第7話 夜は、まちまで

 女の子は大変だ。

 まだこの体は幼いとはいえしっかり女の子。

 そうなってくると必要なものは多い。お買い物に行きたい。


「というわけで街に行きたい」

「どういうわけでもいけません」

「いや、化粧水とか服とかがだねもう少ないんだよ」

「買ってきますよ、私が。ステラには危険すぎます」


 そうなるといつものこのやり取りだ。

 おかげでまだこの世界の街を一度も見ていない。

 異世界人の私が目覚めたのがつい最近。

 それまではトリッシュが一人でニコラを探していたらしい。

 その時に町には居たと思うんだけどステラには記憶がない。


「自由のない軟禁生活じゃつまんないよ」

「駄目です。この世界は普通の少女ステラには危険すぎます」

「普通じゃないし、魔女だし」

「ほほう、なら今宵は一人で亡者の一人でも狩っていただきましょうか?」

「い、いいともさ。出来たら街に行くよ」


 いや、良くない。詠唱中守ってもらえないと私では死んでしまう。

 ここは一つ芝居を打とう。


「でも、それで私が死んだら契約違反でしょ?」

「そう、ですね……」

「一応ついてきてくれるんだよね?」

「そこはもちろんです。ちゃんと狩れたのか確認しないとですから。でも私の手が必要になった時点でこの賭けはあなたの負けでいいですね?」

「うん、わかった。その条件で契約だ」


 しめしめうまくいった。

 これならニコラに先導させて狩るだけだ。いつもとそうは変わらない。


「……そう思ったのに。今日は本当についてくるだけ?」

「当たり前です。さあ行ってください。獣からは守ってあげます」


 ニコラは本当に私の後ろに立って一定の距離をついてくるだけだ。

 仕方ない奥の手を使うか。


「ぎゃあああああー。助けてーー‼」


 私は森に入ってすぐに大声で悲鳴を上げた。

 ニコラは私の奇行に吃驚してあたふたしだした。


「な、なにをしてるんですか⁉」

「いや、森に入りたくないからこの声に亡者が寄ってこないかなって」


アンデットは目も耳もないのになぜか生者を求めてやってくる。

この声にも反応するはずだ。

ついでに言うと同業者が森にいる。

この声に助けてもらえれば一人でも狩ったことにできると思ったのだ。


「馬鹿なんですか、あなたは。この森、全部の亡者が寄ってきますよ⁉」


 ニコラの慌てように私も青ざめる。やばい、死ぬ。


「え、ええぇぇ―――⁉」

「逃げましょう。流石に私でも守り切れる自信はありません」


 大丈夫、手はあるのだ。


「じゃあ、森を燃やし尽くすか」

「ちょ、ちょっと。冗談ですよね?」


 前から考えていた方法だ。臭いんだよアイツら。

 燃やせばいいじゃんと思ってた。

 燃え尽きた森はあとで魔法で直せるし植生も若返っていいんじゃない?


 私が本当に詠唱を始めるとニコラが見たことない顔で焦りだす。

 思わず笑いそうになった。


「や、やめてください、いくらなんでも過激すぎます。それに駄目です。そんなことをしたら全部のアンデッドがアストラル化してしまいます」


 アストラルは器となる肉体を失い、寄り集まった魂の集合体。

 普通の炎で焼いたら肉体を失った魂は亡霊と化してしまう。

 冷静さを取り戻した私はニコラのその言葉に詠唱を慌ててやめる。


「あ、詰んだわ。これ」


 私達は慌てて町まで走りだす。

 森を出た亡者の群れを流石に二人でどうこう出来はしない。

 家に逃げ帰っても壊されておしまいだ。助けを呼ぶしかないのだ。


 結局町には行けるけど思ったのと違う結果になってしまった。

 いきなりの夜間ランニング(全力)。


 何でこうなった。うん、私の所為だ……

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