第50話 カチコミ行ってきます!
———時刻は昼過ぎ。
様々な年齢層の人々がごった返し、1日で最も活気に溢れる時間帯。
それは首都だとなお顕著であり……アズベルト王国の王都にも比肩するほどの巨大な首都に入るための城門には、様々な職種の人々や馬車で溢れかえっていた。
しかしそれはいい。
それはいいのだが……。
「———さて、意気揚々と出てきたわけだが……どうしようかね」
「……そうですね……まさかここまで厳重になっているとは思っていませんでした」
如何せん、城門の検問所に大量に配備された兵士が問題だった。
というのも……当初の予定では、セラの公国民に被害をなるべく出したくない、という考えを尊重して、首都に素知らぬ顔で入った後、城の前までやって来て初めて大暴れする予定だったのだ。
その際に通る検問は、適当な冒険者に金を詰んで一時的にパーティーのフリをしてもらうという画期的で天才的———セラが思いついた———な作戦で何とか乗り切るはずだった。
何でも冒険者は、パーティーリーダーが身分証明を出せば入場出来るらしい。
ところがどっこい。
今は冒険者も全員が身分証明を出さなければならず、ローブを被っている人間は顔を兵士に見せなければならない、というモノに変えられてるではないか。
1回近くで見に行ってみたけど……しっかり俺とセラの似顔絵だったよね。
しかも結構精巧なヤツなのが俺達からしたら余計たちが悪いよ、全く。
そんなわけで少し離れた場所から検問を眺めていた俺とセラは、フードを被ったままの状態で困ったようにため息を吐いているわけである。
「うーん……策士策に溺れるってこういうことを言うんかな。やるやんセラの兄貴。家族の情の代わりに智謀を手に入れたって言われても納得できちゃうね」
まぁ俺からしたらそんな選択はアホの極みだと思うんだけどね!
絶対そんな奴と関わりたくないよ。
もしそんなクズが家族にいたら俺の制裁パンチ(私情10割)が火を吹くぜ。
何て俺が心の中でメラメラと怒りを燃やしていると。
「……ごめんなさい、ゼロさん」
セラが申し訳無さそうに眉を八の字に潜め、シュンと肩を落として謝ってくる。
俺は突然謝られて驚くが……直ぐにピンときた。
多分彼女はこの状況を予見できなかったことを謝っているのだろう。
健気で責任感の強い彼女らしい行動ではあるが……。
「別に謝らなくてもいいって。そもそもあの作戦が思い付けるだけ凄いと思うの。きっと俺なら思い付くまで1週間は掛かるね」
別にセラが責任を感じる必要はないのだ。
作戦はあくまで作戦であって、必ず成功する、させないといけないわけじゃないんだしね。
俺みたいに考えなしに突っ込もうとするより百倍マシだよ。
何て俺なりに慰めてみるも……セラは真正面から受け止められないのか、それとも何か思うことでもあるのか苦笑交じりに吐露する。
「……そう、ですかね……? 今まで失敗すれば皆んなの人生が奪われてしまう状況でしか判断を———」
「ストップ、タイムだよタイム! 重い、重いって! そんなクソ真面目な考えは要らなーい! もっと気楽に考えよ? 今は死んでも死なない俺しかいないんだぜ? つまり背負うものは何も無いってわけよ」
てか何でまだ俺と同い年くらいで大勢の命を背負ってるのよ。
幾ら公国最強だからってなぁ……まだ身体も心も成長しきってない子供だぞ。
…………あれ、考えれば考えるだけセラの家族にヘイトが溜まるな?
そこまで考えたところで……何の反動か知らないが、ふと俺は我に返った。
男子なら分かると思うが……今の俺は俗に言う賢者タイムに突入しているらしい。
多分というか十中八九徹夜が原因だろう。
まぁつまり何が言いたいかというと。
———俺はこんなに考える人間だったか、である。
昔はこう……もっと行き当たりばったりだったはずだ。
こんな色々と考えて、未来のことを気にするような人間じゃなかった気がする。
いやだってさ、俺って1回見ただけの戦略級強化魔法を土壇場で使った男よ?
あの騎士団長を無謀にも初対面で謝らせようとした挙げ句、弄り倒した男よ?
イライラとその場の勢いで公爵家の子息に制裁パンチを何発も食らわせた男よ?
超絶格上&不利な立場なのに、モテるかもしれないからって挑発する男よ?
死にたくない〜とか言いながら、勝ち目ないのに自ら戦いに行く男よ?
堂々と『未来のことは未来の俺に丸投げするタイプ』とか公言する男よ?
…………あっれぇぇぇぇ?
「……ゼロさん?」
考えれば考えるほど考える意味が分からなくなってきた俺に、セラがフードから覗く瞳に戸惑いの色を宿して尋ねてくる。
そんな彼女を俺はじっくりと見つめる。
「ジーーーッ」
「あ、あの……そ、そんなに見つめられると……恥ずかしいと言いますか……っ」
俺に見つめられた当初は訝しげに見つめ返していたセラも、徐々に頬を朱色に染めつつ、恥ずかしそうにアメジストの瞳を泳がせて口元をニマニマとさせ始めた。
指先で瞳と同じアメジストの髪を弄るのも……こう、そそられるものがある。
正直言って物凄く可愛い。
今まで俺がエレスディアとかアシュエリ様、団長を見てなかったら惚れてたこと間違いなしって断言できるくらい可愛い。
———そんな彼女を泣かせるまで追い詰めた野郎共が呑気に城で生活している。
……うん、何だか頭がスッキリした気がする。
そして、俺がしないといけないことも分かったかもしれない。
俺は視界が明瞭になっていく感覚を憶えつつ、目線を検問所とその周りにいる大量の兵士達に向けながらセラに問い掛けた。
「……セラ、お前の要求って公国の民達に被害を加えないことだよな? そんで兄貴たちと話せたらいいんでよな?」
「?? そうですけど……それがどうかしたのですか?」
当たり前ながら、俺の意図が掴めないらしいセラがキョトンとした表情で不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女を眺めながら———内心で、俺らしい素晴らしい考えを思い付いたことに自分で自分を褒め称えていた。
どんな素晴らしい考えを思い付いたのかって?
そんなの至って簡単だよ。
———迫りくる兵士を全てその場で気絶させればいい、それだけだ。
きっとセラは魔法を使うことも考慮して城の前からにしようと言ったのだ。
ならば……完全フィジカル頼みの俺が、城の前まで彼女をお膳立てすればいい。
軽く首トンして気絶させるならセラも心を傷めないだろうし、兵士が吹き飛んで建物が倒壊する心配もない。
……え、めっちゃいい考えじゃね?
こうすればワンチャン民間人の家すら壊さず辿り着けるんじゃね?
「———セラ、朗報だぞ! この状況を打開する天才的な考えを思いついたかもしれん!」
「ほ、本当ですか!? い、一体どんな……!?」
顔に喜色を浮かべつつ、期待に瞳を輝かせて俺を上目遣いで見つめるセラに、俺はドヤ顔で言い放———とうとして踏み留まる。
別に怖気付いたとかじゃない。
心優しい彼女のことなので、俺にある程度負担が掛かるこの作戦を絶対に賛成してもらえないと悟ったからだ。
ならば、彼女が驚いている間に城の前まで辿り着けばいい。
なぁに、イージーもイージー、超イージーモードよ。
こちとら凶悪犯を捕まえて、国を救って、アルフレート副団長ですら勝てない『殲滅の魔女』に勝ったゼロ様だぞ?
こんなモブ兵士が何人いようが敵じゃないのだよ!
何て己を鼓舞しつつ、期待を向けてくるセラにいたずらっぽく笑みを浮かべた。
「まぁ一先ず検問所に行こうぜ」
「もしかして……秘密、と言うことですか?」
「そうそう———って何でそんな心配そうなのか聞いてもいい?」
俺が秘密だと言った途端、此方に心配そうというか訝しげな瞳を向けてくるセラに思わず聞き返す。
すると、彼女は少し言いにくそうにしたのち、遠慮がちに言った。
「……ゼロさんのことですから、何か無謀なことでも考えてるのではないかな……と思っただけです」
君といい、エレスディアやアシュエリ様といい、どうして俺の頭の中をこうも簡単に見抜いちゃうのかな?
てか君も段々俺の扱いに慣れてきてない?
何て別の意味で信用されていることに不服に感じつつも、バレるわけにはいかないので自信満々に頷いた。
「そんなわけないだろ? 俺だってちゃんと考える……いやホントだって!」
「ふふっ、分かっていますよ。ゼロさんは優しい人ですからね」
「何か別の意味が含まれてる気がする!」
少し焦る俺を見て、面白そうにクスクス笑いを零すセラ。
その様子に『まぁセラの緊張がほぐれたならいいか……』何て肩を竦めつつ……意識を切り替える。
さて、少し気を引き締めるとしよう
これから相手にする奴らは、流石に巫山戯ながら対処できる規模じゃない。
俺とセラは、まだフードを被ったまま検問所に向けて闊歩する。
すると、早速検問所から少し離れた所で検問の様子を監視していた兵士達が、如何にも怪しげな姿格好の俺達を見つけたらしく、明らかに此方を眺めながら言葉を発した。
「そこの2人、止まりなさい!!」
「ちょっと身分証と顔を見せてもらおうか!」
俺達の方にガチャガチャと鎧が擦れる音を鳴らしながら小走りに近付いてくる二人組の兵士。
そんな見方によっては危機的状況といえる状況であり、更に言えば作戦すら話していないというのに、セラは油断こそしていないものの穏やかな表情を浮かべていた。
……何か見透かされてる気がするんだけど。
ホント何で俺の考えが分かるのかね……あ、俺がセラより馬鹿だからか。
何て俺が考えている間に二人組の兵士達が俺達の眼の前で立ち止まると。
「それじゃあ身分証と顔———」
「悪いね。全部が終わるまでおやすみ」
最後まで言い終わることなく、俺の手刀を首に受けてガクンと地面に崩れ落ちる。
突然白目を剥いてぶっ倒れた相棒の姿に、もう片方の兵士が驚愕に目を見開きつつも直ぐ様バックステップで距離を取ると———剣を向けたまま笛を鳴らした。
———ピィィィィィ!!
甲高い音と共に今まで検問所やその近くにいた兵士達が一斉に集まり……あっという間に俺達を囲む。
それぞれが剣を抜き、全身に強化魔法のオーラを纏っていた。
その様子をぼんやりと眺めていると……兵士の中でも一際強いオーラを纏った、アズベルト王国でいう上級騎士レベルの鈍い光を放つ鎧を着た男が前に出てくる。
「貴様らは一体何者だッッ!! 返答によっては通すことも……処刑になることも———」
「———長ぇよ、おっさん。お前にそんな時間を使ってる暇はねーんだわ」
一瞬の内に男の懐に入り込んだ俺は、男の顎を掠めるように拳を振るう。
拳は寸分違わず男の拳を掠め———男は反応すら出来ずその場に崩れ落ちてしまった。
また、近付いた拍子に俺のフードが脱げて素顔が露わになる。
「「「「「「「!?!?」」」」」」」
俺の顔を見て驚愕に目を見開いた兵士達。
そんな彼等を眺めながら、俺はフードを脱いだセラが横に立ったのを確認すると。
「オラオラであえであえ! アズベルト王国を救った英雄にして『殲滅の魔女』をも打ち破った男———ゼロ様がやって来たぞ! 俺の目的は唯一つ! 城でふんぞり返ってるクソ野郎をぶん殴ること! こっちには『殲滅の魔女』いるけど……流石に可哀想だってことで、俺が全員纏めて相手になってやるから———掛かってこいやあああああああああああああ!!」
全身を白銀のオーラで装飾しつつ、腹からあらんばかりの声を発して宣言した。
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やっぱゼロは無謀じゃないと面白くないよなあああああああ!?(歓喜の雄叫び)
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