第4話 朝は、お風呂で

やっとのことで私にとっての仮の宿。

 ニコラの家に帰り着いた。ここは彼女の持ち家だ。

 剣姫なんて二つ名を持つ彼女の稼ぎは本来ならものすごく多い。

 見た目も可愛くて大きい、森のそばの一軒家だ。一体いくらしたんだろう?


「もう普通の人間なら一生遊んで暮らせるお金がありますから」


 そんな話を聞いている。

 たぶん冗談ではなくすごい額の貯えがあるのだと思う。


 もちろんそうだと言っても私が彼女の稼ぎに手を付けれるはずもない。

 こうして彼女の足を引っ張りつつ仕事の手伝いをして稼ぎ、彼女への借りを返さねば暮らせない。私は私でお金がないと生きてはいけないのだから。


「もう早く私のものになれば、いくらでも養いますよ?」

「やめい、そういう冗談は。それって自由のない生活でしょうが」

「そうですね。世にそれを奴隷と言いますね」


 その言葉の前に他の余計な文字もつきそうでぞっとする。

 絶対にそんな契約はしない。もうこれ以上玩具にされたくはないのだ。


「では、賭けの代価を戴きましょうか。一緒に、お、お風呂です」


 ニコラは少し顔を背け頬を赤く染めている。


「あ、あれ。そんなのでいいの?」

「じゃあ、もっとすごいので……」

「いえ、それにしてください。おねがいしますぅ」


 いつもはボロボロの私の方が後にお風呂に入る。

 水が汚れるし臭いからだ。なのに今日は一緒がいいらしい。


「うう、女の子同士とは言えやっぱ少し恥ずかしい」

「ああ、私のステラ。可愛いです。綺麗に隅々まで洗ってあげますからね」

「その、隅々はやめて……」


 服はまとめて一応洗濯する。果たして魔法で匂いまでどうにかなるのかはやってみないとわからない。魔法は物理法則を捻じ曲げるほど万能じゃないのだ。

 炎を起こすには薪など燃えるものが必要だし、それを風で乾かしながら火を強くして攻撃用の魔法にしたり生活用に用いたりする。

 科学的に言えば薪から可燃ガスを抽出、空気で密閉過熱し発火させているだけなのだ。

 この世界の魔法は行きつく先はSFに近い。

 しっかりとした理論が行き着いた先が魔法なのだ。

 まあ、つまりは元の世界とほとんど変わらないような生活ができている。

 シャワーとシャンプーで髪を洗う。


「ああ、私のステラの玉のお肌に傷が……」


 本当にニコラに体を隅々まで嘗め回すように見られた。

 転んでぶつけたところに小さい擦り傷や打ち身がみられる。

 後で痣や痕が残るかもしれない。


「癒しを」


 ニコラのその一言だけで私についた幾つもの傷が癒えていく。

 魔石さえあればこの世界の誰であっても魔法自体は使えるのだ。

 だから彼女ならもちろん魔法も使える。

 魔法の触媒である魔石が高価すぎてそうそう使えないから剣で戦うだけだ。


「ウフフ、可愛いですよ。この小ぶりな胸も、張りのあるお尻も」

「ひゃうぁ。や、やめ……」


 そう言いながらニコラが私の体を石鹸のついた柔らかい布で宣言通り、隅々まで洗い始める。私は思わず変な声をあげてしまい、抵抗する。


「だめ、そんなところまで触らないで。あ、うひゃあ」

「その声も可愛いですよ。ステラ」


 抵抗虚しく。ニコラに全身くまなく洗われてしまった。

 まあ、確かに汚れも傷も全く無くなったし、匂いも落ちたのだけど……


「ふいー。生きかえるぅ」

「な、そんなはずありません。ステラには指一本触れさせていないはず。アンデッドにはなっていないはずです」


 ニコラが慌てだす。日本的感覚はこの子には通じない。

 さっきの洗われ方のせいで私はもう本当にくたくただ。

 お湯につかれば全身が蕩けて思わずうとうとしてしまう。


 そのまま、疲れとお風呂の温かさに身を任せ眠りについていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る