第54話 目前
あ、あれ……?
何か一気にコミカルになった気が……。
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「———うーん……あのジジイには2人しか護衛が居なかったのに、こっちにはうじゃうじゃいるじゃん。これは一体全体どういうことなん?」
ジジイの部屋から歩いて数分程度で兄貴のいる場所に辿り着いたのは辿り着いたのだが……俺ですら違和感を覚えるレベルの護衛の差に思わず眉を潜める。
というのも。
俺達の少し先にある豪華絢爛な扉の前には2人の兵士が立っているのはもちろんのことながら……その扉の先にもそれぞれ10を超える兵士と魔法使いの気配も感じられたのだ。
しかもそいつら全員が、それぞれ精鋭騎士と戦略級魔法使いレベルときた。
ジジイに付いていた奴らと眼の前の奴らの戦力差が月とスッポンも驚くくらいに開きすぎてて困惑しちゃうよ。
てかあのジジイって腐っても大公……つまりはこの国の王様だろ?
それならこの緊急事態においては次期大公の兄貴より優先的に守られないといけないんじゃないの?
いやまぁ俺の考えは完全に素人目線だけど……何か違うんかなぁ。
「……ホントのホントにこの先にセラのクズ兄貴がいるんだな? もしかして居ないとか……」
「……ない、ですね。お兄様の魔力を感じるので間違いないと思います」
「ですよねー……」
分かってましたけども。
こんなに人が集まってて居ないなんてことあり得ないとは思ってましたけども。
無惨にも一縷の望みが打ち砕かれてしまう。
ただこうなってくると、どうせどれだけ考えても良い案など出ないので……堅苦しく考えるのが苦手は俺は早速答えを出した。
「———よし、思い切って真正面から凸るとするか!」
「いやいや待ってください!? 流石にそれは無謀というものですよ!? えっと、流石に冗談で言っているのですよね? 冗談だと言ってください、ゼロさんっ!?」
俺的には本気で言ったつもりだったんが……物凄い焦りを顔に浮かべるセラの必死な姿に思わず言葉が詰まる。
……え、そんなに言われることある??
これで冗談じゃないって言ったら頭おかしい認定でもされるの?
馬鹿からランクアップ……いやランクダウンしちゃう感じ?
いやまぁ確かに多少は無謀かもだけど……そんなの今更じゃんか。
何て思った以上に強い言葉で言われたことで戸惑っていると。
「いいですか、ゼロさん。先程この城に来るまでに……貴方は何人の戦略級魔法使いと戦いましたか?」
神妙な面持ちで俺を見据えたセラが、そんな意味不明なことを訊いてくる。
……何が言いたいんだ、この子は?
その質問は今しないといけないことなんかな?
馬鹿と天才は紙一重って言うけど、俺が紙一重で馬鹿なのと同じで、セラも紙一重で馬鹿というかポンコツなの?
何て結構失礼なことを考えていた俺だったが、頭に大量の疑問符を浮かべて首を傾げながらも、取り敢えず声に出して指折りに数えていくことにした。
「えーっと……始めに来たのが2人で、後から1人ずつ来たから……確か4人だったかな。あれはホントに大変だったよ、マジで。一体何度死ぬかと………………ちょっと待って、今この扉の中に戦略級魔法使いは何人いるっていったっけ?」
何だろう、物凄く悪寒がするんだけど。
これに気付いたら、俺はもう駄目かもしんない。
何てビクビクとする俺へ、セラが小さくこくんと頷いて告げた。
「———10人です。それにアズベルト王国で言う精鋭騎士級の兵士10人がおまけで付いてきます」
「何だよその地獄みたいなハッピーセットは! ハッピーじゃなくてアンハッピーセットだよ!」
あまりの戦力差に俺は反射的に吠える。
ただ、こうやってキレておかないとやってられなかった。
「ねぇどうしようセラ。俺等、結構マジで大ピンチじゃん! 2人で合計20人を相手にするとか無理ゲーすぎんだろ!」
「だから突撃しようとするゼロさんを止めたんですよ!?」
「それは本当にありがとうございます! 危うく犬死にするとこでした! いやでもさ、この国は一体どうなってんだよ! 戦略級魔法使いがこんなうじゃうじゃいるなんて俺聞いてない!」
我らがアズベルト王国ですら20人程度だぞ!?
それが何で大国とは言えないフィーライン公国に何十人もいるんだよ!
あのジジイか、あのジジイが元凶なのか!?
今直ぐにでもはっ倒しに戻ろうか!?
何て、場所も考えず大騒ぎしていたのがいけなかった。
もちろん気配は消して声も潜めていたものの、精鋭騎士級の人間にもなると……。
「———おい、そこで何をしている? もしかして……反逆者の『殲滅の魔女』とそれに与する『不滅者』だな?」
本当に僅かな音でも聞き取り、場所を特定してしまうのである。
扉の前を陣取っていたフルプレートアーマーの兵士の1人が野太い声を上げ、潜んでいた俺達の方にビシッと剣の切先を向ける。
兵士はヘルムの隙間から覗く瞳を爛々と輝かせて俺達の一挙手一投足を見逃さないとばかりに鋭い気配を纏っていた。
さて、ただでさえ戦力差にワタワタしていた中で、いきなり居場所がバレるとどうなるのか。
それは———。
「「———べ、別人ですっ!」」
取り敢えず他人のフリをする、である。
しかし俺もそうだが、どうやらセラは俺以上に嘘が下手くそらしく、これでもかと目を縦横無尽に泳がせて冷や汗をかいていた。
そして案の定、俺達の咄嗟に付いた嘘は……。
「別人だと……? 巫山戯るのも大概にするんだな……!! 私が何度セラ様……ではなく『殲滅の魔女』を見たと思っている!?」
全くもって効果をなしていなかった。
いや俺達隠す気なさすぎんか?
てか何だよ『不滅者』って。
状況的には俺のことなんだろうけど……初耳なんですけど?
それに勝手に二つ名付けないでくださらない?
結構自分で考えてたんだからさ……まぁそれなりにかっこいいから許すけど。
しかしながら、この状況は非常に拙い。
此方から奇襲を仕掛けるならまだしも、今は完全に相手に不意を突かれた状態。
この際逃げることは出来ないし、そもそもする気もないのだが……一先ず落ち着くための時間を稼ぐとしよう。
俺はそっとセラを隠すように前に立ちつつ、キリリと眉を釣り上げる。
「おいおい随分な言い草じゃないか。お前知らないのか? 『女子、3日会わざれば刮目して見よ』ってことわざを。てか『不滅者』って誰だよ、そんな超絶イケメンな男は知りません」
「何だその変な言葉は!! それに『不滅者』が美男子だと聞いたことは1度もないが? 私が聞いた奴らも全員まぁまぁとしか言っていなかったな」
「おいお前に教えた奴ら全員連れてこい、ぶっ飛ばしてやる。———あっ」
俺は反射的に言い返して……全て言い終わった後で気が付いた。
今の質問が高度な罠であった、と。
そして、俺はまんまと嵌められたのだ、と。
俺はあまりにも自然な誘導尋問にギリッと歯噛みしつつ、悔しげな表情を作って口を尖らせる。
「くっ……ただの雑談に落とし穴を埋めるとか卑怯だぞ! あとウチの偉大なる言葉を馬鹿にすんなよ、絶対怒られるからな!」
「貴様はさっきから一体何を馬鹿なことを言っている!? ええい、降伏すれば傷付けないでやろうと思ったが———」
———パンッッ!!
「………………は?」
まんまと俺の口車に乗せられて会話を続けていた男が、ガラ空きの横と自らの鎧に飛び散った鮮血を前に、唖然とした表情で困惑の声を漏らした。
そんな彼を横目に、俺はスッと作っていた表情を消すと……後ろで憂いの帯びた瞳で自身の手と男の横を見るセラに声を掛けた。
「……本当に良かったのか、セラ?」
「……はい、良いのです。この罪は、一生背負って生きていきますから。それに……折角貴方が私が覚悟を決める時間を稼いでくれたのです。その期待に応えないわけにはいかないでしょう?」
どうやら俺の考えは見事にお見通しだった様だ。
そう、俺がこんなぐだぐだと話していたのは———彼女が覚悟を決める時間を作るためだった。
ただ、あくまで俺は『俺がこいつらを殺しても大丈夫か』の答えを問うための時間を設けたつもりだったのだが……どうせ優しい彼女のことだ。
自分の問題なのに、俺だけが人を手に掛けることを良しと思わなかったのだろう。
やはり———彼女は損な性格だ。
そんな所も嫌いにはなれないんだけど、と苦笑しつつ、俺はゆっくりと本日始めての剣を抜き放つと。
「———さぁて、命懸けのカチコミと行こうか」
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