第拾壱話 決闘

 ウツギたち2年S組の面々は学園に併設された闘技場に来ていた。

 

 決闘を行うのはウツギとツバキの二人であるのだが、担当教諭であるタビラコ提案により、戦闘訓練の時間をウツギとツバキの決闘の時間にあてたのだ。


 闘技場上の中央ではウツギとツバキ、そして審判役のタビラコが決闘のルールについて話していた。


「そんじゃあ決闘のルールを確認するぞ。勝負は3本中2本を先取した方の勝ち。武器の使用は有りだがウツギは木剣を使用すること。ツバキは格闘戦専門だから手甲を使って良いが、魔法は禁止。それでいいな」


「ああ、こんなヘタレ相手に魔法を使うのはもったいないからな」


 ツバキは偉そうに胸を張りながらタビラコの申し出たルールを承諾する。


「わかりました」


「そんでもってこの決闘の勝者は教室の席を指定できる。言っててなんだが話し合いとかで解決できないもんかね」


「「無理です(だ!!)」」


 ツバキはウツギのことを睨み、睨まれたウツギもツバキの目を真っ直ぐと見つめ返す。


「わかったよ。この決闘事態俺が提案したものだしな。二人ともせいぜい頑張りな」


「「はい!(おう!!)」」


「それじゃあ一本目……勝負開始!!」


 タビラコの勝負開始の宣言と同時、ツバキがウツギに肉迫する。


――思ったより早い。


 それがウツギがツバキに対して思った感想。そう思いながらウツギはツバキを迎撃するためにかまえる。瞬間、ツバキの首筋が粟立った。


――迂闊に近づくのは危険だ。


 そう感じたツバキではあったが、ウツギを強者として認めたくない気持ちが勝ってしまい、そのままウツギに一撃を放つ。しかしその一撃は何も存在しない空を叩く。そしていつの間にかツバキの側面に移動していたウツギの一閃がツバキの首で寸止めされる。


「一本」


「な!!」


 タビラコが片手を挙げてウツギの一本目の先取を宣言する。すると闘技場の周りで二人の決闘を観戦していた生徒たちがざわめき始める。


 というのも、ツバキの実力はS組の中でもトップを張る程の実力で、魔法なしとはいえ、ツバキの勝利を疑う者は誰もいなかった。


 故にツバキがあっさりと一本を取られたことに生徒たちは驚きを隠せなかったのである。


「おいおいツバキ、お前ウツギの事を舐めてかかり過ぎなんじゃないのか?俺だってウツギが構えた瞬間に魔法なしは厳しいかと思うくらいだったんだぞ」


「ぐう……」


「どうするツバキこのままじゃ間違いなくお前の負けが決まるぞ、今だったら魔法の使用を許可しても良いんだぞ」


「それは!!」


 そこまで言ってツバキは考える。タビラコは普段ふざけてはいるが、戦闘に関しては信頼のおける教員だ。悔しいがウツギと自身との戦力差は明らかなのだろう。悔しいが、本当に悔しいがここはウツギを強者と認めるしかあるまい。


「わかった。魔法の使用を願い出る」


「ま、それが妥当だな。ウツギもそれで良いか?」


 ウツギには対魔法使いの戦闘経験などない。しかしウツギは全力のツバキと戦ってみたいという好奇心からツバキの魔法の使用を快諾する。


「大丈夫です」


「決まりだな。それじゃあ二本目いくぞ」


「「はい!(おう!!)」」


「それじゃあ二本目、開始!」


 ウツギの中では魔法使いとは戦場の後方に位置して大火力で敵を一掃する認識であった。故に距離を取って戦うことは得策でないと判断したウツギは、今度は様子見することなく自身から間合いを詰めるために走り出す。


 しかし、ツバキはウツギの想定とは異なり、一本目と同じように真っ直ぐとウツギの方に突進してきた。

 

 ウツギは想定とは異なるツバキの行動に驚きつつも、自身の方が間合いが遠いことを利用して上段からの振り下ろしの一撃を放つ、タイミングは完璧。通常であればこれで勝負が決まるはずであった……そう通常であれば。


「シールド!!」


 ツバキが魔法名らしき呪文を唱えると、ツバキの頭上に魔力で構成された六角形の盾が現われ、ウツギの放った一撃は盾に防がれてしまう。


「!!」


 痺れを伴う硬い感触。この盾、薄さの割に硬い。ウツギはそう思いつつ、ツバキからの反撃に警戒して即座に距離を取ろうとバックステップする。


「させるか馬鹿!!」


 ツバキはそう言いながらウツギに肉迫し、その拳を強く握りしめてがら空きになったウツギのどてっぱらに突きを放つ。


 しかしながらウツギもツバキの攻撃を予測しており、腹への一撃を体を回転させながら躱し、回転の勢いを利用して頭部へ横薙ぎの一閃を試みる。が、その攻撃もいつの間にか移動した盾に防がれてしまう。


――予想以上にやりにくい。


 特に移動する盾が厄介だ。その硬さもさることながら移動式というのがその厄介さを増させている。

 

 あの盾があるかぎりウツギの攻撃は通用しない。ここは防御に徹して様子見するか?ウツギが戦略を立てている間もツバキの猛攻は続き、ウツギは時に木剣を、時には回避を駆使してツバキの猛攻をいなし続ける。


「どうしたウツギ攻撃の手が止んでるぞ!!」


 ツバキは調子を良くしたのか、ウツギへの攻撃を繰り出し続ける。


「言ってる割には、攻撃が当たってないけどね」


「そうかよ、なら!!」


 ツバキが言うと同時自身の体に魔力を充填させ、身体強化魔法をかける。するとツバキの動きが前にもまして早くなり、その攻撃の重さも重くなる。


「そう、ら!!」


 ツバキの正拳突きが木剣ごとウツギを吹き飛ばす。吹き飛ばされたウツギは体の制御をなんとか取り戻し、受け身を取る。そして顔を上げるとツバキが既に攻撃態勢を取っていた。


「これで終わりだウツギ!!」


 魔力を拳に充填させるツバキ、しかしながらウツギとツバキの距離は10メートルは離れている。


「フレイムランス」


 ツバキの眼前に炎の槍が出現する。


「シュート!!」

 

 言ってツバキは出現した炎の槍の石突部分を全力で叩き、炎の槍をウツギめがけて射出する。その速度は正に弾丸の如し、防御をしても木剣ごと貫かれることは目に見えている。ならば、


 ウツギは回避態勢と同時に防御態勢を取り炎の槍を避けつつ木剣で槍の軌道を逸らそうとする。しかし、木剣はその先端部部が焼失しウツギの横っ腹を炎の槍がかすめる。


「ぐう……」


 ウツギの腹に焼ける痛みが走る。もし直撃していたら試合続行不可能となっていたろう。ツバキらしい後先考えない攻撃だ。


 ウツギは自身の横っ腹を押さえながら歯を食いしばって木剣をツバキに向ける。


――二度目は無い。


 そう直感で感じながらもウツギは自身の勝利を諦めない。ツバキはそんなウツギに口の端を曲げて笑みをこぼす。


「いいぜ、最高だウツギ!!」

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