【掌編】特別な人【約600文字】

音雪香林

第1話 特別な人。

「嫌いな人なんていないわ」


 高校の昼休み中の雑談で、あなたはそう微笑んだ。


 他の女子生徒たちは「あんたって本当に胡散臭いくらい善人よね」って笑ってたけど、私はぞっとした。


 だって、嫌いな人がいないということは「好きな人」もいないのではないということ。


 一律に知り合い全員が「どうでもいい」存在なんじゃなかろうか。

 そう思ったから。


 あなたは猫の毛みたいなふわふわの髪質にミルク色の肌、たっぷりしたまつ毛の縁取る愛嬌を宿したとび色の瞳と、西洋人形のようなかわいらしい外見の持ち主で、いつも微笑んでいる。


 誰に対しても親切で、悪口なども言わず、成績優秀でスカート丈を短くするなどの校則違反もなく教師からの信頼も厚い。


 けど、その「完璧」が、他人に隙を見せないための「鎧」だとしたら……。

 あなたは人に囲まれていながらその実とても薄情で孤独な人だ。


「どうしたの?」


 突然顔をこわばらせてあなたを注視した私を心配するその表情が。


「気持ち悪い」


 反射的に出た言葉に、あなたの周囲の女子生徒たちがギョッとした顔をする。

 なのにあなたは……。


「ふっ……ふふふ」


 とても楽しそうに声をあげて笑った。

 次の瞬間私を射抜いたのは「面白いものを見つけた」といわんばかりの愉悦に満ちた視線。


「やっと、特別なおもちゃを見つけられた気がするわ」


 あなたのその台詞に私は悟った。

 取り返しのつかない失敗をしたのだと。


 ああ、私はこれからどうなるのだろう。




 おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

【掌編】特別な人【約600文字】 音雪香林 @yukinokaori

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ