第拾参話 魔力

 ウツギとツバキの決闘のあと、ウツギはタビラコからの魔法による治療を受けていた。


「よし、こんなもんだろ」


 ウツギがツバキから受けた炎槍の一撃は、かすっただけとはいえ、ウツギの横っ腹に軽くはない火傷と裂傷を負わせていたのだが、タビラコの治癒魔法によって跡形もなく癒えていた。


「すごいですね魔法って、あれだけの傷が一瞬で完治しちゃいました」


 ウツギは体をひねりながら調子を確認し、傷が完治していることに驚きを隠せない。


「この学園で学べばこれぐらいのことはいずれお前も出来るようになる。ま、精進するんだな」


「な~タビラコ~あたしも治療してくれよ~」


「お前は自分で治療しろ、出来なきゃ我慢するんだな。あと先生をつけろ先生を!」


「なんだよあたしばっかり~」


 ツバキは唇を尖らせながらタビラコに抗議するが、タビラコはそんなツバキ抗議を無視する。


「いいんですか?僕結構いいのを当てちゃいましたよ」


「――いいんだよ。ツバキは才能は有るんだが治癒魔法はちと苦手でな、あれぐらいの傷は自分で直してもらわなきゃ今後の成長に関わる。それに――」


 タビラコはそこまで言ってウツギに耳打ちする。


「お前、だいぶ手加減して攻撃したろ」


「そんなこと――いや、はい、手加減しました」


 ウツギはタビラコの指摘に驚きを見せながらも、ツバキにバレてはならぬと声のトーンをかなり落として肯定する。


「それにしても良くわかりましたね」


「あのな、一応俺はこの学園の教諭だぞ?それぐらいわからなくちゃ教諭を務められるかってんだ」


「そうなんですね」


「おう、だから次からは本気で攻撃するようにしろよ。危険と判断したらしっかり俺らが止めてやる」


「はい」


 頼もし気にタビラコがグッドサインをウツギに送ると、とウツギはこの人なら信頼がおけるなと確信する。


「ん?二人して何こそこそ話してんだ?」


 二人の密談に気が付いたツバキが二人に向かって語りかけて来る。


「な、なんでもないよ」


「そうか?」


 ウツギの言葉に小首をかしげるツバキ


「そうだぞツバキ、って言うかお前、怪我はどうした?」


「オオバコに治してもらった」


「ずるするんじゃねぇよ、オオバコもオオバコだ。いつも言ってるだろ、ツバキのためにならねえから治癒魔法はツバキに使わせろって」


 いつのまにか闘技場まで下りてきていた鬼人族の女生徒――オオバコは困り顔で言う。


「すみません。けど、ツバキちゃんからの頼みは断りづらくって」


 タビラコは頭を掻きながら、呆れ顔になる。


「まったく、しょうがねえなあ。ツバキ、次は無いからな」


「おう」


「返事だけは一人前なんだよなあ――他の奴らも降りてこい、時間がまだあるから今からツバキのために治癒魔法の訓練を始めるぞ」


 タビラコの提案にツバキは露骨に嫌な顔をする。


「ええ~」


「文句言うなよツバキ、ズルした罰なんだからな」



「おーし、全員そろったな。それじゃあ各自いつも通り治癒魔法の訓練を始めろ」


 タビラコの号令によりS組の生徒たちは各々自身の指にナイフで傷をつけてから治癒魔法の訓練を開始する。


 しかしながら魔法の行使の経験のないウツギはどうしたらよいのかわからず、申し訳なさそうな顔をしながらタビラコの下に歩み寄っていく。


「先生、僕は魔法の経験がないのですが……」


「おお、そういえばそうだったな。だったらウツギは魔法の基礎練習からだな」


「基礎練習ですか?」


「そうだ、ウツギにはまず自分の魔力を感じることから始めてもらう」


「僕に魔力があるんでしょうか?」


「この世界に魔力のねぇ生物は存在しねぇよ。最初は俺がお前に魔力を流してやるからそれを感じてみるんだ」


「わかりました」


「ほら、手を出すんだ」


 言われてウツギはタビラコの前に両手を出す。するとタビラコはウツギの両手を掴み、自身の魔力をウツギに流す。


 ウツギは自身に温かな何かが流れて来るのを感じた。


「この温かいのが魔力ですか?」


「そうだ、その感覚をしっかり覚えておけよ」


 そこまで言うとタビラコは掴んだ手を離す。


「それじゃあ今の感覚を持ったまま、魔力操作を行うぞ。魔力ってのは丹田――へその下あたりから発生して全身を駆け巡るんだ。だから最初はへその下あたりを意識して全身に魔力が流れてるイメージをするんだ」


「わかりました。やってみます」


 ウツギはタビラコに言われたとおりにへその下あたりを意識して、そこから全身に魔力が流れるイメージを行う。


「最初は中々上手くいかないと思うがそれが普通だ。魔力ってモンはイメージが大事でな、より明確にイメージすることが出来るようになれば――」


「あ、出来ました」


「なにぃ!?」


 魔力というモノは取り扱いが難しい。イメージを明確にし、寸分の雑念も許さない、それだけの集中を経てようやくコントロールすることが出来る力だ。


 では、何故ウツギがこうも簡単に魔力をコントロールすることが出来たのか。それはウツギの高い剣術レベルが起因していた。


 ウツギの剣術レベルは8、これは既に達人の域に達しているレベルである。この世界において達人とは常人とは比べ物にならないほどの集中力を持ち、全員が魔力のコントロールをすることが出来る。


 故にウツギも持ち前の集中力を用いることで、魔力コントロールを成し得たのである。


「そういやお前剣術レベルがバカ高いんだったな、それなら魔力コントロールをあっさり習得出来るのも納得もできる。か?」


「知りませんよそんなこと、でもこれで魔力を扱えるようになったってことですよね」


「まあそうだな。だがお前が覚えたのはまだ魔力の基礎の基礎、これから覚えることはまだたくさんある。だからその程度の魔力コントロールを覚えたくらいで増長するなよ」


「しませんよそんなこと、これからもご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」


 ウツギはまだ11歳の子供である。故にウツギが調子に乗らないように釘を刺したタビラコであったが、ウツギの予想外の、言い換えれば子供らしくない態度にタビラコは戸惑いながら「お、おう」と返すのであった。

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