007

「聞きたいのが、俺を指して『ご同類』と言ったこと。次にパラサイトタイプってなんだ? 三つ目におまえ……シード自身のこと、かな。ああ、男でいいか?」

「我々プレデターに雌雄の概念はないよ。好きに判断すればいい、が……現在はカレン嬢の肉体を借りているのでね。女ということにでもしておこうか」



 随分とまあ流暢に喋りよる。そして回りくどい!

 絶対こいつ友達少ないタイプだろう。

 身振り手振りも派手だよ! 無駄に両手をぴしっと広げてるよ!

 だがカレンの身体でやってるから違和感しかないぞ!



「ミナトくんが気になるという『ご同類』発言だが……先に私の型を説明しておいた方がよさそうだね」

「パラサイトタイプのことか?」

「その通り!」



 いちいち、うるさい。

 カレンもうるさいけど、シードもうるさいのか。

 指パッチンとかしなくていいんよ。

 もはや口を開かなくてもうるさいのよ。



「パラサイトタイプはその名の通り、寄生型のプレデターだ。直接的に攻撃するのではなく、間接的に侵食汚染をするタイプといえる。特に私は情報特化なのだ」

「賢さアピールをしたいのか知らんけど、おまえがハラペコ降参した事実は変わらんぞ」

「ぐっ……!」



 なんでそんなクリティカルヒットしたみたいな顔を。ぐぬぬ……じゃないんだよ、ぐぬぬじゃ。ただの事実だろうが。

 けど、それがなかったらカレンも身体を貸さなかっただろうし、そういう意味ではクリティカルヒットなのか?



「そういえば、今のカレンの意識はどうなってるんだ?」

「私が表に出ている間は夢を観ている感じのはずだ。必ずしもすべてを観て聞いているわけでもないし、覚えていられるわけでもない」

「そういう意味でも夢と同じってわけね」

「そうさ!」



 それ以上指パッチンする気ならその指切り落とすぞ。

 カレンもきっとわかってくれると思うんだ。

 別に俺が指パッチンできないからって怒っているわけじゃないぞ?



「俺にケーブルを繋いでいたときに各アビリティがえらい有能化されていたけど、アレってこれからも同じか? それとも、シードと接続しているとき限定か?」

「現状は、限定と言わざるを得ない。私が綺麗に整えたコードの形を、君の細胞が記憶することができたなら、定着するだろう」



 うむ。わからんけど、わかった。とりあえずは何回か繰り返せってことね。

 口振りや振る舞いが鬱陶しいが、結果的な恩恵でいうとものすごいんだよな、アレ。


 あのときは魔剣の方を対象に発動したが「斬手刀」の強度や効率も全体的に向上していた。なんなら手刀でなく、肩の手前くらいまで影響下にできたくらいだ。

 そこまでくると、もはや立派な攻防一体化アビリティといえる。



「細胞が記憶……というのは?」

「現在のアース――この惑星のことだ――の地表面には宇宙から飛来する■■■■を妨げる機能がほとんどない。その影響を受けた人類や動植物がどうなったかは、ミナトくんも知っている限りだと思う」

「……俺が知っている範囲とか話したか?」

「フッ。話が早くなると思ってね。情報を抜き取らせてもらった」

「おまえ、おかず一品没収な」

「後生を! そんなご無体な!」



 コントじみたやり取りになったが、こいつ、地味に重要なことというか決定的なことを話さないんだよな。

 ツッコまなかったが、ノイズが走って聞き取れないところもあったし。

 あるいは、話せないのか。



「おまえの本体はどっちなんだ? この剣の方にあるのか、それとも……」

「どちらも本体のようなものだね。私はシードとして造られたが、同時にシードが宿る剣としてソレは造られた。やどかりみたいなものさ。知っているかい、やどかり?」

「知っているけど、おまえの態度が気に食わん。肉ひときれ分は俺が食う」

「だから戦争がなくならないっ‼」



 随分とスケールがでかくなったな。肉のひときれでか。

 まあ俺も最後のひときれ横から取られたら殺すかもしれん。

 最後のひときれはそれだけ重い。



「じゃあそろそろ、俺たちのことを『ご同類』って言った理由が知りたいな」

「……? わかっていないのか。記憶を一部抜粋させてもらっていたが……常識だと思って調べていなかったな」

「おーい?」



 真面目な表情で顎に指を当ててぶつぶつ呟いている姿は、シードのものかカレンのものか判別つかなくなるな。

 ……ああ、いや、そうでもないな。

 たぶん、シードは雌雄がないと言っていたけど、男性系だと思う。


 カレンの場合、無自覚に胸や尻を強調するポーズになるんだよな。腕とか組んだら、巨乳なもんだから、腕の上にそれを乗っけるんだ。

 スタイルが良い上にそういうことを無自覚でするもんだから、ムーンハンターギルドの中でも敵が増えるのである。



「……カレン嬢の情報も、悪いが調べさせてもらった。ああ、プライベート部分は触れていないよ。あくまでもこの世の常識とかについて、だ」

「ふむ。まあ後で一食抜きとか言われるかもしれんが、がんばれ」

「待ってくれ! もう少し、こう、手心というものはないものか⁉ 私だって嫌がらせのためにしたことではないのだっ!」

「ウチの料理番はカレンだ。諦めろ」

「神は死んだ……」



 それプレデターサイドが言っていいセリフなんかな?



◇◆◇◆



 プレデターサイドにも陣営というものがある様子。これは特定の型のプレデターが集まっているとかではなく、どの陣営もある程度は同じような型が同じような割合で集まっているそうだ。

 それゆえに、あくまでも陣営というものは主張や性格による分類である。


 人間たちが「審判の日」と名付けた日より、プレデターたちは地球に襲来した。

 その際の一番槍を務めたのが急進派陣営。

 すなわち「さっさと人類滅ぼしちゃいましょうZE! ワッショーイ★」なグループ。

 今でも残っている彼らこそが、典型的なプレデターであるといえる。


 第二陣となったのが、消極派陣営。

 すなわち「もうだいたい滅んでいるし、見付けて仕留められそうなら仕留める感じで。無理はしなくていいよ」なグループ。


 その結果、地の底へと追い詰められていたかつての人類は反逆の一矢を放つ。

 それは「審判」が下されても仕方ないと思えるような行いだった。


 世界崩壊後から旧世界と呼ばれる間の人類が取った手段というのが、第二陣である消極派プレデターの鹵獲。

 そこからパラサイトタイプのプレデターを抽出し、一部の人間に移植・寄生させてみるというもの。端的に言えば、人体実験だ。


 様々な成功、失敗があったものの、その結果で生まれたのが新人類。


 ゆえに、世界崩壊後に旧世界があり、特殊な放射線を取り込む特殊遺伝子を持つ新人類が地表に出るようになってから、新世界という時代区分で呼ばれるようになっている。



◇◆◇◆



「おそらく、当時移植されたか寄生したパラサイトタイプの意識はないだろう。そういう点でいえば、ミナトくんやカレン嬢の思考や理性なんかは、純粋に人類のものと言っていい」

「ほーん。影響がないのは良いことだ」



 色々と謎が解けた気分だ。

 どうして俺たち新人類の発現するアビリティがプレデターの獲得するソレと似ているのかとか、アビリティ関連のエネルギーは特殊放射線にあるのだとか、新人類が旧人類と比べて容姿が優れている点とか、動植物に大しては人類ほど特殊放射線の影響が強くない理由だとか……まあ、色々と。


 どう考えてもこれ、月の欠片を沢山集めてから知るべき情報だったのでは?

 一気に過程をスキップしてしまった感が否めない。初手クライマックスみたいな。


 そりゃあ、俺だって焚火を用意してお肉を焼こうというものだ。

 そうでもしないと冷静さを保てない。

 ちなみにカレンが怒るから、俺の用意した肉。



「まあ、こんなこと話しても誰も信じてくれないだろうしな」

「真実というものは、信じたいものの数だけあるものだからね。ひとつしかないのは事実だ」

「ドヤ顔すんな。肉減らすぞ」



 カレンが浮かべなさそうな、すごくつらい顔をされた。

 あまりにも可哀想だから普通にあげようと思います。



「けどパラサイトタイプで、寄生先が剣だったんだろ? なんでおまえ、食事に興味を持つんだ?」

「むしろ、パラサイトタイプだからだろう。情報優先型だから、アースの生命の情報なんかも吸収していたんだ」

「ふうん?」

「私たちは、アースの植物でいう光合成と似たことが放射線からできる。そのため、食事という行為が必要ないのさ」



 それはまあ、なんともつまらないことだ。

 少なくとも高度な知性を持っていて、それとは。



「ああ、そうだ。ミナトくんの表情から、言いたいことはわかる」

「やめろよ……人の顔から心を読むなよ。えっち!」

「時々、急に変な方向でボケるね、きみ」



 や、やめろ……冷静に人を言語化するな。

 究極のボケ殺しか貴様。



「始めは動物だった。鹿だったかな」



 焚火を挟んで向かい合わせに座り、簡単なピタパンと肉を薄切りにしたものをそれぞれ焼いている。肉は屋台で買ったやつで、何の肉かわからん。

 爬虫類かもしれんし両生類かもしれん。値段的に哺乳類はなさそう。


 調味料なんか、個人的には塩さえあれば十分な人間なのだが、カレンがうるさい。

 なので、塩と乾燥ハーブミックスなんかを混ぜた「とりあえずこれふりかけときゃ問題ねえよ」というふりかけを肉にかけている。

 すごく無難でちょっと物足りない感じな味だが、だからこそだいたいなんにでも使えて便利。



「鹿が、草を食んでいた。他にも似たような動物はいた」

「だろうな」

「イノシシを見た。これも草だけかと思ったら、他のものも食べるんだ。驚いた」

「あー。雑食だからなあ」

「次に肉食動物だ。ようやく狩猟生物を見たと思ったものだよ」

「ハイエナかピューマか……」

「それから、人類だ」

「…………」



 夏の日も随分と暮れるのが早くなったように思う。

 もうそろそろ、夏といえる季節も終わろうとしているのかもしれない。


 ぬるい風が吹き、焚火を揺らす。

 カレンの顔を照らす灯りが揺らめき、影の向こうにシードの姿が見えた気がした。



「驚いた。本当に。見たことも聞いたこともない道具で、色んな風に、色んなものを調理するんだ。想像もつかない話だ」

「わからんでもないなー」



 最初とか特に「こいつ、何作ろうとしてんだ?」っていうのあるよな。

 見ていたらわかるし、だんだん形を成すにつれて自分の記憶にあるものと近付いていくのが面白い。


 パンとかその最たる例だよ。

 だって最初小麦じゃん。「先ずはこれを挽いて細かく擂り潰します」とか意味わかんねえだろ。


 あと記録資料とかで、世界崩壊前に「わたあめ」とかいうお菓子があったらしいのだが、「雲を食べるが如し」とあって、意味がわからん。

 甘いのだから砂糖が使われているとは思うのだが、雲は水蒸気じゃん。どういうこと?



「私は比較的、元から人類に対して敵意みたいなものは強くなかった。来れば殺すが、立ち去るならそれもいいと思っていた。だからだろうな。あのような連中の手に渡ったのは」

「ああ、あの機械兵?」

「急進派の一体だ。与えられた器が剣なものだから、抵抗できなかった」

「だろうなあ……」



 カラカラと笑うシード。

 その笑い飛ばすまでの空隙くうげきには、どれだけの歳月が、想いがあったのだろう。


 プレデターたちは機械のようなものだと俺は思っていた。

 しかし、そうではない。その限りではないのだと知ってしまった。

 であれば、どんな気持ちで、どれだけの時を過ごしてきたのか――。



「同情なぞ、してくれるなよ?」

「は? 肉は要らんって?」

「そういう意味ではないっ‼ 肉は欲しい……‼」



 混ぜっ返すしかない。

 それしか、俺なんかに返せる答えがない。

 たったの21年を、戦うことに費やしてきた人間風情が言える言葉など、ない。


 ああ。ただ、そんな俺でも。

 彼に対して、言葉の代わりにできるモノが、あった。



「ほら」

「む」

「食えよ」



 カレンなら、ソースだとか葉物野菜がないだとか、せめてチーズとか文句を言うのだろう。

 俺は面倒なので、ピタパンを焼いて、切り開いた腹に味付けした肉を入れるだけだ。


 けれど、これはこれで美味しいと思うのだ。

 素朴なピタパンだからこそ、なのかな。

 肉にかけたふりかけが、美味しくもどこか物足りないのが、よく合っていると思う。



「どうだ?」

「うむ……うまい!」

「そうか。これ、カレンだと死ぬほどダメ出しされるんだけどな」

「なんと……⁉」



 驚きに目を丸々とするシードを見て、笑う。

 カレンの肉体で、カレンの表情のはずなのに。


 間違いなくそれはシード個人の表情だった。



「俺が作るのは面倒くさがりで最低限で済むシンプルなやつばっかりだよ」

「これでか……⁉」

「そう。だったら、世の中はシードにとって、美味いもんで溢れていることになるな」

「そう、か……。そうか! それは楽しみだ!」



 嬉しそうにパクパクとピタパンを食べるシードを見て、お代わりも渡す。


 うん。嬉しそうなところ申し訳ないんだが。

 たぶん美味しいものを食べに行ったら、俺もカレンも身体を貸さないと思います。

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