第5話 昼は、おやすみ……

すやすやと眠るステラの横で私は目を覚ます。


「今日も可愛い寝顔ですね。いたずらしたくなります」


 勿論そんなことをしたらただでは済まない。

 呪いを受けて、例え私でもであっても無事では済まない。

 いくら可愛くても無理やりに襲えばステラとの契約違反になってしまう。


「この森に一人取り残されれば、貴女は間違いなく死にます。私のものになると言うなら助けてあげますけれど?」


 初めて会った晩、私のこの提案にステラが頷くことはなかった。

 愛玩動物ペットにはなりたくないと拒否されたのだ。


「ち、さすがにそこまで節操なしじゃないか」


 ステラはすでに起きていた。寝たふりに気づかない剣姫様わたしではない。

 普段はポンコツのくせにたまにあざといので油断ならない。

 町に連れて行けば他の者もステラの可愛さには放ってはおけないだろう。


「絶対に悪い虫がつかないようにしなくては」

「そうだよ。契約は私の身を守ること。代わりに私は稼ぎの二割と貴女が必要にしているものを提供すること」

「契約違反は死で償う。わかってますよ?」

「『身を守る』には私の貞操も含まれてるんだよ!」

「『必要なもの』にステラ成分が足りないのです。抱かせてくださいよ~」


 そう言ってステラを優しく抱きしめる。


「もう、しょうがないなぁ」


 そう言いながらも私を受け止めるとその頭をなで始める。

 このぐらいのスキンシップはステラも拒まない。

 ステラからの取り立てはまだ済んでいない。


 私が本当に心の底から必要にしているものの在処はステラに心当たりがあるという。

 契約上、嘘は付けない。そうでなくとも剣姫に嘘などつけるはずもない。

 僅かな視線の揺れで嘘は見抜ける。

 心当たりがあるのは本当なのだろう。何か隠している素振りは見えるが。


 いまだ口には出さない。それがあてになるかは別の話だ。

 脅したり傷つけてまで口をわらせるのは契約違反になる。

 それに、この数か月ですっかり絆されてしまいそんな気も起きない。

 死ぬわけにも、死なせるわけにもいかないのだ。


「ああ、気持ちいいです。ステラ今度は私が撫でてあげますね」

「ちょ、やめぇ。あんたのはエロい感じになるから。ふ、ふにゃあぁ~~」


 森の中で一人彷徨っていたステラ。

 その姿はあまりにみすぼらしく、声もまともに出ないほど衰弱していた。

 亡者と間違えて切りそうになってしまったのがつい先日のように思われる。


 その原因もこの子がどこから来たのかもいまだにわかっていない。

 この子が他の世界の記憶があると言い張ることと何か関係があるのかもしれない。


「私の願いはただ一つ。あの人を取り戻すこと。殺され辱められた彼女の全てを取り戻す。そのためには私は何でもする」


 私の横でくすぐったそうに笑うステラを抱きしめ心の中でそう呟く。

 不死の呪いを世界にまき散らした優しくも畏怖される始祖の魔女。

 私の最初のパートナーにして師を取り戻す。


 死者蘇生の魔法の開発。

 それが私、ニコラ・フラグウェルの目的である。

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