第4話

 

 目が覚めたもののあえなくベッドの住人になった日から更にに数日が経った。すっかり熱も下がって元気になったので、やっと普段通りの生活をする許可が降りた。


 改めて状況の整理と今後の対策を考えようと思う。


 まず私はルチア・パラディン。

 この国はザウスクラスト王国で、シラーユア大陸の南に存在している。


 シラーユア大陸は陸地が南に長く突き出したような形の大陸で、北に行くほど陸地の面積が大きくなる。いくつかの国が陸地を分断するように存在している。

 そして南に長く突き出した場所にあるのが、このザウスクラスト王国。

 なのでザウスクラスト王国は国境の半分が海だ。

 唯一陸つながりの北側には三つの国がある。


 それぞれ少しずつ国境が繋がっていて、ザウスクラスト王国のみが海に面している為に海産物の輸出が盛んだ。

 かわりに鉱山はなく、鉱物資源は他国からの輸入に依存している。


 隣国はリアメカ帝国、トルルコ商業国、ルーペ王国。


 一番国土が広いのがリアメカ帝国。

 リアメカ帝国はいくつかの王国を傘下に統治している武力至上主義で、力さえあれば帝国の重鎮にもなれる。

 今の皇帝も前皇帝を決闘で倒して皇位についた。


 反対にルーペ王国は血統至上主義。

 こちらは古くからの血統こそ重んじられるべきであるとして、新興貴族や成り上がりの豪商人などを見下す傾向にある。歴史ある領土を誇りに思っているので国土はそんなに広くない。

 そしてリアメカ帝国との仲があまり良くない。


 トルルコ商業国はリアメカ帝国とルーペ王国に挟まれる形で存在していて、こちらは名前の通り商人の国だ。

 もともと両国からあぶれた商人達が寄り集まって建国されたと言われている。国土はいちばん小さい。


 この中で一作目のストーリーに関係してくる国はないのだけれど、前にも言ったがこのシリーズ、めちゃくちゃ派生作品が多い。


 なので一作目の時間軸の幼少期の年代が舞台のダンジョン攻略ゲームだとか、ルチアが大人になってからおこる大戦の戦争ゲームだとか、果ては国を作る建国シュミレーションゲームまであるのだ。


 そして今のこの世界に生まれてしまった私には一作目に出てこないから関係ない、なんてことになるはずもなく、当然成長する上で各ゲームの主軸になる出来事は起こる。

 だって時間軸が一緒なのだから。


 そうなった場合、問題になる出来事は大きくわけて三つ。


 ひとつ、隣国ルーペ王国のお家騒動。


 ひとつ、リアメカ帝国で新たに発見されるダンジョン。


 ひとつ、この大陸全土を巻き込んだ大戦。


 当然ながらどれもルチアひとりの力でどうにかなるような規模ではない。

 なので、これらが起こる時にどれだけ身の安全を確保するかが問題になってくる。


 なってくるのだが、これらはまだもう少し先の未来の話で、今の三歳のルチアがとれる対策は実はほぼない。


 せめて、自由に動いても何も言われなくなる六歳くらいになってからかなぁ。



 とりあえず三歳の時におきる一番大きな出来事は、ストーリー上のライバルであるライラック公爵家のレベッカ嬢と、この国の第二王子であるユーリカ王子の婚約だ。


 もともと王家の婚約者として候補に上がっていたライラック公爵家のレベッカ嬢三歳と、現在王太子であるウォルター第一王子五歳、ユーリカ第二王子三歳との顔合わせが行われるのだ。


 そこでレベッカ嬢は第一王子には見初められず、第二王子がレベッカ嬢を気に入った事で第二王子との婚約が確定する。


 成長したレベッカ嬢は第一王子に袖にされたことを内心不服としていて、第一王子ルートに入ると大貴族の令嬢としてかなり攻撃的に邪魔してくる。


 第二王子ルートの時のほうが大人しく、普通の婚約者として苦言を呈してきたり。

 ヒロインのステータスを上げきれてなかった場合は圧倒的スペックでルートをへし折ってくる真っ当なライバルとして登場する。

 なのでルートの難易度は第一王子ルートの方が高い。

 これはレベッカ嬢の感情だけではなく、ルチアの出自が王妃、しかも側妃ではなく正妃として迎えるには問題があるせいもある。



 ルチアは伯爵家の庶子だ。



 母は男爵家の三女だった。伯爵家に妻として嫁ぐには家格が足りず、本邸にこそ引き取られていないものの認知はされており、パラディンの家名を名乗ることも許されている。

 庶子だが認知されているのは、この世界の子供の生存率が低いからだ。

 その為生まれた子供は基本的に守られる。

 孤児でさえ七歳までは無条件で教会で育てられ庇護される。


 なので三歳のルチアがしっかりと保護されているのは当然なのだ。


 そしてパラディン家には既に六歳になる嫡男と四歳になる次男がいる。

 私が女児だったこともあり、家督を継ぐ権利がない故に家督相続のトラブルもない。

 お家の発展に役立つだろうと別邸で教育も施されている。


 故にこの先、十三歳の時に入ることになる学園で圧倒的好成績を残し他の令嬢を納得させ、かつ王子との好感度を上げルート分岐を間違わず死ななければ伯爵家庶子であろうともライバルの婚約者との婚約を円満に解消し、ハッピーエンドを迎えられるのだ。


 とはいえ王妃としてはやはり庶子、しかも公爵家令嬢を差し置いての恋仲だ。王太子ルートの方がレベッカ嬢が苛烈になるのも当然である。


 もちろん物凄く難しいけど。

 そしてそのルートは選ばないけど。


 因みに王太子である第一王子の婚約者が学園入学まで決まらないのは王太子が優秀過ぎる為、婚約者に求めるスペックが高すぎるからだ。

 流石に王太子の婚約者を解消させるのは無理があるというゲームメタ的大人の事情もある。


 まあそんなこんなでどちらの王子ルートでもライバルとして現れるレベッカ嬢の婚約が三歳の時の秋だ。

 今が春なので、地球で言うところのあと半年後くらいのはず。


 そう思っていた三日後、王都にライラック公爵家のレベッカ嬢と王太子ウォルター殿下の婚約の報せが駆け巡った。


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