第13話 家で、おしごと

 鍋の中はぐつぐつと泡立ち煮立っている。

 湯気が凄いけどこの煙はとっても危険。猛毒の酸のガスだ。

 今、私は使えなくなった魔石を一度、魔石鉱溶液に戻している。

 中に魂の光、エーテルを封じなおすためだ。


「ふむ、意外と手際はいい。習い始めでこの手際は悪くない」

「いいえ、ステラは天才です。教えたのはつい最近なのに数回でもうここまでできるんですから」

「冗談、ではなさそうですね。魔女でも魔石鉱溶液の調合は面倒なのに」

「作る速度こそ遅いものの、質は遜色ないのですから末恐ろしものがあるます。いずれは我らを超えるかもしれませんよ」

「言い過ぎではないですか? お姉さまに敵うはずがありません」


 そう、なぜか私は調合に関してはかなりの才があるらしい。

 前世では化学の実技授業は割と得意だったけどそれも影響してる?

 もしくは私と一心同体のトリッシュの影響なのか。


「これなら高位の回復魔薬も作れるんじゃ?」

「残念ながら魔石がもう底を突きます。材料も足りませんし、今は無理ですね」


 そんな話をしてるうちに夜になる。

 普通の傷薬は街中でも材料を栽培してるところがあって結構作れた。

 とは言え、売値が一個20ぐらいじゃ借金の返済にはまだまだ足りない。

 原料費に対して利率低すぎ……


 そんなところに、クズ魔石を大量にモディがどこかから持ち込んできた。


「領主に頼んで、中に入れるエーテル用にクズ魔石を戴いてきた。代わりにもう一個作れとのお達しだけどね……」

「うわ、重い~。机にのせてよ」

「仕方ないですね。私が見ましょう」


 軽く百個はある。光の弱さからあの時の魔石ではなさそうだ。

 たぶん使い込んでもうすぐ駄目になる魔石を集めてきたのだろう。

 魔石は魂の熱を血に閉じ込めたものだから熱さえあればそこまで問題ない。


「くれぐれもアストラルを生み出すようなことはしないでよ?」

「そんなへまはしません、と言い切れないのがステラの恐ろしいところですね」


 貴様ら、ぼろくそに言うな?

 そんなに間抜けじゃない。とはいえ、失敗しないと言い切れないのは確かだ。

 まあ、そうなっても魔女と剣姫がすぐそこにいるのだから心配無用。


「まずは全部溶かしてっと」


 クズ魔石を先ほどの様に鍋でドロドロに溶かす。

 抜け出たエーテルが徐々に鍋から沸き立ち虹色の煙を成す。

 そこに先ほど作った魔石鉱溶液を垂らす。

 瓶いっぱいの溶液が煙全てを覆いこむと一瞬で硬化し私の拳大の魔石に代わって床に落ちた。


「まずは一個目は完成かな?」

「うん、かなりいい出来の魔石だね。領主もこれなら満足するよ」


 私の問いにモディは魔石を検め、合格の判断を下した。


「ふう、そこは良かった。じゃあ、あとは私が使う用だね」


 私はほっと胸を撫で下ろす。

 撫でるほどの胸はないでしょとニコラが言うのでお尻を一発強めに叩く。

 ああ、ずるいとモディはニコラのお尻を撫で始めた。

 貴様らそういうのはあっちでしてくれる?

 

 どうやらモディにも錬金術の腕は認められたようだ。

 私のクラフト作業中にふざけ合えるほどの余裕を見せている。


 とにもかくにも、それで一週間分の生活費は何とか稼げた。

 超怖いけど領主のおばさまは仕事に対しての報酬は渋らないみたいだ。

 そして、ニコラへの支払いも滞りなく済ませられる。


 つまり、今宵だけはモディがニコラの抱き枕だ。

 ものすごく嬉しそうに寝室に消えていったモディ達二人。


 数時間後、部屋の中からこの世のものとは思えない呻き声が聞こえだす。

 翌日、彼女はぐったりしながら領主の館に向かっていった。

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