第12話
次の日、本邸に移ってすぐライアンと共に父に呼ばれた。
魔法の素養の確認をするためだ。
連れられた部屋の中央には、私のサイズに合わせたやや小さめの机が置かれている。
この国の子供にとって七歳の誕生日は特別である。
魔法と魔物が存在するこの世界では、生まれ持った魔法の素養がかなり重要になってくる。
この世界の魔法とは、世界中にある魔素と呼ばれるエネルギーを意識して操ることで起こる現象のことだ。
例えば空気中の水素が冷えることで結露が出来る。水を温めることで水蒸気になる。
そういった元素の性質。
それを魔素を使って意識的に起こすと魔法と呼ばれる。
地球では水を温めたかったらヤカンやケトル、鍋などの道具を使う。
この道具がこの世界では魔素だと考えたら分かりやすいだろうか。
この魔素をどう使うのが得意か、というのが魔法の素養になる。
魔法の素養は人によって様々だ。
水や火を操る素養が高い人もいれば風を起こす素養が高い人もいる。
私が期待されている治癒魔法の素養とは、この魔素を肉体の修復に使うことに長けている、ということだ。
この素養を確認する方法はかなり昔に確立されていて、それが机の上に置かれている紙だ。
この紙は使用者の魔素の扱いを補助する魔道具で、教会から貰うことが出来る。
紙には一見なにも書かれてない。
が、実際は書いてしばらくすると透明になる特殊なインクでびっしりと術式が書き込んであるのだ。
素養を確認したい人が術式が書いてある面に手を乗せて、しばらくすると、透明なインクがその人の得意な系統の色に変化するのだ。
火の素養なら赤。
水の素養なら青。
風の素養なら黄色。
光の素養なら白。
治癒の素養なら光る。
それぞれのを混ぜた色が出る場合はどちらも得意、ということになる。
紫なら火と水の素養が高い、といった具合だ。ちなみに全ての扱いが得意な場合は光を帯びた灰色に変わると言われている。
でも灰色の色実際はほとんど出ない。
皆無ではないが歴史を遡っても数える程だという。
七歳で使った色が変化した後の紙は、一番下に普通のインクで使用者の名前を書いて保存しておかねばならない決まりだ。
何かあった時に自分の素養をはっきりさせる為だ。
「さあ、ルチア」
「はい、お父様」
父とライアンが見守る中、紙の上に手を乗せた。
そのまましばらく待つ。
なにも書かれていなかったように見えた紙にじわりと緑色の文字が浮かんでくる。
その緑がくっきりした頃、書き込まれた術式がほんのり光を帯びた。
「これは、水と風、それに治癒の素養か……」
紙の変化を見ていた父が呟く。
どことなく満足そうにみえる。
二種類の素養、そして治癒。
複数の素養があるのはなかなか良い結果だ。
ゲームのシナリオ上ではルチアの素養は幼少期のステータスによって変化する。
その時の得意な素養と治癒となるのだ。
なのでゲーム上ではやろうと思えば灰色に変化させることも可能だ。
攻略対象によってはかなり高いスペックを要求される事もあるから、基本的にこの素養確認の時に灰色になるようにステータスを上げるのが攻略サイトのオススメだった。
私は流石にそこまで万能ではなかったようだ。ゲームのように決まったステータス上げの方法がある訳じゃないので、得意不得意がどうしても偏ってしまう。
治癒の素養はルチアである以上確定だった。
なので文字が光ることより、インクが何色になるかが私にとって重要だった。
水と、風。
水の素養とはそのまま水を生み出したり操ることに長けている。
応用で霧や氷などに変化させることも可能だ。
風の素養は空気の流れを動かすことに長けている。
例えば遠くの音を拾ったり、そのまま風をおこしたり。
どちらも応用次第ではかなり有用だ。特に水の素養は助かる。
もしサバイバルのような状態に陥った時、水は生きるために必須だ。
これで将来の生存率が少し上がったと思う。
紙の下に名前を書き込む私を見ながら、父が口を開く。
「さて、素養の確認も済んだ。これからはある程度お前の自由裁量を認める。事前に私に連絡しライアンを伴うのであれば外出も好きにするといい」
「ありがとうございます」
「貴族として、民の上に立っている事を忘れるな。自分の振る舞いを常に意識するように」
「はい」
目の前に座る父に頭を下げた。
七歳を迎えた子供は半分大人として扱われる。
実際の成人は十八歳だが、その歳まで子供として扱われることは無い。
平民の子供なら七歳から簡単な仕事を請け負う子もいる。
そしてこの扱いは私にとってとても都合が良い。
どうしても、学園に入学する十三歳になる前にやっておくと決めていることがあるからだ。
今から三年後におこる、ゲームシナリオ的には関係の無い出来事。
派生ゲームにあった要素の、新ダンジョン。そのダンジョンに潜りたいのだ。
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