第3話 朝は、ぼろぼろ

 森を抜けると夜明けだった。

 朝日が目に染みる。今日も始まろうというのに私はボロボロだ。

 暗い足場で転んだりでへとへとでもある。


 逃げ回ったり、森の茂みをかき分けてで私の服は汚れてしまっている。

 見る人全員に完全に敗走してきたようにしか見えない。


 その姿をニコラは可愛そうなものを見る目で見つめてくる。


「それにしても、相も変わらず酷い姿ですね。夜であったらあの時のようにアンデッドと間違えて切ってしまいそうです」

「本当だよ。転んで逃げてで、泥だらけ。なのになんで貴女ニコラはそんなに奇麗なのさ……」

「き、綺麗だなんてそんな。ほ、褒めても何も出ませんよ?」

 

 なんか、頬を赤らめもじもじしている相棒。

 同じに森へと入ったはずなのにニコラはなぜか綺麗なままなのだ。

 どうしても、解せぬ……


「それは当然です。剣姫わたしとそこらの小娘では歩き方が違いますから」

「いや、だから。そのそこらの小娘をこの仕事に誘っておいてよく言うよ」

「だからこそ、ちゃんと守ってるでしょう?」

「そうだけど、こう何度も危ない目に合うのは精神的にだね……」


 私がこんな仕事をするようになったのはこの子に誘われたから。

 そのことに抗議の言葉をあげてもまったくニコラは聞いていない。


「それより賭けは私の勝ちです。ふふふ、代価は帰ってからじっくりと払ってもらいます。実に今から楽しみですね?」


 不気味な笑みを浮かべるニコラ。帰ってくる時間を賭けていたのだ。

 朝日が昇るまでに帰ってこれれば私の勝ち。今日の稼ぎを総取りできた。

 だけど、今日もボロボロで森を抜けた時には夜明けを向かえた。

 この後の罰ゲームに何をされるのかわからないし、恐ろしい。


「そもそもが、私に先行させて後からついてくる人間が勝てるはずないですよね?」

「うわぁあ、しまったぁ。そうだよ、嵌められた」


 完全に負けだ。守られている時点で負けるのはわかっりきっている。

 先行して索敵するニコラのペースでいくらでも時間は変えられる。

 賭けにもならなかったのだ。それでも少しでもと、淡い期待をしてしまった。

 

「ステラは絶対に賭け事はしない方がいいですね。取り返しのつかないことになりそうです。身ぐるみ剥がされるだけじゃ済みませんよ?」

「うん、町でどんなに誘われても絶対しない……」


 自身の愚かさに絶望する。この後の賭けの支払いも恐ろしい。

 思わず身震いするが後悔してももう遅い。


「早くお風呂に入りたい。匂いが体に染みついちゃいそう」

「そうですね。汚れていなくても、私もお風呂には入りたいです」


 この仕事の嫌なところの一番はそこだ。

 腐敗の進んだ亡骸は森に入った時点で匂いがする。

 それと命がけで戦っているのだから匂いがひどいのだ。この服も多分もう着られない。


「魔石の一個はお風呂の分で他の二つが稼ぎかな?」

「そうですね、この大きさだと一個六百ぐらいですかね」

「で、そのうち二割をニコラに渡すから私は四百ちょっとか」


 一日の稼ぎの二割をニコラに渡す。

 それが私たちの契約だ。魔女は契約を破れない。

 まあ勿論のこと、相手も破れないのだけれど……


 破った時は命を支払う。そういう契約をしているのだ。

 破れば呪われ、いくら魔女自身の魔法であっても解くことはできないらしい。

 ニコラは私の命を守ること、私はその対価を払い続けること。


 この関係は魔女が死ぬ、その日まで続く。

 その日は果てしなく遠いけど思っているよりは近いのは間違いない。

 この危険な毎日をいつまで生きられるのか私にはわからないのだから……


 

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