第51話 楽しい楽しいゴリ押し(まだまだ完結しません!)

「———な、何だ……一体何なんだよアイツは!?!?」

「何を怯んでいる!? 我らが引けばあのバケモノを城に向かわせることになるのだぞ!? それだけは避けなければ……!!」

「無理だ……あんな奴に勝てるわけ無い……!! だって強化魔法で強化した剣を素手で握り潰してる奴だぞ!? 握力イカれてんだろ!?」

「しかも動いたら見えな———」

「「「「「ヴォーガーああああああああ———」」」」」


 怯んだ様子で後退った1人を手刀で気絶させると、周りにいた兵士達が何やら迫真の声で叫んでいたが……それを聞き届けられるほど時間もない俺は、ちょっと可哀想に思いながらも残りの5人をほぼ同タイミングで気絶させる。

 さっきからこんな感じのやり取りが続いているのだ。


「…………」


 ……何か物凄く悪いことしてるみたいな気がしてくるんですけど。

 いやまぁ物凄く悪いことはしてるんだけどね。

 国を動かす奴をぶん殴りにいこうとしてるんだからさ。

 でも一応気絶させているだけだし気にしなくてもいいはずなんだが……。

 

「……ねぇ、セラ。何か物凄くいたたまれないんだけど」

「えっと……一応私達は彼等からすれば、唐突にやって来た物凄く強い侵略者ですからね」


 俺がなんとも言えない複雑な表情で言えば、隣でセラも苦笑交じりに頬をかいた。

 やはりノリというのは恐ろしいってことだ———って!



「もぉおおおおお鬱陶しいんじゃてめぇら! 一体何人いるんだよ!!」


 

 あまりの量に俺は思わず叫ぶ。

 こうして今話している間にも、俺はセラの周りを忙しなく動いて兵士を気絶させているのだが……一向に減った気がしない。

 しかし、後ろに倒れている千を裕に超える兵士達の姿を見れば……如何に俺が頑張っているかが分かるだろう。

 今の所建物への被害もゼロだ。

 

 何て業を煮やす俺だったが———。



「———やれ! 纏めてかかれば奴を倒せる!!」

「「「「「「「おう!!」」」」」」」


 

 突然自らの身体に影が落ちたかと思えば、全方位から10を超えるオーラを纏った兵士達が一斉に襲い掛かってきていた。

 ざっと見た感じだと、9人が中級、1人が上級といった具合で……正直言って全く敵じゃない。


「疾ッ」

 

 短く息を吐いた俺は一瞬の間にその場から移動しつつ、止まったように見える世界の中で1人ずつ殺さないように加減をしながら首に手刀を入れてゆく。

 セラには戦わなくていいと言っているが……癖なのか、魔法使いのはずなのに人外の速度で迫る兵士達を目で追っていた。

 

 まぁ俺の全力の動きにも対応してたし……こいつら程度にはそんなもんか。


 何て1人納得しつつ、痺れを切らした俺は手刀を剣に見立てると。



「———【縮地:連式】【峰打ち:連式】」


 

 剣技の中でも特殊な、国で裁かないといけない犯罪者やモンスターを捕獲するための———相手を気絶させることに特化した剣技を発動。

 パッと瞬間移動したと錯覚させる程の速度で続々と此方に駆けてきていた兵士達へと肉薄、剣技によって威力が加減された手刀が彼等の意識を奪い取った。


「はぁ、はぁ……いてて……ったく、面倒ったらありゃしない」


 チッ……やっぱり縮地の連続使用は筋肉がイカれるな……。

 再生能力持ちの俺じゃなかったら一生歩けない身体になってるよ。


 何て若干恐ろしいことを考えつつ、無理な移動によってズタズタに引き裂かれた筋肉繊維が再生して足が動くようになるのを待つ。

 今回は相当酷かったのか、一瞬では治らないようだ。


 因みに、今の剣技の併用で気絶させたのがざっと50人。

 後ろに控えている兵士達を考えるとあってないようなモノだが……周りの兵士達が何が起こったのか分からず、呆然と気を失った仲間を眺めているので、鴨が葱を背負って来たとしか言えない格好のカモをサクッと気絶させて、一先ずセラの隣に戻る。


「あの……手伝いましょうか? 元はと言えば、私が誰も殺したくないなんて我儘を言ったからですし……」


 若干息の荒い俺を見たセラが、心配そうに眉を八の字にして提案してくる。

 その提案に反射的に乗りたくなるが……最初に1人でやるって言っちゃったので俺は肩を竦めて断った。

 

「いやいいよ。それに俺だって、殺さなくていいなら殺したくないしさ。戦争だったら殺さないと自分が殺られるから仕方無しにやってるだけだし」


 てかそもそも、この世界の奴らがどいつもこいつも直ぐに『よし、殺そう!』ってなるのがおかしいんだよ。

 まぁそれに若干侵され始めてる俺も人のことは言えないんだけどな。

 ほんと恐ろしい世界だよここは。


 何てため息を吐く俺に、何やらセラが気まずそうに俺の袖をクイクイ引っ張ってきたかと思えば。




「———魔法使い、来ました」

「くそったれ! 町中でミサイル撃ちまくる奴らを寄越すとか、お前の兄貴の頭はどうなってんだよおおおおおおおおおおおお!!」




 目を伏せつつ言うセラの言葉に、俺は自分にも返って来そうな怒りの咆哮を上げるのだった。











「———フワーッハッハッハッ!! 弱い弱い弱い! おいおいこんなもんかよフィーライン公国の奴らはよぉおおおお!! 今まで『殲滅の魔女』に頼りすぎてたんじゃねーの!? お前ら全員『セラ様を頼りにし過ぎて禄に強くならず誠に申し訳ございません』って謝った方がいいんじゃねーのかなぁ!! おい何か言ったら……って皆んな気絶してて聞こえてすら無いか! そのまま全部が終わるまで寝てろ!!」


 今までのイライラを吐き出すかの如く高笑いしながら、気絶している奴らをめちゃくちゃ煽る俺。

 ただ、これも仕方のないことなのだ。


 結局上級以上の魔法使いが100人くらい来るわ、魔法使いが人なんて余裕で死んでしまう魔法をポンポン放つわ、兵士も雪崩のように押し寄せるわで、全部を1人で対応する俺のイライラはマックスを軽々と突き抜けていた。

 それが全部を倒し終わった後で爆発したわけである。

 

 クソッ、何で俺は1人でやるなんて言っちまったんだよ!

 意地を張らずに頼ってればよかったよホントに!

 

 毎度毎度俺に難易度鬼なモノをぶん投げてくる過去の俺には、1度と言わず徹底的にドロップキックを食らわせてやりたい。

 あの馬鹿のせいで未来の俺がとんでもなく大変な目に遭うのだから、それくらいは許されるだろう。


 もし未来で時間を扱う魔法使いにでも出会ったら、是非ともお願いしてみよ。

 皆んなは過去を変える〜とか、あの後悔を〜とか言うんだろうけど……違う違う。

 俺は過去に戻ったら、過去の俺に全力ドロップキックからのマウントボコボコ戦法で取り敢えず戦闘不能にしてやる。

 それだけのために過去に戻ってやるよ。


 何て過去の俺にブチギレていると。



「———ありがとうございます、ゼロさん。私の図々しくて我儘なお願いを聞き届けてくださって」

 

 

 端正な顔に罪悪感やら嬉しさやらの感情を綯い交ぜにしたかのような複雑な表情を浮かべたセラが、深々と頭を下げてきたではないか。

 角度もしっかり90度な辺り本気度が伝わるが……。


「あの……頭を上げてくれない? 多分ね、君みたいな美少女が俺みたいな男に頭を下げてる状況って結構絵面ヤバいのよ。俺的にはめちゃくちゃ可愛らしい笑顔で『ありがとう、ゼロさん』って言ってもらった方が嬉しいので、是非とも頭を上げてくださいお願いします」

「え、あっ……ご、ごめんなさいっ! あのっ、もう頭は上げました! 頭を上げましたので、ゼロさんも頭を上げて立ってくださいっ! 早く城に入りましょう!?」


 何事かと出てきていた民衆たちの目が物凄いことになっているのにビビった俺は、もはや熟練の腕とも言える俺の十八番———土下座をかましていた。

 俺の言葉で注目されていることに気付いたらしいセラが、僅かに頬を赤らめると共に、俺の土下座に気付いて慌てた様子で今度は俺の頭を上げさせようとする。


「ふっ、どうよセラ? これがお礼とは言え頭を下げられる者の気持ちだ」

「……物凄くいたたまれない気持ちになりました……」

「そうだろうそうだろう。だから別にお礼なんていいんだよ」


 彼女の行動にクスッと笑みが零れるのを感じながら、俺は城に足を踏み入れようとして。



「あ、ゼロさん、少し振り返ってみてください」



 なんてことないように言う彼女の言葉に従い振り返ると。





「———ありがとう、ゼロさん」


 

 


 思わず全ての行動を忘れて見惚れてしまう程の笑みを浮かべたセラが、そう言って俺を抜かして城の中に入る。

 その時、彼女の顔が耳まで真っ赤になっていたことに俺は気付かなかったのだった。


—————————————————————

 すまん、1度全消しして書き直してたら遅くなった。

 次は明日の0時に上げる……はず。

 頑張って上げます。


 なんか作者がミスって完結通知いったらしいんですけど、完結なんかしないよ!

 まだまだ終わらせる気ないよ!

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