第陸話 ヘタレの意地
ウツギがいじめっ子たちを友達にしてから1ヶ月が経った。
あの日からウツギの毎日は劇的に変化し、朝はコガマとの剣の訓練、それが終わると夕方までウルシたちと遊ぶ。
ウツギはそんな充実した日々を毎日楽しく過ごしていた。
そんなある日のこと。
「今日は近くの森に探検しに行くぞ!!」
ウルシがいつものように遊びの提案をする。
「え!村の外に出るの?」
「なんだよウツギ怖いのか?」
ニヤリと笑いながらウツギの挑発するウルシ。
「怖くなんかないよ。でも……」
「でもなんだよ」
「父さんたちが言ってたんだあの森に遊びに行くのは駄目だって」
「何でだよ」
「それは……わからないけど」
「だったら大丈夫だろ、もし何かがあっても武器さえ持ってれば大丈夫だ。ウツギは”剣術”スキルを持ってるし、俺は”槍術”スキルを持ってるしな」
「……うん」
「良し決まった!!それじゃあ皆武器を用意して森の入り口まで集合な。いいか、絶対に大人たちには見つかるなよ!!」
こうしてウツギたちは村の近くの森の探検をすることになったのであった。
◆
数十分後ウツギたちは近くの森の入り口に集合していた
「よし!皆あつまったな、それじゃあ今から森に入るぞ一応”スキル”持ちの俺が先頭で、ウツギは一番後ろな」
そうウルシが言うと子供たちはウルシを先頭に、子供たちは続々と森の中に入って行く。
「ねえウルシ、本当に大丈夫かなあ?」
一番後ろにいたウツギがそう言うとウルシがうざったそうに言う
「またかよウツギ、俺とお前がいれば大丈夫だって」
「それでもさあ」
「くどい!!ほら、行くぞ!!」
言ってズンズンと森の中を歩むウルシ、ウツギはこの森に入ってから妙な感覚を感じていた。
それは気配を感知するといったものとはまた別の感覚、森の中に入り、森の様子を注意深く見ていると得も言われぬ感覚を刺激される。
その感覚にウツギは不安を感じていた。
それから数十分ウツギたちの探検は何事もなく進んでいた。
「なんだつまらねぇ、出てくるのは小さなウサギばっかり、スライムくらいいても良いんじゃないか」
スライムとはこの世界において最弱の魔物の内の一種であり、その生息地は暗く湿った湿地や、洞窟の中、この森のように日の当たる場所にはほとんど存在しない。
「ねぇ、そろそろ帰ろうよ」
そう言ったのはウツギだ。
「そうだな、これ以上は派にもなさそうだしな」
ウツギが感じていた奇妙な感覚、それは森の奥に入って行けば行くほど強くなってきており、その感覚にウツギの我慢も限界に達していた。
故に、森を出ることが決定した時ウツギは安堵した。
が、安堵するには些か早かった。
「お、おいあそこ!!」
子供たちの一人がある一点を指差しながら悲鳴じみた声を上げる。
ウツギが指さされた先を見ると、そこには一本の角を生やした熊がいた。
「一角熊だ!!」
一角熊は成体になったばかりになった個体なのだろう、身の丈は鬼人族の大人程度の大きさであったが、それでも子供たちにとっては脅威であることには変わりはない。
実際稀にではあるが、村の大人が一角熊に襲われて重傷をおったということがあり、ウツギの両親が森に入るなと言った理由も一角熊の存在がその理由の大半を占めていた。
一角熊は既にウツギたちに狙いを定め、その身をウツギたちに向けて突進させていた。
「こっちに来るぞ!?」
「どうしよう!?」
ウツギとウルシを除いた子供たちは半狂乱となり、慌てふためいている。
「ウツギ!!」
「う、うん!!」
今から全員が逃げても間に合わない。それを察したウツギとウルシはそれぞれ木槍と木剣をかまえる。
「おい!お前らは逃げて大人たちを呼んで来てくれ!!」
「わ…わかった」
ウルシがそれだけ言うと二人を除いた子供たちは村に向かって走って行く。
「ウツギ覚悟を決めろよ」
「うん」
ウルシの言う覚悟とは、命を張れという意味だ。なぜなら現在いる地点から村までは早くても1時間はかかる。
つまり、大人の助けは期待できず、二人で一角熊を
一角熊は武器を構える二人に向かって迷わず突進してくる。
二人はその突進を寸前のところで躱し、一角熊はそのままウツギたちの後方にある木に激突し、激突された木はなぎ倒されてしまう。
この突進を受けるのはマズイ。突進をさせないように立ち回らなければそう思ったウツギは木剣を構えながら一角熊に肉迫する。
「ウルシ!一角熊の攻撃は僕が受け持つから、ウルシは一角熊の隙をついて攻撃して!!」
「まかせろ!!」
言ってウツギは一角熊に向かって木剣を振るい一撃、二撃と攻撃を加える。しかし、ウツギの持つ木剣は所詮は木剣だ。何度攻撃を加えようと一角熊にろくにダメージを与えられない。
くそ、やっぱり木剣じゃダメージを与えられない。
それはウルシも一緒で木槍での攻撃を何度も与えるが一角熊に効いている様子はなかった。
「ウルシ、闇雲に攻撃していても意味がない。弱点を突くんだ!!」
「弱点って言ってもどこにあるんだよそんなもん!!」
ウルシの言う通り一角熊の弱点の場所なんてウツギにはわからない。だが、生物には共通の弱点というモノがある。
「心臓か頭を狙うんだ!!」
「お、おう!」
ウルシはウツギの言う通りにウツギのつくってくれた一角熊の隙を突いて一角熊の心臓めがけて渾身の一撃を放つ。
「グギャ」
すると、そこで初めて一角熊が悲鳴を上げた。
「効いた!!」
初めての一角熊の悲鳴を聞いて、ウルシは歓喜の声を上げる。
「よし、このまま弱点を責め立てよう!」
ウツギたちはここぞとばかりに一角熊を責め立てる。しかし、それは一角熊の逆鱗に触れるだけの攻撃に過ぎなかった。
「グギャアアアー!!」
怒りの叫びとともにの一角熊がその角を横薙ぎに振るう。するとウルシの木槍が角に触れてしまいウルシの木槍が折れてしまう。
木槍が折れると同時ウルシの体勢が崩れ、その隙を一角熊は逃さなかった。
「しまっ!?」
隙のできてしまったウルシは咄嗟に折れた木剣で防御姿勢をとる。しかし一角熊の前足による強打にウルシは吹き飛ばされ、ボールのようにバウンドしながら最後には森の木にぶつかりその動きを止めた。
「ウルシ!!」
思わずウルシの名を叫び、戦闘中だと言うのに吹き飛ばされたウルシの方を向くウツギ。
ウルシからの返事はない。こと切れてしまったのか、気絶したのかそれはわからない。わかったことはただ一つ。
そこまで考えてウツギはしまったと一角熊の攻撃に備えるために防御姿勢をとった。しかし、一角熊からの攻撃はこなかった。
一角熊はウツギが自分の方を向くまで待っていたのだ。不思議に思ったウツギは一角熊の顔を見る。するとウツギの目には一角熊が嗤っているように見えた。
こいつ、何で嗤っている。僕一人程度なら簡単に殺せると思っているのか。
そこまで考えてウツギの中で何かが切れた。怒りがこみ上げこいつを絶対に
「確かに僕は弱虫だ、どうしようもないくらいのヘタレだ。だけどな熊野郎。そう簡単に僕が殺せると思うなよ!!ヘタレの意地見せてやる!!」
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