」
内緒で会っているのでもしも誰かに知られたら、この時間はなくなってしまうし、少年もきっと罰がくだされてしまう。
何かできたらいいのに私はもらってばかりで何も返せていない。
「今日もお疲れ様でした。なにもお変わりありませんか」
「うん、何もなかったよ」
部屋に戻り、いつものようにサアラが寝る用意を手伝ってくれる。優しく髪をとかされながら少年にできるお礼は何か考えてみる。
お菓子は断られてしまった。衣服も私に合わせたのもが贈られているので無理だろう。宝石類は……装飾品は持っていても使う事は無いだろう。
「聖女様?」
不思議そうに、こちらを伺うように声をかけられた。
いつもなら他愛もないお喋りが始まるのに私が黙っていたからだろう。
「ねぇ、例えば外で暮らすとしたら何が必要になると思う?」
「外、というのは?」
「神殿の外」
「……なぜですか?」
「ただの興味?」
「何が気になるのですか?それなら私がご用意いたします。……聖女様は自分から欲しがっては行けないと言われていると思いますが先代もこっそり欲しいものを話されてましたよ」
会話を重ねると少しずつ侍女の纏う空気が重くなっていく。
私は何か変な事を言っているのだろか?外は危ないと言われている。その外で嫌な思いをしたのだろうか?
「そうじゃなくて……」
なにをどう言えばいいかわからず言葉が続かない。私の戸惑いが伝わったのかサアラはニッコリと笑って言う。
「欲しいものがあれば何でも言ってください。それこそ護衛騎士に言ってもいいのです。どうか、我慢はしないでくださいね」
そういうのでは無いんだけどな。思うように説明ができず分かったと答えることしかできなかった。
「お休みなさい」
パタンと扉が閉じる。
珍しく扉の前で侍女と護衛騎士の話している声が聞こえる。
二人は仲がいいのかな?そんなことを思いながら眠りについた。
「貴方は何か知ってる?なぜ聖女様が外に興味を持たれたの?外なんて危険なだけなのに!」
「俺に言われても」
「護衛でいつも傍にいるでしょ!?どうして?あの方はここで安全に過ごして欲しいのに。誰が?どうして?誰かがそそのかしたの?」
「………」
「どうして何も言わないの?聖女様が傷つけられようとしてるのに!」
「外に興味を持つことは傷つくことなのか?」
「当たり前でしょ!?どんな人が外にいると思っているの?」
「……あまりここで騒ぐと聖女様に聞かれるのでは?」
「それは!」
サアラは苦い顔をして何か言いたげだったが、最後はため息をついてから立ち去った。
その様子を見ながらリュカは思案する。サアラにはもうこれ以上は隠しきれないだろう。きっと彼女はあの少年の存在を探し出してしまう。聖女のためにはどうしたらいいのだろうか。
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