第31話 小さな巨人計画29

 朝日が昇り、海洋国家連合の本部に向かう飛行機は佐久夜と楠瀬を乗せて無事に離陸した。


 楠瀬は言った。「葵ちゃんの体内から採取した銃弾の旋条痕だけが、両桐さんが撃ったダミー人形から採取された銃弾の旋条痕と一致したらしいわよ。やっぱり、自殺だったようね」


 佐久夜は窓から雲を見下ろした。


「姫林ちゃんも、本当は別れたくなかったはずだ」


「小さな巨人計画は希望よ。待ち望んでいる人がいる。母さんは大陸国家連合を出し抜いて海底巨人を独占するようなことを言っていたけど、すでに大陸国家連合は私たちと深く関わっている。ないがしろにはできない。だからこそ、すべての子どもたちを連れていけるの。佐久夜の理想を現実にするため、進みましょう」


 俺には、理想を手に入れる機会が与えられている。それだけでも幸福なことだ。

 この肉体から解放され巨人の本能になれたのなら、数々の奪われることから救われる。


「大丈夫。俺は使命を忘れていない」


 窓外を眺めると、エンジンから噴き出した炎の柱を推進力にして打ち上がるロケットが見えた。


「あのロケットは?」


「あれが避難用のロケットよ。今日は多くのロケットが、飛び立っていく日になる」

「まだ巨人へは、だれも避難できていない」


 佐久夜は小さな巨人計画の遅れに、強い危機感を抱いた。


「もう、一つの巨人だけが避難先じゃない。様々な地点に巨人が配備され、巨人の本能になることが容易になっている。小さな巨人Ⅲが完遂されたら、先行して積極的な希望者が避難することになっている」


 海洋国家連合の本部は、海底巨人の本能にこだわらないということを本当に受け入れて、実践までしていた。海底巨人の子宮が発見されなくても本能になれるというのに、司令部は本能になるということのみを重要だと勘違いして、成果をあせっていた。


「小さな巨人計画が完遂されていなくても避難できることは喜ぶべきだとわかっている。でも俺は、それで本当に人類から理解が得られるのか不安だ」


「宇宙巨人の再生速度は予測よりも高速で、それは落下速度にも影響している。それに宇宙巨人は多くのミサイルが届く射程圏内にまで入った。これから第三勢力圏からの攻撃が過激になるはずよ。あまり時間は残されていないの。母さんは、大陸国家連合が海底巨人との対話を成し遂げるため前頭葉に建設した施設のカテーテルを使用すれば本能になれると言っていた。きっとそれが小さな巨人Ⅳよりも優先される。あれを見て」


 楠瀬が指差す先には、新大陸があった。

 端から、その反対側の端が見えない陸地は、まさしく大陸という名がふさわしかった。

 そんな海洋国家連合本部からも、ロケットが発射していた。


「小さな巨人計画だけがすべてではない。選択できることほど素晴らしいことはない」


 佐久夜は、ぼそりとつぶやいた。


 何棟ものビルが立ち並び、道幅の広い道路を挟むように何カ国もの国旗が連なり、それがどこまでも続いていた。


「そうね、もうすぐで着陸よ」


 小さな巨人Ⅲでは、やっと一人目の搭乗者から心情を聞き出すことができる。本当に巨人の本能になることが自我にとってふさわしいのか、これで明らかになろう。


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