第40話 開戦!!
「———俺は護衛ですよ、アシュエリ様を護る盾なんですよ! だから俺を引き摺るのはやめて下さいカエラム団長!!」
次の日。
日が昇り、遂に開戦間近となった。
両軍共に本陣と絶大な能力を誇る魔法使いを護る様に陣を組み、騎士達が一番槍となるべく先頭に立っている。
そんな中———俺は、アシュエリ様の護衛のはずなのに、カエラム団長に引き摺られていた。
向かう先はもちろん騎士達がズラッと並ぶ陣の最前列。
騎士達は俺の本性を知っているので特に気にした様子はなく、薄情者めが……と周りを睨んでいた俺を、カエラム団長がジロッと一睨みすると。
「……昨日勝手に抜け出したのはどこのどいつなんだ? ん? アルフレートに謝ったところで許されると思っているのか? アシュエリ第1王女殿下やエレスディアにも許可を取っている」
「……いや、えっと……それには深い事情がありましてですね……や、やめろぉ! 俺を最前線に連れて行くなぁ! てか2人とも何でオーケー出しちゃったんだよぉ!!」
ジタバタと必死に抵抗するも、素の身体能力ですら負けているため、あっさりと先頭まで連れて来られた。
そして、オロオロとする俺に、カエラム団長が加虐心満載な笑顔を浮かべると。
「———黙って戦え」
表情とは真反対の、底冷えするような冷たい声で言った。
その脅しに俺はもちろん、
「は、はひっ……精一杯頑張らせていただきますぅ!!」
顔を真っ青にして呆気なく白旗を上げた。
いや無理よ。
逆らったら何されるか分からんもん。
普通に怖すぎるって。
正直相手の魔法使いの1万倍怖いって。
バードン先輩があんなに察しが良いのも理由がよく分かった。
きっと今の俺みたいな状況に陥ったんだろう。
そりゃこんなことを体験したら、嫌でも相手の機敏を意識する。
何て俺が戦々恐々としていた時、敵軍に動きが見られた。
正確に言えば、地を揺らすほどの雄叫びと共に敵軍の騎士や兵士達が雪崩のように此方に押し寄せてきたのだ。
また、その後方では大量の魔法使い達の魔力が膨れ上がり、魔法陣のようなのが空中に現れて、魔法の準備をしているのが見えた。
その様子を冷静に見ていたカエラム団長が、表情を一切変えることなくくるっと後ろに控える騎士達を眺めると。
「———作戦は既にアシュエリ第1王女殿下から知らされているはずだ! 魔法使い共は私とアルフレート、そして……この国の英雄であるゼロが叩く!」
「えっ?」
「「「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」」」」」」」」
い、今この人何て言った?
魔法使い共を俺が叩くって?
おいふざけんなよ、そんなの聞いてないよ?
俺は一切聞いてないんですけど!?
敵軍に負けない爆音の喝采を上げる騎士達を他所に、当の本人である俺は完全にパニック状態だ。
俺は助けを求めるように横にいるアルフレート副団長を見るも、どうやら助けることは出来ないようで、カエラム団長を一瞥すると困ったように苦笑を浮かべて肩を竦めた。
「ごめんね、僕じゃこの決定は変えられない。余計な口出しをしたら士気に関わることもあるからね。だから僕に出来ることと言えば———僕がなるべく魔法使いを倒して、ゼロ君の負担を軽くすることくらいかな」
そんな頼もしいことを言ったアルフレート副団長が、バスタードソードを構えて膨大な魔力を発すると同時———彼の全身と彼が握るバスタードソードを、バチバチと火花を散らしながら暴れ狂う青白いスパークが装飾する。
更に、まるで彼の魔力の解放が合図となったかのように後ろから次々と魔力が膨れ上がり始める。
俺がチラッと見れば、先輩方が【
……どう考えても口を出せる空気じゃないんですけど。
え、本当に俺は魔法使いを相手にしなければならないと?
しかし、いい加減覚悟を決めなければ出遅れてしまう。
敵側の戦力を見る限り、中級から上級で主に構成されており……流石に強化魔法を使っておかないと死んでしまいそうだ。
「……あぁ、くそったれ……。これが、昨日清楚な美少女に出会った代償か……」
俺は愚痴を吐いて胸中で舌打ちする。
そして、次からは絶対に本陣の外に出ないことを誓いながら———。
「———【
遂にこの前、自らのモノにした戦略級強化魔法を発動。
身体の内から今まで感じていた痛みとは別に全能感や高揚感が溢れ出し、物凄い熱となって全身を巡る。
全身の表面数センチを白銀のオーラが包み込み、瞳が銀色に変色。
今まで現れていた不安定の象徴みたいな緋色のオーラは一切出ておらず、全身を覆う白銀のオーラも不規則に揺らぐことは無くなっていた。
「ほう……やっと会得したんだな」
「何十回も使ったら、才能無くてもいい加減慣れますよ」
俺を見て面白そうに笑みを浮かべたカエラム団長に肩を竦めて言葉を返しつつも、彼女の全身を守護する他とは一線を画す漆黒のオーラに内心驚嘆していた。
おいおい……何だよこの馬鹿みたいな魔力量。
俺の何十倍あるんだよ、化け物め。
ほんと、恐れられる理由がよく分かるわ。
彼女の纏う漆黒のオーラは、鍛え抜かれた刀のように流麗で冷徹なのに、世界に災厄を招く龍の如き荒々しく攻撃的という相反するモノだった。
更に、それを支える魔力量、魔法の完成度と魔法の制御能力が人外なんて言葉じゃ収まりきらないくらいに規格外。
同じ【
これがアズベルト王国を代表する騎士団の元締め、団を纏める長。
誰もが恐れ、崇め……果てには人類を代表する猛者ですら負ける可能性の方が高い世界四大災厄の一柱である黒魔龍を単独で倒した———世界の英雄。
まだまだひよっこの俺とは隔絶した力と称号を持つ王国最強の騎士は、味方軍からの絶大な信頼と支持を背に、漆黒の剣をビシッと迫りくる敵軍に向けると。
「———彼奴等に吠え面をかかせてやれ!! 全軍、突撃ッッッッッ!!」
場を支配するような覇気の籠る声を張り上げて、俺達を先導するように駆け出した。
「———くそう、何で2人とも置いてくんだよ! チームワーク皆無かよ!!」
「な、なんだこのバケモノ!? あれだけ俺達の仲間を切り捨てておきながらどうして泣きそうになってなんだ!? うわああああああああああ!?」
「変態だ! 敵軍から泣きながら剣を振るうド変態が現れたぞぉおおおおおお!!」
開戦から数分。
僅か数分しか経っていないのに、俺は既にカエラム団長とアルフレート副団長に置いてけぼりにされていた。
そのため、鬼気迫る勢いで2人に追い付こうと目的地まで一直線に駆け抜けながら剣を振るっているわけであるのだが……その絵面が相当酷いらしく、軍からはバケモノやらド変態と呼ばれる始末。
正しく踏んだり蹴ったりである。
因みになぜ置いてけぼりにされたのか……それは至極単純なことだった。
「———ねぇ、そんな当然みたいな顔で空を駆けないでよ! 俺にそんな高等剣技が使えると思うなよ!!」
そう、空と陸との違いだ。
敵軍と衝突するや否や、カエラム団長とアルフレート副団長は剣技の1つ———『空歩』を使った。
2人は軽々と俺達の頭上を飛び越えて、飛んでくる魔法を相殺させながらあっという間に敵の魔法使い部隊に突撃していった。
対する俺は、そんな高等剣技なんざもちろん使えないので、こうして愚直に進んでいるわけである。
何なら2人に合わせて突っ込んだせいで先輩達とも少し離れているため、完全なる孤立状態に陥っていた。
そんなこんなで俺が孤軍奮闘していると。
「覚悟ーーッッ!!」
「ガァアアアアアア!!」
今まで切り捨てた敵兵とは一線を画す魔力量で全身に灰色のオーラを纏った、鈍く輝くフルプレートアーマーの男が、灰色の体毛に身を包んだ巨大な狼型の魔物の背からジャンプしつつ、大剣を振り被って俺の行く手に躍り出てくる。
恐らく敵の小隊長あたりの人間だろう。
俺は僅かに目を見開きながらも、咄嗟に敵兵に突き刺した剣を引き抜いて、下から掬い上げるように斬り上げた。
———ガキィィィィ!!
剣と剣がぶつかり、甲高い衝突音を奏でながら火花を散らす。
「何っ!? 我が一撃が受け止められただと!?」
何やら相手さんが驚いた様に声を上げているが……今の俺は、それに反応できるほど心に余裕がなかった。
俺はふっと力を抜きつつ剣身を寝かせて力を受け流すと。
「———うっせぇ黙ってろ!! 今はお前らに構ってる暇はないんだよ、そんなことも分かんないなら赤ちゃんから出直してこい!!」
「グハッ!?」
その場でくるっと一回転すると共に、白銀のオーラで輝く剣を横一文字に薙ぐ。
回転の遠心力によって速度も威力も増した俺の一撃は、簡単に男を一刀両断する。
「グルァアアアアア!!」
しかしすかさず灰色の狼が牙を剥いて襲い掛かってくる。
太陽に煌めく犬歯は、軽装備の俺など容易く貫くだろう鋭利さ誇っていた。
半年前の俺なら、の話だが。
「———【剛剣】」
狼の真正面から剣技によって重たくなった剣を一振り。
同時———襲い掛かってきた狼の身体が縦一文字に両断され、その生命を呆気なく散らした。
「た、隊長がやられた!?」
「わ、我々はどうすれば……!?」
どうやら俺の見立て通り、それなりに重要な人間だった様だ。
その証拠に、先程までウザいくらいしつこく俺を取り囲んでいた何百何千もの敵兵が怯んだ様子で動きを止めた。
そんな彼奴等の動揺を感じ取った俺は、
「おい雑兵共、死にたくなかったら道を開けろ! アズベルト王国の英雄———ゼロ様のお通りだ!!」
俺を置いていったあの2人にも聞こえるくらいに声を張り上げて名乗りを上げつつ———【飛燕斬】を放った。
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