第拾弐話 決着と和解

 テンションを上げるツバキとは反対に、ウツギは片手で剣を構えながら思考する。


 ツバキは非常に厄介な相手だ。威力の高い遠距離攻撃はもちろんのこと自動で防御するシールドの魔法。特にシールドの魔法が厄介だ。いくらこちらが隙を突こうとしても自動で防御されたらなす術がない。一瞬負けの二文字がウツギの脳裏をよぎるが、ウツギはその考えを否定するようにツバキに向かって走り出す。


――とにかく攻めなくては


「良いぞウツギそうこなくっちゃなあ!!」


 ツバキの中では既にウツギがヘタレという悪印象は消え、ウツギのことを強者として認めており、今はもっとウツギと戦いたいという純粋な欲求のみでウツギと対峙していた。


 間合いを詰めるウツギに呼応するようにツバキもウツギに向かって走り出す。


 先制したのはウツギ、前のめりに突進してくるツバキのがら空きになった頭部に向けて横薙ぎの一閃を放つ。


「無駄だ!シールド!!」


 ツバキは再びシールドの魔法を発動させ、ウツギの一撃を防いでみせる。


「それなら!!」


 最初の一撃とは違いウツギは既にツバキのシールドの魔法を見ている。故にシールドで自身の攻撃を受けられることは予想の内だ。


「一撃で駄目なら連撃だ!!」


 言ってウツギはツバキに緩急をつけた攻撃を繰り返す。


「は!!ヘタナマメデッポウカズウチャアタルってか!!」


「マメデッポウってなんだよ」


「知らん!!」


 言い合いながらも二人は激しい攻防を繰り返す。しかしながらウツギの攻撃はすべてシールドの魔法に防がれてしまう。


「本当に厄介だなその魔法!」


「そうだろ、お前が遊んでいる間にあたしが編み出した鉄壁の戦法なんだからな!!」


「僕だってただ遊んでいただけじゃない!!」


「――だったら私に勝って証明して見せろ!!」


 言ってツバキはウツギの顔面に向かって正拳突きを放つ。しかしながらその正拳突きはウツギにとってあまりに分かり易い攻撃であった。


 ウツギは正拳突きを難なく避けてみせ、カウンターの一撃をツバキの死角から放ち、その瞬間ツバキはこの戦闘で初めて自身の手甲でウツギの攻撃を受けたのだ。


「くそ!!」


 この戦闘で初めての防御姿勢をとったツバキは短く悪態をつく。


――なんで今手甲で防御したんだ?


 ウツギは攻防を繰り返す中で思考する。もしかして自分は何か思い違いをしているんじゃないのか?


 そう思ったウツギは自身の考えを試すためにわざと分かり易い攻撃を繰り出す。すると今度の攻撃はツバキのシールド魔法によって防がれる。

 

 ならばとウツギは上段と思わせて中段の攻撃を繰り出す。今度は再びツバキが手甲での防御を行う。


――やっぱりだ。


 ウツギは確信した。ツバキのシールドの魔法は全自動の防御盾などではなく任意の場所に移動させる魔法なのだと。ならばウツギにも勝ち筋はある。


 ウツギは自身の確信を基に、攻撃の方法を変える。これまでの緩急をつけた攻撃に虚実を織り交ぜツバキを混乱させる方法に出たのだ。


 案の定、単純なツバキはウツギのフェイントに引っ掛かり、あらぬ方向にシールドを移動させ、ウツギの攻撃をなんとか手甲で受けるという状態に陥ってしまう。


 こうなってしまってはウツギの勝利は目前、ウツギは慎重に勝ち筋をたどりツバキを徐々に追い詰めていく。そしてついにウツギの一撃がツバキの腹にクリーンヒットした。


「おご!!」


「一本!!」


 そこでタビラコからの一本の宣言。


「この決闘、勝者ウツギ!!」


「ツバキ大丈夫?」


 ウツギは自身の勝利に喜びを表すことなく、心配そうにツバキに右手を差し出す。


 ツバキは片手で腹を押さえながらウツギの差し出した手を掴む。


「大丈夫……」


 ツバキはそう言うが顔はうつむいたままでその表情を読み取ることは出来ない。


「本当に?」


 言いながらウツギはツバキの表情を窺う。するとつばきは悔しそうに顔を歪めて、涙目になっていた。


「大丈夫ったら大丈夫だ!!」


 ツバキはウツギの手をふりほどきそっぽを向いて、ウツギに顔を見られまいとする。


「ツバキ、ごめん」


 ウツギはそっぽを向いたツバキに向かって頭下げる。決闘に勝利したとはいえ、それはツバキの意見を曲げただけにすぎず、和解とは言わない。ここでツバキに誠心誠意謝らなければならないとウツギは感じたのだ。


「――何がだ?」


 ツバキはそっぽを向いたままで、時折ツバキの方から鼻をすする音が聞こえる。


「一年前ツバキのたちの誘いを断ったこと」


「――ああ、あったなそんなこと」


 ウツギは頭を下げたまま続ける。


「あの日から僕はずっと罪悪感でいっぱいで、ツバキに謝りたいと思ってたんだ」


「だったら良かったじゃねえか、今あたしに謝れたんだから」


「うん、でもそれだけじゃあ僕の自己満足に過ぎない。ツバキに許してもらわないといけないんだ」


「ウツギ」


「何だいツバキ」


「お前変わったな、一年前まではどうしようもない弱虫で、嫌なことからは逃げてばっかりのヘタレだった」


 ウツギは昔の自身のことを思い出してクスリと自嘲気味に笑う


「うん、今思い出すだけでも恥ずかしいよ。でも僕は知ったんだ。いや、村の皆に教えてもらったんだ。自分の弱さから目を逸らさないで勇気を出すことの大切さを」


「そっか、良かったな」


「うん」


「――許してやるよ。一年前のこと」


 ツバキの言葉に意図せず頭を上げるウツギ。


「ホントに?」


「本当だよ」


「ホントのホント?」


「しつこい!本当だって言ってるだろ!」


「よかった~」


 ウツギはその場にへたり込んで安堵する。ここでツバキに許してもらわなければどうしようと昨日の晩から懊悩おうのうしていたからだ。


「そのかわり!!」


 言ってツバキはウツギのことを指差さしながら続ける。


「もう一度、あたしがもっと、も~っと強くなってからもう一度勝負しろ!!」


「え?何で?」


「負けっぱなしは悔しいからに決まってるだろ!!」


「それくらいならお安い御用だよ」


 ウツギの意図しない余裕ともとれる発言に、ツバキはピキリと青筋を立てる。


「ウツギもしかしてあたしを煽ってるのか?」


「そんなつもりがあるわけないだろ」


「それはそれで腹が立つけど――まあいい次は絶対に、ぜ~ったいにあたしが勝ってみせるからな!!」


「うん、楽しみにしてる」


「お前やっぱりあたしのこと煽ってるだろ!!」


「なんでそうなるんだよ」


 ウツギはツバキの発言に意味が分からないと言った様子で困り果てるが、そこでタビラコが二人の間に割って入って来た。


「そこまでだお二人さん、決闘の決着はついたんだから痴話喧嘩は後にするんだな」


「痴話っ!!あたしとウツギはそんなんじゃないぞ!」


「そうですよ、僕とツバキはそういう関係じゃありません!」


 ツバキとウツギは互いに頬を赤く染めながらタビラコに抗議する。


「俺は端から見たらの話をしてんだよ、それに良いじゃないか青春っぽくて」


「「よくない!!」」


「そういうところだぞ」


 タビラコがそう言うと周りで観戦をしていた生徒たちまでウンウンと頷いていた。


「「なにがですか!!(だ!!)」」


 ともあれ、ウツギは生涯の相棒となるツバキとの関係を修復するに至ったのであった。 

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