第42話 VS殲滅の魔女
「———……お前は、自分が何を言っているのか分かっているのか?」
カエラム団長が相変わらず殺気の籠もった瞳を向けながら尋ねてくる。
そんな彼女の質問に、俺はふと昔———今のゼロという存在が出来上がった、全ての始まりの日———のことを思い出し……ふっと笑みを零して肩を竦めた。
「もちろん分かってますよ。でも……この戦いだけは譲れないんですよ、絶対に。彼女のためにも、そして……俺のためにも。だから団長は、他の魔法使いをぶっ倒しててください」
「……っ」
そんな俺の言葉にカエラム団長が何か言おうとして……心底不機嫌そうにギリッと歯噛みする。
同時にぐったりするアルフレート副団長を担ぎ、ギロッと今一度俺を睨んだ。
「…………負けでもしたら、私が殺してやる」
「それまで生きてたら、どうぞ殺してくださいな」
最後まで減らず口を叩くな、と言わんばかりに舌打ちをするカエラム団長に担がれたアルフレート副団長が苦笑する。
「……君は僕が何を言っても引かなそうだ。だから提案しておくよ。———この戦争が終わったら、団長の理不尽について、お酒片手に語り合おうね」
「お、フラグっぽいけどそれいいっすね。団長の理不尽についてなら、余裕で幾らでも出ますよ、俺」
「……お前ら後で本当に覚えておけ」
アルフレート副団長の最高の提案に俺が笑い、そんな俺達の様子に怒りで眉と口角をヒクヒクさせたカエラム団長が恐ろしい言葉を吐き捨て———一瞬にして眼の前から消えた。
2人が辺りから完全に消えたのを確認すると。
「……わざわざ待ってもらって悪いな。あの人達、毎回一言多いんだよ」
「…………なぜ、残ったのですか……? 貴方では、私には勝てません」
俺が苦笑交じりにドレス姿のセラに言えば、彼女は理解不能とでも言いたげに眉を潜め、疑惑の感情が籠もったアメジストの瞳を俺に向けていた。
そんな至極当然で否定しようもない事実を述べたセラに、
「おいおい、戦う前から勝った前提の話をすんなよ。こちとらめちゃくちゃ勝つつもりですけど? 窮鼠猫を噛むって言葉もあるくらいだし、弱いと思ってた相手を舐めてると痛い目見るぜ?」
そう言って俺はニヤッと笑みを浮かべる。
どこまでも自信満々に、堂々と。
決して気後れした様子など見せない、見せるわけにはいかない。
見せた時点で———俺の負けだ。
そんな覚悟を持って告げた俺を、セラは呆れたような……それでいて羨ましそうな瞳を向けてボソッと呟いた。
「…………貴方は、どこまでも綺麗ですね。私とは……違う」
スッと顔からも言葉からも感情というモノを消したセラの魔力が膨れ上がる。
あまりの密度に魔力が可視化され……突風が俺の全身を叩いた。
……ちょっと無謀すぎたかな?
いやまぁどのみち戦うことには変わらないんだろうけど。
そう思いつつも、念の為尋ねてみる。
「……話し合い、って方法を取ることは———」
「ありえません。私と貴方は敵、分かり合うことは出来ないのです」
「……ま、そりゃそうよな」
取り付く島もない、か。
まぁ分かってたことだけど。
俺はため息を吐きそうになるのを抑え、全身に走る痛みをなるべく意識からシャットアウトしつつ、中段に白銀のオーラで装飾された剣を構える。
対するセラの周りには、4色の魔力が勝手に動いたかと思えば———4人の半透明の人が現れる。
『セラ、やっと覚悟を決めたんだねー』
薄緑の魔力からは、少年のように活発そうな少女。
『ほう……面白そうな相手じゃねぇか』
真紅の魔力からは、精悍で格闘家のような男。
『……仕方ないことだと分かってはいるのですけど……』
蒼玉の魔力からは、聖母のように包容力のありそうな女性。
『ガハハハ、男らしい
黄土の魔力からは、頑強で筋肉質なずんぐりとした男。
その全員が膨大な魔力を宿し、1人1人が俺よりも強い気配を纏っている。
…………これは拙い、非常に拙い。
まさか突然4人も相手が増えたことに、俺は目を丸くすると同時に額から冷や汗が流れるのを感じた。。
そんな俺の様子を察したのか知らないが、セラが罪悪感の孕む視線を4人の者達に向けると。
「……彼等は、私に力を貸して———いえ、一方的に私が力を借りている者達です。精霊、と言えば貴方も分かるでしょう? 1人1人が貴方よりも強いですよ」
「……ま、そうだろうよ」
まるで俺に戦うなと忠告するかの如く言った。
だが、分からないはずがない。
何せ精霊なんて日本だと物凄くメジャーな生き物だからな。
それにとんでもない強さだってもの知ってる。
ただでさえ勝てないなぁ……とか思っていたけど、それすら生温かったらしい。
ここまで来ると、勝てるどうこうではなく、負けないように戦わなければいけなさそうだ。
「……上等じゃねーか。こんくらいのピンチ、鼻で笑い飛ばしてやるよ」
俺は体内を暴れ狂う魔力を更に暴れさせ、無理やり肉体を強化する。
その影響で肌に現れる亀裂が増え、全身を隈なく巡る血管さながらに全身を侵食して真っ赤に染め上げた。
全身を包み込む白銀のオーラはゆらゆらと揺らぎ、不規則に大きくなったり小さくなったりしている。
「……貴方は、なぜそれほどまで……」
誰が見ても暴走状態だと分かる俺の状態に、僅かに目を見開いたセラが悲しげな表情で言ってくるが……俺は鼻で笑って吐き捨てる。
「ハッ、そんなの俺がお前に勝つために決まってんだろ。それに、俺の限界を決めるのはお前じゃない———この俺なんだよ」
そう言い切ると同時———身体を前に倒して地面スレスレに駆ける。
不意打ち気味に動いてみたが……セラは全く動じることなく魔力を紡いだ。
「【
黄土色のずんぐりとした男———恐らくドワーフ———が地面に手を付いた途端。
硬い地面がまるで泥沼のように変幻自在に形を変え……槍のような先端の尖った無数の針となって俺に猛襲する。
しかし……俺は動きを止めない。
「よっ、ほっ、っと」
軽快なステップを踏んで土の針を避ける。
時に剣で斬り飛ばし、時に針を足場にして、確実に彼女の下に迫る。
『む、むう……何故だ! あ、当たらぬ……!!』
「おいおい幾ら何でも俺を見くびりすぎなんじゃねーの? こちとらアズベルト王国の英雄様だぞ」
そう軽口を飛ばして余裕であることをアピールする。
もちろん余裕はないのだが……この攻撃を避けることくらいは造作ないことだ。
別に何か特別なことをしているのではなく、ただ限界を越えた瞳が視界の全ての針を捉え、拡張された感覚が何となく針の動きを先読みしているに過ぎない。
ギリギリで方向を変えられたりしたら、速度によっては避けられないだろう。
それなら、対処される前に懐に入る———ッッ!!
「【縮地】」
無意識の内に足の全筋肉繊維に魔力が集い、爆発寸前な力を一気に解放。
十数メートルの距離を一瞬で潰す。
パッと俺の視界が切り替わり、すかさず眼前のセラ目掛けて剣を———。
「【
「———っ!?」
縮地のような速度を上げたような技ではなく、文字通り俺とセラの間に瞬間移動してきた薄緑の少女。
その少女のせいで俺が剣を振るうことは叶わず、彼女を中心に爆発するように発生した突風によって軽々と吹き飛ばされた。
しかも、それだけでは終わらない。
「【
再び瞬間移動してきた蒼玉の女性の身体が一気に巨大化し、吹き飛ばされる俺を空間ごと水の牢獄に閉じ込め———水の圧力で身動きを封じられた俺へと、悲しげな声色でセラが無慈悲に告げる。
「終わりです———【
「
———ドガアアアアアアアアアアッッ!!
巨大な白赤色の炎の腕が水に触れた瞬間、あちらの世界で言う『水蒸気爆発』というものが発生し、大爆発を引き起こした。
そんな中、俺はというと。
「あ、あぶねぇ……ガチで死ぬとこだった……」
両腕と片足を吹き飛ばされて全身の皮膚がただれた状態ではあるものの……何とか死なずに生きていた。
しかし今言葉にした通り、結構ギリギリだった。
俺が爆発の時に取った行動は、防御。
爆発の瞬間、渾身の力で剣を振るって水牢を真っ二つにすると、剣を盾にすると共に両腕と両足に魔力を篭めて身体を丸くしたのだ。
お陰で身体の大半が残っており、再生にそう時間も掛からない。
そう考えている最中にも、俺の身体の再生は終わりを迎えていた。
既に両腕が再生し、身体中の火傷も跡形もなく消えている。
そんな俺の様子を見ていたセラは、アメジストの瞳を動揺で揺らしながら呟いた。
「…………再生した……? でも、それほどに強大な力は代行者でさえ扱えない代物のはずですが……」
「いやどこが強大なんだよ。こんな身体が再生しなくても良いから、俺はお前と対等にやり合えるくらいの魔法の才が欲しかったね」
そう言葉を返しつつ、地面に落ちた剣を拾うと。
「さて……俺が死ぬのが先か、セラの魔力が尽きるのが先か———我慢比べといこうじゃないか」
再び地を蹴ってセラへと肉薄した。
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あんまりしないようにしてたんですけど、不甲斐ないことに最近モチベが下がってきてるんで……☆☆☆とか応援コメントを貰えると超嬉しいし頑張れます。
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