第6話 昼は、ひとりで

 もう何度目だよといい加減辟易するほどニコラは私に戸締りをすること。

 かってに戸を開けないように説明して町に向かっていく。


「もう、わかったってば。小さい子供じゃないんだから」

「いいえ、ステラは小さくてかわいいです。だから余計に危険なのです」


 何でも魔女は血そのものが魔法の触媒である魔石で出来ているらしい。

 血って液体なのに石とはこれいかに?

 ひとたび魔女であることがバレれば人攫いに襲われるのはもちろん。

 最悪は魔石目当てに殺されてもおかしくないらしい。


「怖いわ、この世界。やばすぎでしょ。どんだけ魔女に厳しいのさ」

「不殺の魔女、トリッシュ。人殺しをやめさせるために世界にやさしい呪いをかけた最強の魔女。その影響も大きいですね」


 この世界ではその呪いのせいで人は殺されても死なない。

 寿命や病以外では死ねないのだ。不殺の呪い。


『人は、人を殺してはならない。誓約を違えれば相手は蘇り、不死の復讐者となる』


 人を呪わば穴二つ。人を殺せば自身を殺しにその相手が蘇って襲ってくる。

 だから人殺しはなくなる、はずだった。


「戦を止めるため魔女と王の交わした契約。でも人の王はそれを逆手に取った。敵に自国の兵を殺させ、不死の兵とした。不死の兵が復讐を成す前に相手は戦で命を落とす。復讐を遂げられない亡者は他の者たちを襲い始め世界は復讐者にあふれていく」

「どこの世界も戦争好きな連中はいるのか……」

「泣きつかれた魔女は亡者を一掃します。しかし、それが悪かった。魔石として死者の魂を得られると知られたがために、魔女は殺されてしまいました。魔女だけはアンデッドにならない。魂を封じる血のせいで……」


 まったくもって救いがない。その魔女がニコラの師匠だったらしい。

 いや、思い人だったのだろう。


「だから、ニコラはそんなアナタの罪滅ぼしをしているのね?」


 私はそう言いながら誰もいなくなったはずのニコラの家で話をする。

 私の目の前には誰もいない。

 ニコラが出かけてからずっと私は一人で家に隠れている。

 攫われて奴隷落ちとかしたくないもん。殺されるのもヤダ。

 私は虚空に話しかけ続ける。


「いいえ、あの子は復讐を望んでいます。私はそんなこと望んではいないのに」

「ああ、なるほどね。だから、亡者には容赦ないわけだ」

「だから私は死してもここにいる。あの子の復讐を止めるために」


 ここに今ニコラが帰ってきたら、私がおかしくなって独り言をしているように見えるだろう。でも違う。私達は会話を続ける。


「私の中にあなたがいるのは言わない方がいいの?」

「言った途端に私たちは殺されますよ。死者蘇生の法。あの子の悲願ですから」


 そう、私は魔女トリッシュの生まれ変わりで、異世界人の魂を身に宿しているのだ。

 自分でも何言ってるのかよくわからない。でも事実だから仕方ない。


「こわ、まあ分かったよ。暫くは現状維持だね」

「ええ、魅了の魔法チャームが効いているうちは大丈夫でしょう」


 私の、いや私たちの秘密の時間はこうして日々行われる。

 魔法の知識、その使用法。

 ニコラの部屋にある本から学んでいることにしている。


 その師匠から直接教わっているのだ。

 本よりもより高度な魔法が使えるようになっていく。

 魔法に関してはニコラにも実力は隠している。


 そして、私はよりこの世界に馴染んで行く。

 ただ体力は弱すぎて、前世のトリッシュには遠く及ばない。


 今後成長しても、多分私は最弱の魔女となるだろう。

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