016
「なんでだっ⁉」
案の定というべきか。
「なんで、あたしに調査許可がおりないっ⁉ あたしが見付けた遺跡だぞ⁉ 毎度毎度おかしいだろう!」
「そう言われましても……」
「きちんと規則も守っている! ミナ――傭兵ギルドの監視もあった!」
「……まあ、そうだな。間違いなく、規則は守られている」
「ほら!」
「ですが……」
やはり、ムーンハンターギルドはカレンの成果だけ吸い上げて、本人に還元する気はないようだ。
ちなみにこの場での俺の証言というか傭兵の証言には一定以上の信用が置かれている。
ぶっちゃけ傭兵の口先次第ではあるのでどうとでも誤魔化せるのだが、それを見破るアビリティを持つ者がギルドにいないとも限らない。
というか、いるだろう。じゃないと信用性がない。
まだ証拠写真の現像などもできていないのだが、俺とカレンの実績もあって、遺跡型プレデターを発見したという報告は事実として扱われている。
そのため、先ほどからギルド内が大わらわだ。きつめの声で「傭兵ギルドに連絡を出せー!」とか騒がれとる。……あ、気付かれた。
「……あ、ミナトさん。どうですか、その遺跡の調査の護衛は?」
「お断りする。こっちのカレンと専属契約しとるんでな」
「……チッ。では、その間はカレンさんに大人しくしてもらうということにして……」
「ふざけるな! そんな権限、ギルドにあるわけないだろうが!」
「チッ!」
ああ、カレンには露骨に舌打ちするのな。女って怖い。
まあどちらにせよ、プレデターの体内とか戦いもないだろうし、興味ないが。
「これ、地図な」
「助かります!」
提出する義務はないが、あった方が良いに決まっているので地図を渡しておく。あの島までの海図と、島の地図だ。そこまで詳細に描いているわけでもないのでパパっとね。
ちなみにカレンの側は提出義務がある。俺のは傭兵側からの提出という扱い。
何故提出するかというと、ふたつを見比べたりすることで何かに気付けるかもしれないからだ。ハンターと傭兵とでは、同じものを見ていても、得られる情報がまるで別種だからな。
あとカレンの地図はびっちり書き込まれ過ぎてて正直見難い。地図としての機能を果たしていないと思う。メモ帳と使い分けるべきなのだが、メモ帳もメモ帳で控えてるんだよなあ。
書くスペースがないからか、俺の方に「そこの美味しいリンゴの木! メモっといて!」みたいなことがよくあるので、ムーンハンターギルドで俺のことはいやしんぼと思われている疑惑。
◇◆◇◆
「カレンはこの後どうするんだ?」
「帰ってお風呂入ってふて寝する!」
さいですか。俺も一緒について行って、一緒に入っちゃ駄目ですかね? 駄目ですよね。
意外なことに、俺とカレンはすぐに解放された。後々呼び出す可能性もあるので、三日はカルタゴから出ないようにと言われたが。
報酬金なんかは、ギルドから確認が入ってからになるから、しばらく後だ。まあ俺に入る報酬なんぞたかがしれとるが。発見したのはカレンなので。俺はあくまでも傭兵だ。
それなのに俺の方にまで報酬が出るということが、遺跡型プレデター引いては月の欠片の重要性を表している。
俺の収入としては、カレンとの専属契約の代金が毎月傭兵ギルドに支払われ、そこから俺に下りてくる感じ。あと細々とした依頼。
専属契約を交わす場合はそのハンターと結びつくことになるので、他のハンターの護衛につくことは基本的にない。
もちろん、契約しているハンターが許可を出せば別だが、昔にその制度を利用して悪さしたのがいたらしいので、いちいち解約する必要がある。面倒なので受けない方向で。
解除している間にカレンが他の誰かと契約する可能性もあるしな。許さん。
「ん? なんだ、ミナト?」
「……そこんところが、俺にもわからん」
「はあ? ふざけてるのか?」
なんか反射的にカレンの手を取ってしまった。
当然疑問を抱かれるが、俺だって答えられんわこんな恥ずかしいこと。
「まあいいや。それじゃ、あたしは迎えが来るからもうちょっとギルドにいるけど」
「……そうだな。俺はいつもの宿に行くわ」
「うん。それじゃ、また何か急ぎの用があったら連絡する」
「あいよ」
言い合って、別れてギルドを出る。
「…………ガキかっつーの」
自嘲で顔を歪ませつつ、歩く。
とりあえずは普段泊まっている宿に向かうのだが、気分を変えるために、少しばかり遠回りをするとしよう。
カルタゴは年間通して温暖な気候で非常に過ごしやすい。多少の四季はあるが、そこまでひどい変化ではない。まあ、夏が暑いってことくらいか。けれども海に面しているので、意外と風が吹いてくるおかげで湿度はそう高くない。
人々の服装はゆったりとした半そでが多い。できるだけ風を取り込んで身体を冷やそうとするからだ。
俺も早くその恰好になりたい。探索に出ていたから、ピタッとした頑丈な長袖なのだ。革鎧もあるし。
もっと南方の砂漠地帯の方に行けば陽射しで火傷なんかもするから、ゆったりとした長袖の服を二重三重に着たりする。
カレンがそうであるように、全体的に肌は黒め。たぶん、ほとんどの人はここで生まれ育っているから、遺伝だろう。
俺なんかは別の都市出身なので割と白い。
ついでに、新人類の男性としては珍しく、筋肉の質が変わるタイプなので、大柄になれない。見た目ヒョロいわけだ。
だからカルタゴに初めてやって来たときなんかは、結構絡まれた。
そう、今のように。
「……あんた、ミナトだな?」
「そうだが? ケンカでも売ってくれるのか?」
いいぞ、買ってやろう。
こちとらプレデター戦がメインの甲種傭兵だが、対人戦も嗜んでいるので丙種でもあるぞ。
やって来たのは大柄……といってもカルタゴでは普通くらいの男たち三人。俺より十センチほど背が高い。中には二メートルを超えているだろうヤツもいる。
厚い胸板に、太い腕は丸太のよう。そこから繰り出される拳は、鍛えていない旧人類などなら一撃で屠るに足る威力だろう。
間食気分でペロリといくか。
さすがに殺すのはマズイから手加減はするが……どこまで
「ま、待ってくれ! そうじゃねえ!」
「そうだ!」
「おれたちがあんたに勝てるかよ!」
「そうだそうだ!」
「…………えー」
「ええ……本当に狂犬って言われるままの性格してんなあんた……」
ガッカリだよ! 折角暴れられると思ったのに!
プレデターを命懸けで倒すのもいいが、対人戦もまた要求される技術が違って好きなのに! 最近、俺と
「あんたを連れてくるよう頼まれたんだ。ついてきてくれねえか?」
「俺、これから宿取る必要あるんだけど?」
「それなら、こいつがひとっ走り行くから!」
「そうだそ――おれぇ⁉」
「おまえさっきから俺らの後ろで働いてねえからな」
「そうだな」
まあ宿を手配してくれるというなら構わない。ついて行こうか。
「頼まれたって、誰に?」
「おれらもわかんねえんです」
「俺らがつるんでるところにやってきて」
「そんなことあるぅ? よく受けたなあ……」
「いや、別に依頼とかじゃねえしなあ」
「ああ。金とかそういう話じゃなくて」
「ええ……?」
なんだこいつら、いいやつらかよ。
なんかブチのめそうとか思っててごめん。
男たちが俺を連れて行った先は……見覚えがあるなあ。
「一応聞くと、おまえらってどこ所属? あ、ギルド関係ないか?」
「農家っす!」
「俺もっす! さっきのやつも!」
「家が近くて幼馴染なんすよ」
「なるほど」
俺が連れてこられたのはハンターズギルドのカルタゴ支部。
各種ギルドを統括する、本部に連なるギルドだ。すべてのハンター関連ギルド統括なので、呼び名も「ハンターズ」のギルドということらしいが、ややこしい。
なのでざっくりギルド本部と呼ばれている。
そしてここはギルド本部のカルタゴ支部という、本部なのか支部なのかハッキリしろよ的な感じになっている。
「お待ちしておりましたよ」
「あんたか」
げんなりする。
わざわざカルタゴ支部の扉の前で俺を待っていたのは痩せぎすな初老の男。
民族風の袖のない、肩を出した服とだぼっとしたパンツを履いており、これがまた戦り合うと面倒なんだよな。そこが楽しいといえば、楽しいのだが。
「きみたち、ありがとう」
「いえいえ」
「困ったときはおたがいさまですし」
いやほんといいやつ過ぎるだろおまえら。
ちょっとお小遣いあげるからそれで一杯やりな。
ワーイと笑顔で帰っていく男たち。彼らが特に裏を疑うことなく爺さんの頼みを聞いたのも納得だ。
ギルド本部関係者なの丸わかりだもんな。
「なかで話しましょうか」
「わかった。どうせ、例の話だろう?」
「その通りです。上がね、せっつくんですよ」
厄介ですね、と爺さんは小さくため息を吐いた。
この爺さんもまた、俺と同じく元傭兵だ。甲種一類というのも同じ。
一線で戦うのはもう無理だと現役を引退しようとしたら「じゃあうちに来てよ」とハンターズギルドに引き取られた。
彼らからすれば、前線に行けないとはいえ、プレデターにさしたる脅威を感じることなく街の外を出歩ける人材など放置できないのだろう。
あと単純に戦闘力があるので、他の傭兵なんかの首根っこ掴んで無理矢理ギルド本部に連れてくることができる。まあ今の俺みたいに。
今の爺さんとでも戦り合うのなら楽しいんだろうけど。
今の爺さんと会ったらギルド本部に行くだけだから、会いたくなかったんだよねえ。
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