第38話 小さな巨人計画36


 佐久夜は最後列で座ったまま動けないでいる楠瀬のそばに寄った。そこには霜月と神埼もいた。

 楠瀬は次々に告げられた真実を、まだ理解しきれていないのか呆然としていた。


「俺が海底巨人の本能となり、宇宙巨人を受け止めてみせる。もしもお願いできるのであれば、霜月には海底巨人の本能になることを希望するすべての巨人の子どもたちを連れてきてほしい」


「もう隊長を止めようとは思いません。任せてください。ルイス海洋国家連合議長は小さな巨人計画を凍結すると決断しました。しかし海底巨人が宇宙巨人を受け止めなければならないことは、だれもが知っています。きっと隊長たちが海底巨人の本能になろうとすることを上層部も望んでいます」


「今まで、霜月には迷惑をかけた。結果的に俺は多くの命を救おうとしていた霜月の妨害ばかりしていた」


「隊長が真実を解き明かしてくれなければ、そう思われることもありませんでした。ありがとうございます」


 神埼は言った。「海底巨人の本能になることを希望する巨人の子どもたちは、第三勢力圏からであろうと受け入れて、そちらまで送り届けてみせるから。安心しなさい」


 霜月と神埼のおかげで、未練を残さず行けそうであった。


「ありがとうございます」


「待ってよ」座ったまま、立てずにいた楠瀬は佐久夜の袖を掴んだ。「私って、巨人の子どもだったんだ……」


「宮・クレイトシス司令は、いつでも楠瀬のことを娘だと言っていた」


 佐久夜は虚空を見つめる楠瀬に優しく言った。


「母は搭乗者じゃなかった……。私を娘だって、騙し続けてよ!」


 楠瀬は悲痛な思いを叫んだ。


「きっと未来を自分で選んでほしかったんだ。このまま自分が巨人の子どもたちであることを知らずに小さな巨人計画を遂行していたら、宇宙巨人を受け止めるだけの存在として扱われ、騙されたと感じていたことだろう」


「わかんないよ。私は母に騙されたとしても、生きてほしいと思う。真実を知らせるために死ぬなんて、悲しみが二倍になるだけ……」


「ここで海底巨人の本能になることを否定しても、それを裏切りだとは思わない」

「こんなところに私を残して、一人で行ってしまうの? 私を家族だと思ってくれているのは、あなただけなのに――」


「いっしょに行こう、俺は楠瀬といっしょにいたい」


 佐久夜は力強く言って、右手を差し出した。


「佐久夜は、私といっしょに残ろうと思わないの? 巨人の子どもたちなんて、放っておけばいいじゃない」


「一番に大事な楠瀬と出会うことができたのも、姉さんがいてくれたからだ。そんな姉さんを、いつまでも一人にしておけないよ」


 佐久夜は楠瀬に背中を向けた。

 腰に楠瀬の腕が回り、背中に楠瀬の柔らかな頬が密着した。

「私も連れていって」


「無理はしなくていい」


「無理なんかしてない。私も、一番に大事な人のそばにいたい。そして私たちを巡り会わせてくれた来瀬を、いつまでも一人にはしておけない」


「ありがとう」佐久夜は楠瀬のほうに向き直って、抱きしめた。「いつまでもいっしょにいよう」


 本当は最初からついてきてほしかった。でも、それが最善であるのかわからず怖気ついていただけなんだ。

 後悔なんか、絶対にさせないから。


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