第79話 嘗ての恩人は宣言する
「———……知ってる天井だ」
『ケケケッ、随分遅いお目覚めだなァ』
目を覚ました瞬間飛び込んでくる見知った天井に思わず零すも、頭の中に響くスラングの声に一瞬で気持ちが萎えた。
何で寝起き一発でよりにもよって1番聞きたくない声が聞こえてくるんだよ。
コイツの声って契約しても全然嫌悪感が消えないんだけど……誰か変声器を持っていませんか?
くれたら豪邸建てられるくらいのお金を上げますよ、お金は腐る程あるんでね。
何て心底下らないようで俺にとっては火急を要する考えを巡らせながらも……一先ず再び毛布に包まることにした。
「ごめん、何日寝たか知らんけど普通に萎えたし寝るわ」
『おいおい寝てもいいのかァ? 後悔するぞォ?』
スラングという不愉快極まりない奴の声が聞こえたので寝ようと目を瞑れば、楽しそうな声色でスラングが宣う。
無視しようと一瞬本気で考えたが……もしも本当に俺が後悔することがあった場合が嫌なので、片目だけ開いて部屋を見回す。
部屋は何度かお世話になっている王城の医務室的な場所であり……今は居ないようだが、普段は回復魔法の使える人が常駐している騎士団御用達の聖域である。
故に医務室の方には騎士達でさえも逆らえない。
それは置いておいて……スラングの言うような後悔しそうなことは何一つない。
幾つかのベッドと仕切るカーテン、医務室の回復魔法使いの方が事務仕事をするための机と椅子、様々なポーション類が並べられた棚以外に特に何も……。
『———カハハハハハハッ!! まぁた騙されてやがるぜェコイツ!!』
「ぶっ殺す! 今回と言う今回は許さねーぞクソ悪魔ァアアアアッッ!! このままあの性悪女神の下に召してやるよッ!!」
何て頭の中でゲラゲラ嗤う悪魔にブチギレるも、俺からは同頑張っても身体のないスラングには何も出来ないため……ひたすらに怒りが募るばかりだった。
コイツマジで許さん。
どうにかしてコイツの身体を現世に作る方法を探さねぇと……好き放題射程圏外から言われて俺の情緒がイカれちまう。
セラなら何か知ってるかな?
てかセラの精霊ならワンチャンこの悪魔の魂を消滅させられるんじゃね?
『お、おい……あの女神はやめろ……アイツの力を持ってるテメェに言われると洒落に感じねェ……』
「お前ホントに性悪女神が嫌いだよな。どうした? 恥でも掻かされた?」
俺が本気で嫌そうな言い方で宣うスラングに不思議に思っていると。
「———目を覚ましたんだな、ゼロ」
今回の戦いに勝利した象徴とも言える声が聞こえてきた。
もちろん気配で分かっていた———うわっ、俺も人外に近付いてきてるみたいでめっちゃ嫌なんですけど———ので、大して驚くこともなく何気なく声のした方に顔を向けて……僅かに目を見開く。
もちろん黒髪黒目なこともあるにはあるが……1番の要因はそれではない。
———カーラさんがまともな服を着ていたのだ。
肩から先とお腹部分を大胆に露出させつつ、彼女の大きな胸を強調する黒のハイネッククロップドタンクトップと、肘部分まで着崩して羽織ったボタンで前を閉める系の白のオーバーシャツ。
スラッと長くしなやかな脚を強調するような黒のスキニーパンツに、ただでさえ高い身長を更に高くみせる黒のハイヒール。
そんな可愛いや綺麗というより格好いいといった感じでありながら目のやり場に非常に困るコーデで……普段の鎧姿やボロボロの服姿しかみたことない俺は、それはもう動揺を隠せなかった。
「……ゼロ?」
「あ、や、どうしたんですかその格好は……?」
あまりの動揺具合に思わず敬語で問い掛けてしまうも……カーラさんは気にした様子もなく自分の服を見て、照れくさそうに頬をかく。
「———君に会うとなれば、このくらいのことはしないと……と思ってな」
あ、あのぉ……今までゴリラとかチート騎士とか思ってたカエラム団長からカーラさんに認識が変わっただけで物凄く可愛く見えるんですが。
え、これが親密度補正ってやつですか?
何て俺が内外共に絶賛大混乱に陥っていると。
「……どうだ? 似合っているか?」
カーラさんがチラチラと此方に視線を送りつつ、何かを期待するような表情を浮かべて小首を傾げる。
俺はその姿にまた1つ普段の団長の姿と乖離するも……何かそんなことどうでも良くなって素直に頷いた。
「めちゃくちゃ格好いい。自信を持っても良いと思うぞ」
「そ、そうか……ひ、人から言われるのは……は、恥ずかしいモノだな……」
そう言って目をこれでもかと泳がせながら頬を赤く染めるカーラさんの姿を見て……やっと目の前の人がカーラさんでありチート騎士のカエラム団長でもあると確信できた。
確信できたと同時、何か余計に感じていた緊張も治まったので……心を乱された仕返しにちょっと揶揄ってやろうと思う。
「カーラさん、マジでカッコかわいい。きっとモテモテだな、女にも男にも」
「っ!? ぜ、ゼロ……君、私をからかっているだろう!?」
ボンッと爆発したように顔を真っ赤にする、見た目に似合わず純情なカーラさんが涙目でキッと俺を睨んでくる。
しかし殺気も敵意も微塵も感じないのでちっとも怖くな———待って、また人間やめてますやん。
最近ずっと無意識の内に感知してたけど……殺気と敵意を感じるってなんですか?
普通の人間にそんなことできません。
まぁ悪魔と契約した手前、もう俺も普通の人間じゃないんだが。
「カーラさん、俺がどれくらい寝てたとか聞いても良い?」
「きゅ、急な話題転換……ま、まぁいい。君が寝てたのは……ざっと3日だな」
「チッ、またダメ……ちょっと待って、3日?」
俺がノリツッコミみたいな感じで聞き返せば……カーラさんが未だ頬を僅かに火照らせながらもくすっと笑みを零す。
「ああ、3日だ」
「———っっしゃおらあああっ!! 遂に俺もテンプレを踏むことが出来たぞ!!」
何度目の正直か思えていないが、遂にテンプレの1つである『気付いたら3日経っていました!』という偉業を成し遂げた達成感にガッツポーズする。
しかし此方を生暖かい目で見つめてくるカーラさんの姿に羞恥から盛り上がったボルテージも下がり……そっと腕を下ろした。
……1人ならあれだけど……それを大人に見られるのめっちゃ恥ずいんですけど。
え、友達にゲームで買って喜ぶ子供じゃん俺。
今度は俺が顔を赤くする番らしく……顔に集まる熱を感じながら、此方に向けられる生暖かい視線からスッと目を逸らした。
「……あ、あのぉ……何も言わずにそこで立っとくのやめてくれません? 恥ずかしいんですけど」
「ふふっ、悪い悪い。君が大喜びしている姿は私には新鮮だからな」
そう言って楽しそうに笑うカーラさん。
記憶にある笑顔よりも大人びていて……どこか艶やかだった。
俺がその笑顔に見惚れて言葉を失っていると。
「「「———ゼロ!?」」」
バンッと医務室の扉が開かれたかと思えば、エレスディア、アシュエリ様、セラの3人が雪崩込んできた。
3人ともが肩で息をしているのを見る限り、相当急いできてくれたであろうことが容易に分かる。
「お、おう、心配かけたな……悪い」
またもや心配させてしまったことに罪悪感を憶え、控えめに手を上げれば……。
「心配かけたな、じゃないわよ……まぁ無事目を覚ましてくれて良かったわ」
「……ん、本当に良かった……」
「もうっ、本当に心配したんですからね?」
呆れた様にため息を吐いたのち、安堵した様子でふっと笑みを零すエレスディア。
俺が行く姿を見送ったがゆえに1番心配をしていたのであろう、若干涙目で涙声のアシュエリ様。
僅かに眉間に皺を寄せて可愛く頬をふくらませるセラ。
それぞれが三者三様の反応を見せたが……誰も俺を責めるようなことはなかった。
「えっと……俺を責めないのか?」
俺が恐る恐るといった感じで尋ねると、3人がキョトンとした様子で俺を見たかと思えばプッと吹き出して破顔する。
「別に責めないわよ。私はアンタが帰ってきてくれただけで十分ね」
「ん、私は貴方に行かせた立場。感謝することはあっても、絶対に責めたりしない」
「私も助けてもらった身ですし……誰かのために頑張るゼロさんを責められるわけないじゃないですか」
3人の返答が予想外過ぎて俺はポカンと口を半開きにして呆けた情けなくて間抜けな表情を晒す。
しかし声の出ない俺に代わって、カーラさんが嬉しそうに笑みを零すと。
「———君は……本当に良い仲間を持ったんだな」
俺を見つめながら何処か感慨深げにポツリと呟く。
その言葉はどうやら俺だけに聞こえるように言ったらしく……僅かな羞恥を感じたものの、自信満々に胸を張って頷いた。
「———あぁ、皆んな最高の仲間だよ」
もちろんアンタもな、と付け足せば……相変わらず耐性皆無のカーラさんは大きく目を見開くと同時に頬を真っ赤にした。
そんな彼女の姿に俺がケラケラと笑って、笑う俺をカーラさんが恨めがましく睨んで来れば、俺はひゅーひゅーと下手っぴな口笛を吹いて目を逸らす。
そんな俺達のやり取りを見ていたエレスディアが戸惑いを多大に含んだ瞳を俺達の間で彷徨わせつつ、何処かソワソワした様子で声を上げた。
「ぜ、ゼロ……何でそんなに団長と仲良さそうなのかしら……? この前まで怖がってたのに」
「ん? そうだな———や待ってよカーラさん! 前までアンタがあのカーラさんって知らなかったんだから怖がるのも当然だろ! アンタは1度過去を振り返ってみやがれ!」
俺はピクピクと眉を痙攣させつつジーッと見つめてくるカーラさんに逆ギレ気味に言い返せすと、うぐっとカーラさんが痛いところを突かれたとばかりに顔を歪める。
「「…………カーラさん……??」」
おっと、そう言えば2人の前で団長のことをカーラさんって言ったことないわ。
アシュエリ様は知ってるからか知らんけどジト目だし……い、痛いよ、女の子のジト目って途中からは痛いんだから……。
俺はアシュエリ様からのジト目から逃げるように視線を逸らしつつ、説明しようとしたその時。
「———そうだ、3人に伝えないといけないことがあったな」
突然何かを思い付いたかのように声を上げたカーラさん。
俺達は彼女の考えが分からず、皆んなして訝しげに見つめていると……彼女はカツカツとヒールを鳴らしてベッドに腰掛けた俺の背後に回ったかと思えば。
「———私の
背後から俺の肩辺りをギュッと抱き締めると、驚きや後頭部に当たる大変柔らかいモノのせいで固まる俺の頭に顎を乗せつつ———あの頃とは違い、余裕を感じる大人っぽい魅惑的で蠱惑的な笑みと共に告げるのだった。
———————————————————————————
どうもあおぞらです。
これにて第4章『世界四大災厄』は完結です。
今章は、ゼロの葛藤と成長、過去が明かされる章でした。
そして2章から出てるのにちっとも焦点を当てられていなかったカエラム団長ことカーラがやっとヒロインとして台頭する章でもあります。
いや———カーラヒロイン力高過ぎない?
マジでちょっと意味分からんくらいヒロイン力高いやん。
因みにこの話の最後のシーンは、6年前の写真のオマージュです。
昔からどちらも成長して、今同じように撮ればこんな感じになるだろう……というコンセプトで立ち位置を考えました。
さて、次話から次章に入るわけですが。
第5章———『聖光国』は再びとあるキャラが脚光を浴びます。
まさかの展開がある(作者の持論)と思うので、是非ともお願いします!
ついでに書籍も楽しみにしててね!
最後に頑張った作者に免じてちょっとした宣伝させてください。
作者久し振りの新作ラブコメ上げました。
『両片想いの親友達をくっつけようとしてたら、相手の親友である金髪ダウナーギャルの彼女ができた』
https://kakuyomu.jp/works/16818093086659057396
コメディー満載のラブコメ作品です。
是非とも見てみてください!
それではまた次話でお会いしましょう!!
あ、応援コメント待ってるよ?(チラチラ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます