第15話 町で、さつじん……

 この世界に来てほぼ毎日ピンチに見舞われている。

 しかも、ただいままさしく貞操の危機。

 私を攫った賊の片方は完全に私に欲情している。


「おい、小娘。今日の稼ぎをすぐに出せ。それで見逃してやる」

「おいおい、こんな美少女そうはいないぞ。ちょとぐらい味見させろよ」

「いやぁ、やめて、こないでえ」


 じたばたしているうちに外れた轡。私は悲鳴を上げる。


「おい、やめとけ。剣姫が来たらことだぞ」

「おい、だまれ。殺されたいのか」


 私を組み敷こうと賊は私の上に跨ると首を絞めてきた。

 苦しい、怖い、痛い。助けて。


 そのまま私は首を絞められ意識が途切れた……

 はずなのに、次の瞬間私は暗い路地に立っていた。

 何故か目の前には焦っている賊の姿が揺れる視界にうつる。


「ば、馬鹿野郎。殺しちまったのか⁉」


 賊の明らかに年上の方が私の死体を確認している。


「はぁはぁ、抵抗するからだ。このガキが」

「そんなガキに手を出して殺しちまいやがって。てめえは馬鹿なのか」


 賊の二人はそう罵り合う。しかし、二人は慌てて私の遺体から距離を取る。

 殺された人間は復讐のために起き上がり殺した相手を殺すまで追い続ける。

 私の遺体もそれに従い勝手に起き上がると賊の若い方を追い始める。


「よくも殺したな。許さない。殺してやる……」


 私の口からそんな言葉が紡がれると、二人は殴り合いをはじめた。

 ガタイの良い、年上の賊は奥に逃げていった。

 若い方の男は地面に倒れると私の足元に転がった。


「ひい、やめてくれ。許してくれ」

「いいや、許さん。死ね」


 その言葉とともに賊の首が飛ぶ。ニコラが私の元へと駆けつけてきたのだ。

 首と胴が切り離されて普通の人間が生きていられるはずもなく。

 賊はそのまま命を刈り取られた。


「あぁ……。うぁ――‼」


 ニコラが半狂乱状態に陥る。私が殺されてしまったせいだ。

 トリッシュの死の瞬間と今の光景が重なって見えているのだろう。


「許さん、人間ども絶対に……」


 憎悪の瞳で奥に逃げた賊を追い始めるニコラ。

 次の瞬間に暗い路地の奥に湿った音が響いた。


「はいはい~、お二人とも。モディちゃんの出番ですよ~」


 おどけた感じのモディは私の体に触れる。


「あ、あれ。ここどこ?」


 ふっと直前までの記憶が途切れた。


「さっきまで広場で売り上げを数えてたはずなのに?」

「ふぃ~。どうやら間に合ったみたい。数分だけだったから」


 意味がよくわからない。

 私は突然居場所が変わったことに困惑しきょろきょろと辺りを見回す。


「おう、ステラよ。死んでしまったとは情けない」


 突然、私の口からそんな言葉が漏れた。思わず笑ってしまう。


「何それ、あはは。は、はあ⁉」


 その後で言われた意味に驚愕する。


「ああ、ステラ。私のステラ」


 路地の暗がりからニコラが戻ってきた。

 血まみれの彼女は私を抱きしめて、わんわん泣き始めた。


 不忘の魔女の魔法。

 いま現在の時点で、一番死者蘇生の魔法に近い魔法。

 私は殺されて、そして蘇ったらしい。


「貴女が死ぬとお姉さまが悲しみますから」


 そういう理由でモディと交わした呪いの契約。

 私はニコラの前では死んではいけない。その直前の状態に戻される。

 つまりは、死の直前を忘れられない不忘の呪い。

 まあ、モディに触ってもらわないと直前に記録した状態には戻れないんだけどね。

 結果私は広場で最後にモディと話した状態に戻されて生き返った。


 とはいえ、襲われそうになった上に殺された事実は変わらない。

 やっぱり、この世界私には厳しすぎる……

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