名のない英雄

@doxu

名のない英雄

 西暦2085年 平穏な毎日が流れていた。そんな毎日を送る一人の男性がいた。彼の名はユウスケ、会社員をしながら一人で暮らしていた。毎日会社に行っては帰る、そんな変わり映えのしない日常を送っていた。しかし、そんな日常はある本との出会いで変わっていくのであった。

 7月のある日、ユウスケは町の古い骨董品店で一冊の古びた謎の本を見つけた。その本の表紙には、不思議なシンボルと古代の文字が彫られていた。ユウスケはその本に興味を引かれた。その本を購入し、自宅でそれを読み始めた。ユウスケは本を読み進めるにつれてこの本は予言の書であることが分かった。その内容は人類が生まれるよりもずっと前に地球にやってきた地球外生命体についてであった。その生命体は地球で地殻変動や地球の生命体の台頭により、長い眠りに就いたと記されていた。また最後には謎の地図が挟まっていて、ユウスケは後日その場所に行ってみることにした。

 8月休みに入ったユウスケは地図に記された場所に行くために、車を走らせていた。目的地に着くとそこには古びた石碑が立っていて、本と同様のシンボルと似た文字が刻まれていた。その石碑を調べるためユウスケが触れると目の前がぼやけ、ユウスケは気を失ってしまった。ユウスケが目を覚ますと、そこには見渡す限り何もない世界が広がっていた。ユウスケが自分の身に起きたことについて考えていると、どこからとなく謎の声に話しかけられた。「予言に導かれしものよ。」驚いて振り向くと、そこには人間ではない何かが立っていた。そしてこう続けた。「お前は選ばれたのだ。ノアを倒す宿命に」と。その瞬間ユウスケの前に不思議なオーラをまとった剣が現れた。ユウスケは警戒しながらもその剣を握ると、彼の身体が不思議な光に包まれ、力が湧き出た。ユウスケが謎の存在に自分の身に起きたことについて問おうとすると、謎の存在は姿を消していてユウスケもまた気を失ってしまうのであった。ユウスケが目を覚ますと石碑の前に寝そべっていた。ユウスケは先ほどのことは夢かと思ったが、その手には剣が握られていた。しかしユウスケは謎の存在が告げた「この世界の救世主」という言葉を疑いながら帰路に就くのであった。

 翌日の朝、ユウスケはスマホの警報音によって目が覚めた。その警報の内容はこうであった。「空は禍々しい色へ変わり果て様々な場所で未確認生命体が突如として出現した。」撮影されたその姿はまさに本に描かれていたノアそのものであり、ユウスケは予言は真実であったことを痛感させた。逃げようと家を出たとき、地響きと共に大きな影が現れた。振り向いたユウスケの目に映ったのは紛れもないノアの姿であった。そして目の前で人々が無残に殺されていく姿を目の当たりにし、ユウスケは恐怖に震え動けなくなっていた。「ユウスケ逃げるぞ。」親友のトウヤの声であった。正気を取り戻したユウスケはトウヤと共にシェルターへと走った。シェルターが見えた途端ノアが現れユウスケを襲った。「死ぬ」そう思った次の瞬間ユウスケは地面に打ち付けられた。何が起こったか分らずあたりを見渡すと血を流しながら倒れているトウヤの姿があった。駆け寄った時にはトウヤはもう息絶えていた。ユウスケは友人を失った悲しみとノアと戦う宿命から逃げた自分を責めた。そしてユウスケはトウヤの仇を討ち残った人々を助けるため、ノアを撲滅することを誓った。するとユウスケの気持ちに呼応するかのように剣が現れ、ユウスケはノアを一刀両断するのであった。ユウスケの活躍は瞬く間に広がり、皆に希望をもたらした。しかし、それでもすべての命を救うことはかなわなかった。都市のほとんどは壊滅、人類の80%以上は死亡してしまった。それでもユウスケはノアを討伐し続けた。

 西暦2087年10月 ユウスケはついにノアを全滅させることに成功した。その後ユウスケは英雄として讃えられた。すると、どこからか聞き覚えのある声がした。それは過去にユウスケが出会った謎の存在であった。「救世主よ、よくぞノアを倒した。」そして謎の存在はいろいろなことについてユウスケに教えた。自分の名前はアハユテといい、予言者であること。さらに自らは「世界の果てを見届けるもの」だとも言った。ユウスケは疑問に思い聞いた。「世界の果てを見届けるとはどういうことだ?」アハユテはこう言った。「この世界はもう長くはない。ノアは自分たちを呼び覚ますために世界の大半のエネルギーを消費した。この世界が自力で循環へと戻れないほどのエネルギーをな… しかしまだ希望はある。」そういいアハユテはあるものを取り出した。「これは“時のオー””これを壊せば一度だけ過去に戻れる。過去に戻りノアの復活を止めることができるかもしれない。しかし、これを壊せば反動としてお前はせいぜい一年しか生きられないだろう。」アハユテは神妙な面持ちで話した。「この選択は世界を救ったお前が決めるべきことだ。英雄と讃えられながら世界の終わりを受け入れるか、過去に戻り自分の命と功績をなくしてでも世界を救うのか」しかしユウスケは「俺は毎日みんなが過ごしていた何気ないあの日々が大好きだったんだ。あの頃に戻れるんだったら俺はなんだってするさ」と答え、時のオーブを壊した。

 西暦2087年10月 人々は何気ない日々を過ごしている。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

名のない英雄 @doxu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る