第19話 真昼の、うらぎり

 その晩は色々話した。

 前世のこと、不死の魔女がどんな人だったのか。

 ニコラと私は語り合う。

 気付いた時には夜が明けていた。


「昨晩は、私を差し置いて、ずいぶんとお楽しみでしたね?」


 モディが朝一でかけてきた言葉だ。

 心なしかものすごく怒ってるように見える。


「ええ、とても熱い夜でした。もうステラとは離れられません」

「おぉい⁉ 火に油そそぐな。モディのあの顔見ろ殺されるぞ」


 ハイライトの消えた瞳でこっち見てるんだけど。

 今にも剣を抜いてぐさりとかされそうなんだけどぉ⁉

 ニコラならともかく私だったら確実にやられるぞ。


「まあ冗談はさておき、今晩から森の掃除を再開します」


 ニコラのその宣言は、つまりはまた亡者狩りが始まるということだ。

 あれから一週間近い。すでに森には相当数の亡者が潜んでいるだろうという。

 街中は昨日みたいに殺しをしたような悪人はわんさかいる。

 それを狙いに亡者が寄ってくるのだ。


 とにもかくにも準備をしないといけない。魔女の血とか魔石とか。

 ニコラの戦闘服も昨日のせいで血に染まっているし、綺麗にしておかないといけない。血に染まった剣姫を見ればみなが動揺する。


「そろそろ、ゴーストとも戦ってみたほうが良くない?」


 モディはそう提案する。おい、私を殺す気か。

 詠唱中に触られるだけで一気に生命力を奪われるらしい。

 長時間囚われると命に係わる。


「だ、大丈夫かな、魔法使いが私一人でも?」

「幾分不安ですね。モディも来てくれるんですか?」


 ニコラが確認するもののモディは首を振る。


「昨日の件、問題ないと思ったんですがどうも領主のご不興ごふきょうを買ったみたいです。私もついていながら殺しはまずかったと。アンデッドの封印もただじゃないのに」


 昨日の件で少し不味いことになったらしい。

 魔石鉱溶液は錬金術師か魔女でないと作れない。

 材料であるこの町のクズ魔石の数も限りがある。容易には用意できないという。


「そう言うわけでしばらくは街中で悪人狩り。私も行きたかったのに」


 モディは残念そうにうなだれる。

 まあ、今までも二人だけでどうにかなってる。

 無理にゴーストに挑まなければそこそこの稼ぎにはなるはずだ。


「頑張ってくるのでご褒美に今日は一緒に寝てくださいね」

「え、いやですけど?」


 ニコラにおねだりしたモディだったがあっさり断られすごすごと仕事に出ていった。考えてみれば活動時間も違うからどっちにしても駄目だったと思うけどね。


 そして仕事の準備に二人で出ようとした時、来客があった。


「魔女の一派。その弟子ニコラとステラ。不死の魔女信仰の罪により拘束する」


 衛兵たちだった。その中にモディもいる。

 飛び切りの笑顔だ。


「モディ様、この二人確かに魔女の弟子なので?」

「ええ、間違いないです。潜入捜査のかいもあり、証拠もここに」


 そこにはニコラの家に隠してあったトリッシュの書いたという不殺の魔術に関するレポートが含まれていた。


「モディ、貴女。何のつもりでこんな……」

「お姉さまがいけないんです。私を差し置いてそんな子供にうつつを抜かしているから……」


 モディはハイライトの消えた瞳でニコラを見つめ次いで私を睨め付ける。


 私とニコラとは違い、モディは正真正銘、魔女である。

 その血は間違いなく蒼かった。

 それに、私を蘇らせた禁術も魔女のみが使うことの許された呪いの力だ。

 私達とのつながりがバレれば自身も危ないはずなのだ。


 まさかの魔女本人の裏切り。

 ニコラもモディの本意がわからず抵抗もできない。

 ニコラも流石に妹弟子を道づれにできはしない。


 不死の魔女は貴重な魔石の源。常に血を狙われている。

 捕まれば死ぬよりひどい目にあわされるのはわかりきっている。

 

 そのまま、私たちは捕らえられ暗い地下牢に放り込まれた。

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