006
「ミナトミナトミナトミナトミナト!」
「おうおうおうおうおう……おええっ」
「どうした⁉」
おまえのせいじゃボケが! が、言えない! 気持ち悪くて言えない!
とりあえず、心配しているからといって人の胸倉掴んで激しくシェイクするものではない。
「その剣か! その奇妙なケーブルが生えた剣! 明らかに異常だろう! そいつが原因だな⁉」
「■■■■!」
いや、だいたいの原因はカレンだから、それは違う。
とはいえ、まあ見るからに異常なのは間違いない。
あと魔剣が抗議バイブしとるが、直接繋がっている俺にしか意思は伝わらんと思うんだ。現状のオマエはカレンから見るに、剣型卑猥マッサージ器でしかないと思うぞ。
へんにょりした魔剣くんから生えて俺の腕に接続してあるケーブルを全部引っこ抜く。
とりあえず「身体強化」を続け過ぎていて、解除した途端ぶっ倒れると思っていたのだが……魔剣くんが色々弄ってくれたらしいので激しい疲労と体調悪化と空腹で済んだ。
これくらいなら無視できる。
正直、これだけでも超有能と言わざるを得ない。
俺の切り札である「身体強化」が切り札でもなんでもなく、ただの持ち札として使えるようになるかもしれないのだ。
こんなデカいことってないぞ? 再生能力も上がるんだからな、アレは。
などということをこちらの体調を気にするカレンに言ってみたら、魔剣くんも聞こえていたようでシャキーンと元気になった。ヨカッタヨカッタ。
でもアレか。こちらの言葉はケーブルで繋がってなくても伝わるんだな。
それは便利でいい。こっちはわからないけど、まあ剣が喋るっていうのもおかしな話。
問題はないだろう。
「あるに決まってるだろう⁉︎ なんなんだ、この剣は! いや、見てたけど!」
やはり駄目か。
そして、カレンが改めて「なんだこの剣」と言いたい気持ちもわかる。
「改めて繋げる前に……」
「ん? ふにゅ⁉︎ んー! んむー!」
とりあえずはカレンを押し倒してキスを交わす。ディープなやつだ。
粘膜接触でトンチキエネルギーを補給するのだ。
トンチキエネルギーなんだから、そりゃ補給方法もトンチキになるわなあと思う次第。
◇◆◇◆
腰砕けになってふにゃふにゃ言ってる真っ赤なカレンさんを膝枕して、目の前の地面に魔剣くんを突き刺しておく。
俺が脅したのは間違いないが、彼は異常だ。
彼は間違いなくプレデターだった。俺の愛の拳や踵落としなど冗談だ。
何故プレデターが意気揚々と喋るのか。
だとすれば、プレデターには意思があるのか。
彼らと交渉といった選択肢は生まれないのか。
考えること、思いつくことは山ほどある。
が、それよりも、何よりも。
「魔剣くん、と俺は呼んでいるけど。オマエに名前ってあるのか?」
右手を差し出し、開いておく。
魔剣くんはやや震えたかと思うと、ケーブルを伸ばしてきた――が、俺の右手ではなく、カレンの方に向かう。
「……オイ?」
ちょっと、それは看過できないぞ?
俺が睨み付けたからだろうか、急いでケーブルの一本が俺の方にやってくる。腕に一本くっついたかと思うと、すぐに敵意がないことを示してきた。
彼は円滑なコミュニケーションのために、一時的に肉体を求めているらしい。
今もこうして話せているのだからこれでいいじゃないかと思うが、そうでもないらしい。その理由が判明しないことにはカレンの身体を貸してやるわけにはいかない。
ちなみにプレデター案件なので、この件に関する権限は傭兵である俺にある。
たとえカレンの身体を貸すという行為であったとしても、カレン本人の意思を無視することが可能だ。
とはいえ、そんなの規則としては、の話。信頼関係を壊してまで魔剣くんに肩入れをする理由にはならない。いくら彼が有能だからとしても、だ。
「そんなしょぼんとするなよ」
なんで剣身がぐんにゃりするんだよ。紙粘土で出来てんのかオマエは。
というかケーブル繋げなくても随分雄弁じゃないか。
「■■■」
「は? 温かいごはんが食べたい? オマエはプレデターで剣だろうがよ」
「■■」
「俺たちは食っててズルい? そりゃあ俺たちは人間だからな」
「■■■■!」
「は?」
なんかコイツ、今とんでもないこと口走りましたよ?
いや、口とかないんだけどさ。
……どうする? これは聞いておいた方が良い案件だ。理屈の上でも、直感の面でも。俺の保有するアビリティの「罠感知」と同じ「直感」が反応している。
まあ「直感」って野生の勘というか、五感を含めた個人の潜在的感知能力が増幅された結果でしかないのだが。
どちらかというと戦闘系アビリティです。
「……いいよ。ミナト、あたしの身体を貸す」
「起きてたのか、カレン」
「起きてはいたさ。何を話しているのかはさっぱりわからなかったけど……温かくて美味しいごはんが食べたいってのはわかるし」
視線で問い掛けてくるので、こちらも肯いておく。
この場で俺が強制的に止めようとしないということ自体が、カレンにとってこの提案が危ないものではないことを示している。
剣身が折れていた。ぐねぐねと。直角に。
なぜアレでペキンと折れないのか。
「『ありがとう』だってさ」
「それくらいわかるわ!」
魔剣くんからケーブルがカレンに向かって伸びる。カレンの表情はすごく嫌そう。
以前遺跡の岩を取り除いたときに、その下から結構なデカさのムカデとミミズとゴカイとダンゴムシが出て来たのを見たときの表情と似ている。
なお、俺は触手めいたケーブルがウネウネとカレンに纏わりつこうとしているのを見て、秘かに興奮している。
「魔剣くん。とりあえずは何もするな。カレンの身体を貸すが、普通に喋ったり飯を食ったり程度にしておくんだ。俺のときみたいに、勝手にアビリティを弄り回したりするんじゃない」
釘を刺しておく。
カレンはアビリティを結構な数保有しているが、そのどれも使えない。
また、女性で保有アビリティをすべて使える人というのも稀だ。
魔剣くんが絡んだ結果、カレンがすべてのアビリティを使えるようになってもおかしくない。さすがにそうなると周りの反応が怖い。
なので、勝手なことはしないようにしておかないと。
「……さすがに、この状況でそのような真似をするのがマズイということくらい、理解はしているさ」
「カレン……ではない、んだな?」
カレンでは浮かべないような表情を浮かべている。
むしろ俺が浮かべるような、片目を半眼にして、相手を睨め付ける視線。
侮蔑的なまでに片頬を釣り上げている。
反射的に手を伸ばし、その頬を片手で挟んだ。
「むにゅぴ……にゃにをしゅりゅ……」
「カレンの身体を使っておいて、そんな顔をするな」
「これは私の……了解した……」
意図したものではなかったのかもしれないが、今の魔剣くんの立場は人質というのが一番近いだろう。
それを無事理解している様子で、魔剣くんは肯いた。
「それじゃ、そろそろ改めまして。俺は傭兵ギルドに所属している、甲種一類傭兵のミナトだ。おまえが今取り憑いているのが、ムーンハンターギルドに所属している、特級ムーンハンターのカレン」
手を差し出すと、カレンの肉体を間借りしている魔剣くんはこほんと軽く咳をしてから、こちらに手を伸ばした。
手と手が重なり、握手となる。
「改めまして、始めましてだご同類。私はシード。パラサイトタイプのプレデターだ」
なんかカッコつけてるけど、ごはん目当てで騒いだんだよなあ、こいつ。
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