第8話:アニモラの街へ

「うっはぁああ! すげぇえええ! 俺飛んでる! 飛んでるぞヨモギィ~!」


『キュ~……』


 先ほどのフォルゲリオとの戦闘でも飛んではいたが、あの時は無我夢中だったため周りを見る余裕なんてなかった。しかし今はどうだろうか! 現代日本のような高層ビルなどはなく、おまけに視界の遥か彼方まで続く美しい自然が、まるで俺たちを歓迎するかのように風に揺れていた。


 キラキラと光るのは水か何かだろうか? 雲がかかった山々や開けた草原では、見たことのない巨大生物が闊歩している。


 そんな大興奮する俺を見て、頭の上で呆れたようにため息を吐くヨモギ。対して俺は、「おいおい」とヨモギに話しかける。


「別にはしゃいでもいいじゃないかよ! お前と違って、人間は体一つで飛べないんだからな! 飛行機でしか見たことのない光景を、こうやって見れるんだ! 興奮しても仕方な……うひょぉおおお! 魔法最高ぉおおおお!」


『キュキュッ』


「あ? 飛行機が何かって? 空飛ぶでっかい機械だよ。そうだな……今度俺のいた世界の話、ヨモギにもしてやろうか?」


『ッ! キュ!』


 興味津々と言った様子で頭から襟ぐりへと移動し、頭だけ出して嬉しそうに鳴くヨモギ。そんなヨモギにほっこりしながら、俺は徐々に高度を下げて街へと向かうことに決めた。


(空飛ぶのが楽しすぎて、周囲を飛び回りすぎたぜ)


 さて、そんなこんなで街へと向かった俺とヨモギ。空から見た感じだと、街そのものはそれなりに大きいようにも見えるが、ファンタジー御用達のお城などの姿はない。一番目立つのは、街の中心近くにある大きな洋館だろうか。そこだけが高台のようになっているため、特に目立っているように思える。


「さぁて、ヨモギ。そろそろ着陸準備を頼む。そうだな……あの街の門から、ちょっと離れた場所に降りようか」


『キュ』


 空から確認してみたところ、街の出入り口となっている門には門番らしき人影が見えた。

 いきなり空から人が現れたら、驚かれる可能性があるうえに、不審者として対応されかねない。そのため、できるだけ人畜無害を装うため、徒歩で街までやってきた旅人のようなものだと認識してもらえれば、安全に街に入ることができるだろう。


 万が一、入場料的なものが取られるという場合でも心配はご無用。そういうことも見越して、フォルゲリオたちのアジトからある程度のお金は拝借して学ランの内ポケットに入れてある。


 銅貨っぽいものに、銀貨っぽいもの。貨幣価値はわからないが……まぁそこは何とかなるだろう。

 なんたって魔法使いだ。不可能を可能にする魔法使い。銅堂金剛、ここに見参! なーんて!


『キュンッ』


「アイテッ!?」


 心の中で調子づいていたら、襟ぐりから顔を出していたヨモギが顎に向かって頭突きをかましてきた。

 ガチンと歯が鳴り、ジンジンとした痛みが顔に響く。そういえば、ヨモギとは心での会話が可能なんだった。今の内心も見透かされていたらしい。


 その通りだと頷くヨモギに謝りながら、とりあえず門番に見えない場所へ着陸する。


「よっしゃぁ、ヨモギ! 俺にとっては、異世界初の街だ。気合入れて、行くぞ!」


『キュゥウ!』


 街まで続く道をルンルン気分で進んでいく。魔法を使えばすぐに着くのかもしれないが、こうして街までの時間を楽しみにしながら歩くのも気分がいい。


「どんな街かなぁ……異世界の街だ。不安も多いけど、楽しみな部分も多いな!」





「で? どこから来たの? 名前と目的は? 身分を証明するものはあるかな?」


「……ッス」


 不審者認定されて門番の人に止められてしまった。


 いや、違うのよ? 別に怪しい動きをしたとか、失礼な態度を取ったとか。そういうことは一切していない。ちゃんと堂々とした足取りで、堂々と挨拶して、堂々と街に入る手続きをしようとしたところでこれである。


 なんで?


「えっと、日本から来た……ってことでいいんですかねぇ。金剛っていいます。街にはしばらくの生活拠点と、お金を稼ぎにってところです。身分証は……すみません、荷物と一緒に無くしてしまい……」


 門番のおじさんに詰所のような場所へ連れ込まれた俺は、そこで門番のおじさんと対面に座って事情徴収を受けることに。

 理由は明白。格好が怪しいから。これに尽きる。


 まぁ、うん。そりゃ異世界で現代日本の学ランとか、あるわけがないよな。見慣れない格好してる奴が、荷物もなくやってきたらそりゃ怪しむ。


「コンゴーくん、ね。しかし、ニホン……? 聞いたことない国だな。それで、しばらくの拠点ということは旅人か何かか? 荷物を落とすなんて、災難だったな」


「あ、あはは……ええ、本当に。この先しばらく行ったところで盗賊に襲われて……命からがらって感じでしたんで」


 荷物を落としたバックストーリーとして、盗賊に襲われたことにする。まぁ山賊も似たようなものだし、実際には捕らえられていたのだ。襲われたと言っても過言ではない。それに、逃げるために荷物をすべてほっぽり出してきたと言えば理解もしてもらえるだろう。


 だがそんな俺の考えとは裏腹に、門番のおじさんは「なに?」と顔を顰めるのだが、次の瞬間にはその表情が驚愕へと変わって目を見開いていた。


「そ、そうか、この先は……! だ、大丈夫だったのか!? よく、逃げ切れたな!?」


「え? あ、はい何とか……魔法使えるんでそれで……」


 なぜかこちらを心配する門番のおじさん。そんな彼の言葉に躊躇いながらも頷いた俺は、逃げ切れた理由として魔法が使えることを話す。

 するとどうだろうか。彼はさらに目を見開き、目玉が零れ落ちそうになっている。


「魔法使いなのか!? いや、その手の紋章、たしかに魔法使いだ! 属性は!? よくあの《地砕き》相手に逃げきれたな!?」


「え、あ、はい……風の魔法を、少々……」


「風か!! なんともアニモラらしいじゃないか!!」


 ヨモギに指示を出し、小さな風を手の上で発生させると、竜巻を見た門番のおじさんはさらにその興奮を高ぶらせた


 その勢いに若干引き気味になるのだが、そんな俺の反応を見て彼はハッと正気に戻る。

 そして、先ほどまでの態度を誤魔化すようにゴホン、と咳払いして見せた。


「すまない。つい、な。最近は魔法使いが弱いとか、役に立たないとかさんざん言われている中で、君のように若い子が魔法使いになっているのを見ると嬉しくなるんだ。なにせ、私も魔法使いだからね」


 ほら、と指先に水の塊を作り出して見せる門番のおじさん。その様子に、思わず俺も「おお!」と興奮の声をあげた。


 なにせ、自分以外の、それも風ではない水の魔法だ。見て興奮しない方が無理だというものである。


(キュゥゥゥ……)


(自分の方がすごいってか? おいおいヨモギ、嫉妬なんかするんじゃないぞ? お前の魔法が最高なのは、一番俺がよく知ってるんだからな)


(……キュ!)


 脳内ヨモギがジトォ~っとした目で俺を見ていたためこれを宥めていると、「よしわかった!」とおじさんが立ちあがった。

 何事かと思いきや、おじさんは俺を置いて詰め所を出て行き、そして少ししてからまた戻ってくる。その手には、何か紙のようなものが握られており、再び俺の対面の席に着くと、その手に持った紙をこちらに差し出してきた。


「本来なら、あまりこういうことはしちゃいけないんだが……同じ魔法使いのよしみだ。これ、持っていくといい」


「あの、これは……?」


「紹介状だよ。こう見えて、私もマギカスタ家の騎士団に身を置いていてね。旅人を辞めてこの街で暮らすのなら、マギカスタ家の騎士にそれを見せてくれ。最近は魔法使いの人でも不足しているから、もし騎士団に入りたいのなら大歓迎だ」


 このマークを目印にするといい、と門番のおじさんは肩の布地に刻印されたマークを指さした。

 植物が巻き付いた杖のマーク。それがおじさんの言う、マギカスタ家? のものなのだろう。


 まぁ定住する気はないため、無用の長物になるのは仕方ないが……貰えるものは貰っておこう。

 なにせ、いつかは帰るつもりなのだ。もちろん、この夢のような世界にずっといたいとも思うが、別に死んだわけでもないため、元の世界に戻る必要はある。その手段を探すためにも、旅は続けるつもりだ。


 そのカギとなるのは、やはり魔法だろう。異世界へと帰還する魔法……すぐには見つからないかもしれないが、焦らずじっくり、この夢のような世界を楽しみながら探そうじゃないか。


「ありがとうございます。もしその時は、是非よろしくお願いします」


「それじゃあ、コンゴーくん。ようこそ、アニモラへ! 歓迎するよ、若い魔法使いくん」


 最初の不審者を見る目はどこへやら。魔法使いというだけでその態度を軟化させた門番のおじさんに苦笑を浮かべながら、俺はアニモラへと足を踏み入れる。


「あ、そういえば山賊のアジトの場所……まぁ、この先ってのは伝えてるし、心当たりありそうだから大丈夫か」


 ふと中へと入ってから思い出すが、まぁ伝えるべきことは伝えているため問題はないだろう。

 俺は都会へとやってきたお上りさん気分で、スキップと共に散策を始めるのだった。


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