第9話 町で、おこられ……

 私と変わったトリッシュの魔法でほぼほぼ亡者の群れをかたずけた頃。

 町の衛兵と領主のおばさまがものすごい形相で駆けつけてきた。

 結果から言うと、めちゃくちゃ怒られた。


「あほかい、お前さんニコラが居ながらなんてことを‼」

「はい、まったくもってその通りです。申し訳なく思ってます……」

「まあまあ、領主様。年端も行かない子供のしたことですから」

「だけども、子守もできないならどこかに預けたらどうだい?」

「そ、それは出来ません。なにとぞ、そこだけはご勘弁を」


 ニコラは平身低頭、領主様に謝り続けている。

 こころなしかしょんぼりしている。その様子に申し訳ない気持ちになる。

 私はまたやっちまったよ……


「それに、そこの嬢ちゃん。まさか、魔女じゃなかろうね?」

「あ、はい。魔女のステラです」


 私の言葉に全員の表情が凍り付いた。

 領主のおばさまの視線がより険しくなる。

 周囲の衛兵は素早く私から距離を取り身構えた。


「ば、馬鹿。違うでしょう、あなたはただの普通にいる小娘です」

「だから、魔女だし。ちゃんと魔法も使えるもん」

「ほうそうかい、確かにあんな魔法が一般人に使えると思えないね。もしそうなら……」


 そう言うなり私の目前で手に持つ剣を横に薙ぐ。

 それは私の首の数ミリ先で止まった。


「この場で即、処刑させてもらうよ?」


 おおっと、私何かしちゃった?


 このままだと死刑コースらしい。冷や汗が止まらない。

 魔女はそれだけこの地では恐れられているんだろう。


「ああ、そこは平気ですよ。この子はれっきとした人間です」


 私の腕から流れる赤い血を見た女の兵隊さんが領主に答える。

 さっきから転んでけがをした私の手当てをしてくれていた可愛らしい衛兵さんだ。


「血はちゃんと赤いか。魔女の血は蒼い。魔石鉱溶液かい、さっきのは?」

「はい、そうですぅ。おかげでほぼ魔石の中の火種は終わってしまいましたぁ……」


 私は領主様に光を失った杖の先の石を見せる。ぎろりとにらまれ涙目だ。

 魔法の使い過ぎでもう魔石としての力はなくなっている。

 買えば普通の人間が一年暮らせるほどの魔石だったらしいが、それをたったの一回で使い切ってしまった。

 魔女の血ももう使い切り、この場で切りかかられたら私はまず死ぬ。


「錬金術師の見習いだったのでしょう。記憶がないので自身を魔女と勘違いを……」


 苦し紛れのニコラの言い訳。ああ、誰も信用してないのがわかる。

 だって誰も剣を下げないんだもの。


「魔石鉱溶液を作れるのかい?」

「な、何度かクズ魔石から作ったことはあります」

「確かうちの在庫もこれでなくなるねぇ……」


 いまだ剣を下ろさない領主。こっわい。

 何か余計なことを言えば今すぐ物理的に首が飛びかねない。


「ふむ、あんた名前は?」

「ス、ステラです。たぶん、魔女じゃないですぅ……」

「よろしい。いいね、間違っても今後人前で魔女を名乗るんじゃないよ? 今の世の中、魔女なんて名乗るのはよっぽどの命知らずさ。昔は魔術を扱うものをみな魔女とみなし、敬ったのにねぇ……」


 どこか悲しそうな顔を見せるも領主のおばさまは次の瞬間、にたりと笑った。

 何だか悪いことを考えてそうな顔で私を見つめる。こ、怖い。


「それにしても、錬金術に魔術。なかなかに才がある。うちに来ないかい、給金は弾むよ?」


 領主のおばさまはそんなことを言いだした。そうだろうね。

 あれだけの魔術を一発で使いこなせるなんて、流石史上最強だった魔女。

 私は魔女を騙ってるだけだったらしい。

 今知ったけど、魔法使いのことを魔女というわけではないんだね。

 もう人前で魔女を名乗るのはやめよう。


「や、やめてください。この子は何も知らない可哀そうな子なんです。記憶もほとんど失っていて、町で暮らすなんてとても……」

「ならなおさら常識を身に着けるためにも町にいたほうが良くないかい?」

「私が嫌なんです、もうこの子を失っては私が……」

「私もニコラとお別れは嫌だよぅ」


 ニコラは魔女の弟子だったのがバレれば何されるかわからない。

 私も秘密がバレやすくなるし困る。二人とも町には居たくない。

 遊びには来たいんだけどね。


「領主、町の隅に空き家があります。恐ろしいほどの剣と、魔法の腕。この二人を自由にさせるのはあまりに危険です。そこに住まわせ、監視しては?」


 衛兵のお姉さんがそう言う。

 その言葉に領主は頷きつつ、ぎろりとお姉さんを見つめる。


「モディ、あんたがそう言うなら責任は持つんだろうね?」

「はい、一緒に暮らして監督します」

「よろしい。では、その手はずで進めな。準備もいるだろう、三日以内にそうしな。さもなくば剣姫とそこの小娘、二人とも牢にぶち込むよ?」


 領主様はそういうなり護衛もなしに一人歩いて帰っていく。


「こっわ。やべぇ……」


 姿が見えなくなってから私はやっと一息つく。

 この世界のおばさま、めっちゃ強いし怖い。

 あの人ニコラと変わらんくらい強いんだもの。亡者をサクサク切り倒してたし。


 そして、私たちは街の片隅で暮らすように命令されるのだった。

 同居人が増えたのはどう出るのか。不安でたまらない。

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