第8話 町は、おおきい

 夜間ランニングはキツイ。全力疾走とか、死んじゃう……

 ゼーゼー言いながらもようやく見えてきた街の明かりと周囲を囲う高い塀。

 まったくもってその壮観な光景に感動する余裕はない。


 後ろからは亡者の群れがぞろぞろとついてきている。

 夜のマラソン大会かな? 

 あんまり早くはない気はするけど数がヤバイ。

 たぶん百は超えている。

 中にちらほらスケルトンやゴーストもいるし危険度はこの距離でも分かる。


「アストラルはいないみたいですね。そこだけは幸いです」


 ゴーストはただ肉体を失って彷徨う魂。

 アストラルはそれが集合し一個の意思を持つようになった死霊の事。

 まあ、私自身がある意味ではアストラルみたいなものなんだけど、もしもバレた時ニコラはどうするだろう?

 たぶん、容赦なく切り殺されるね。黙ってよ……

 まあ、契約があるから私のことは殺せないか?


 そんなことを考えている時間はもうなさそう。

 目の前の惨状をどうにかしないといけない。


「たぶん衛兵たちはこれに気づいています。仕方ない。助けが来るまで私が相手をします。援護を」

「わ、わかった。一番強いのの詠唱を始めるよ」


 街道を走ってきたから燃えるようなものや影響の出る建物もない。

 何の遠慮もなく魔法を放てる。


「火よ。回れ。渦巻踊れ。風よ。そよげ。炎を生み出せ」


 第一詠唱。炎を生み出せた。

 周囲は赤い炎で照らしだされる。ニコラのいつもの戦闘服は今日は紅に染まる。


「炎よ。風よ。舞い踊れ。天を喰らい我が敵を打て」


 第二詠唱。私の今使える攻撃魔法はここまでだ。

 杖先でとどまっていた赤い炎は蒼に変わりニコラの周りの亡者を焼いていく。

 亡者たちの魂が落ち燻り、戦場は青一色に彩られる。


「いいですよ、魔女の血は私が使います。どんどん倒してください」


 ニコラから檄が飛ぶ。いやそう簡単に言わないでくれます?

 一回の詠唱で相当に体力と精神力が消耗する。

 この世界の魔法には火種に魔石の中の熱を使うけど魔力的なものは使わない。

 けど、詠唱の速度を間違えたり加減が悪いと不発に成ったり、自身が巻き込まれかねない。酷く集中力を要するのだ。


「仕方ない、少し変わろっか」


 突如、ガクリと体から力が抜ける。そのまま倒れる。

 私が突如倒れたことでニコラが慌てだすのが遠目に見える。


「ス、ステラ⁉」


 一心不乱に周囲のアンデッドを切り裂いている。


「大丈夫。少し疲れただけ」


 私の体はすぐに杖を片手に立ち上がった。

 続けて勝手に魔法の詠唱を始める。


「火よ。風よ。土くれよ。混じり交ざって露となれ」


 三属詠唱。それぞれの加減が難しすぎて魔法の知識だけでどうこう出来ない。

 本来の私では唱えられない魔法だ。

 土が高温で溶けだし、紅いどろどろの溶岩になる。


「溶土よ。踊れ。渦巻燃やせ」


 その中に魔女の血の入った瓶を放り込む。これで魔石の溶岩。

 それは周囲の亡者達。ゴーストさえも巻き込み全てを燃やしだす。

 ニコラは驚いた顔をしながらも、ちゃんと避けて私の下に駆け戻ってきた。

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