第36話 戦争の鍵
読者の皆が優しくて格好良すぎる件について。
あと200万PVと作者初の20000フォローありがとうございます!
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「———陛下、よろしいでしょうか?」
豪華絢爛を体現した玉座の間は、普段より一段と緊張感が支配していた。
そんな中で、王国の紋章が印された水色のローブの下に、白い制服のような服を着込んだ眼鏡の男———五大賢者の1人、『深水のローデリック』が進言する。
国王陛下はローデリックに目を向けると。
「よい、好きなように申せ」
そう言って続きを促した。
ローデリックは『ありがとうございます』と頭を下げると。
「……我々が全員呼ばれる意図が私には掴めません。幾ら大公国と言えど……戦力で言えば、我々五大賢者か『
クイッと眼鏡を人差し指で押し上げながら言った。
その様子を見ていた俺は軽く感動する。
かの有名な眼鏡クイッ、きたあああああああ!
この世界に来て稀なテンプレだ!
何て興奮する俺を他所に、カエラムが馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「フンッ、随分と浅い考えだな」
「なっ!? き、貴様……」
「お前らは戦場に行ってないからそう言えるんだ。あいつ等、戦力が数年前より何倍にも増強されているぞ? 私の戦果を見ていないのか?」
煽るようにカエラムがそう言えば、ローデリックが悔しげに下唇を噛んで呟く。
「……戦略級魔法使いを2人、だったな」
「そうだ。しかも私の体感では、もう何人か戦略級がいた」
「!? ば、馬鹿な……戦略級魔法使いは我が国でも20もいないのだぞ!? 一度にそう何人も……」
「だから全員が呼ばれたんだ」
そこまで言い切ったカエラムは腕を組んで口を閉ざし、ローデリックも深刻そうな表情で国王陛下に『申し訳ございませんでした。発言を撤回させていただきます』と告げて黙り込んだ。
何だかこの空間の緊張感が数段階上がった気がする。
……こ、こえぇ……。
何だよこの状況。
普通に怖すぎるんだけど……殺伐とし過ぎだろ。
俺なんか場違いだよ場違い。
俺はそう感じながらも、自分なりに今までの話を纏めてみる。
まず、アズベルト王国に隣国のフィーライン大公国が戦を仕掛けた。
その戦が反乱の時に騎士団の居なかった理由であり、カエラムが大暴れしなければ今も続いていたかもしれないほどに苛烈を極めた、と。
こうして前回は一応アズベルト王国が勝ったが……再び大公国が攻めてきた。
それも斥候が持ち帰った情報によれば、総大将は大公国の第1公女で小国級魔法使いである『殲滅の魔女』という物騒な名の者で、他にも最低でも戦略級魔法使いが10人、兵士はほぼ全てが中級を超える力を持っているらしい。
更に何やら大量の魔物も兵士達に混じって闊歩しているとのことだ。
これらの情報から、今回は前回とは一線を画すと思った国王陛下が、アシュエリ様と第1王子であるレオン様に未来視を使って貰った結果———
「———我が軍は敗北する……とのことだ」
国王陛下が表情を微塵も変えることなく告げる。
すると、予め知っているアシュエリ様や王妃殿下を除いた、ほぼ全員が少なからず驚愕の反応を見せた。
もちろん驚いたのは俺も同じだ。
寧ろ、なまじこの国の騎士達のレベルを知っているだけあり……驚愕はより大きいものだった。
え、どんな編成で行ったのか知らないけど……負けんの?
騎士団の先輩方とかめちゃくちゃ強いよ?
それにあの暗黒のなんちゃらも即死魔法なんていうチート魔法使うのに?
何ていう俺の疑問は、どうやら俺だけではなかった様だ。
「———それは、少々言い過ぎじゃねェのか?」
あまりにも不遜としか言えない言葉遣いで国王陛下に進言したのは、焦げ茶色の髪に魔法使いにしてはゴツい身体付きの精悍な男。
服はローデリックと同じ構成だが……真っ赤なローブと制服のような服はどちらも既にボロボロになっている。
五大賢者の1人であり……俺でも知っているくらいの有名人。
異名は『炎帝』やら『王国最強の魔法使い』など……魔法師団版の騎士団長といった感じだ。
強さはカエラムより僅かに劣るらしい。
化け物だな、騎士団長。
そんな彼の名前は『炎帝のヴォルフラム』。
王国最強の魔法使いの名を冠する男だ。
何なら俺が1番会いたくも関わりたくもない相手でもある。
だってさ、燃えるのってマジで痛いんだぞ。
火あぶりの刑とか普通に考えたくもねーよ。
もしアイツと話すことがあったらカエラムの隣にいる時であって欲しい。
何て俺が考えている間に話は進んでおり、国王陛下が流石ヴォルフラムとでもいう風に、今回始めて表情を変える。
悪戯が上手く見抜かれてホッとしたといった感じに笑みを浮かべる。
「うむ、そなたの言う通り、これは言い過ぎとも思えるが……実際には強ち間違いではないのだ。実際、とある鍵を加えなければ我が軍は敗れる」
「なら、その鍵ってのは何なんだ? この俺が回りくどいことは嫌いだってのは知ってんだろ?」
「そう焦るでない。今回は、その者と余が信頼するそなた達との顔合わせの意味も含まれているのだ」
そう意味深な発言をしたのち、皆んなは気付いていないようだが……何故か国王陛下の目が一瞬こちらに向いた気がした。
…………おっと、何やら不穏な空気が流れてきたぞ。
何故か物凄く嫌な予感が俺の身体を駆け巡る。
この感覚は何度か味わったことあるが……毎回毎回ろくでもないことに巻き込まれる前兆だった。
ブワッと全身から冷や汗が噴き出て、俺の背中が冷や汗で蒸れて気持ち悪い。
ジッとしていようとしても、落ち着かなくて無性に身体がムズムズする。
そんな罪状を告げられる被告人のような気持ちの俺の耳に、国王陛下の威厳と覇気に溢れる声が届いた。
「———我が国の英雄、ゼロよ。今回の戦……そなたが鍵となる」
…………さては、騎士になったのは間違いだったな?
この場の全員からの視線が突き刺さり、俺は引き攣った笑みを浮かべながらそんなことを思う。
明らかに俺の大本の目的———死にたくない、というモノから遠ざかっている。
この流れは誰がどう見たって非常に良くない。
俺は様々な視線に晒されつつも、俺でない可能性を諦めきれずポツリと呟いた。
「…………人違い、なんてことはありませんか? 俺みたいなモブ顔、この世にはごまんといますよ?」
「……違いません。私が、しっかりと、この目で確認しました」
「で、ですよねー」
唯一の逃げ道を我が死守すべきお姫様であるアシュエリ様に潰される。
くっ……アシュエリ様が裏切った……!
だ、だがしかぁし!
俺はまだ諦めないぞ……『殲滅の魔女』とか大量の戦略級魔法使いがいる場所に行くなんて自殺行為じゃないか……ッッ!!
「……あ、実は俺、ゼロって奴に代行を頼ま———痛ったあああ!? え、エレスディアさん!?」
「見苦しい言い訳はやめなさい。もう無理よ。それに———」
何とも言えない表情を浮かべつつ同情を孕んだ瞳を此方に向け、叩いた所を優しい手付きで撫でるというDV彼氏みたいなことをし始めるエレスディア。
更に俺の手をぎゅっと握り、いつもの勝ち気な笑みを浮かべて言った。
「———アンタの背中は私が守ってやるわよ。だから安心しなさい」
やだっ、物凄くイケメン……いや待て流されるなゼロ。
危うく絆されそうになったけど落ち着くんだ。
今までの相手は騎士だったから請け負ってきたけど……相手は俺を一発で消し炭にできるバケモノ魔法使いが相手だぞ!?
流石にそれは危険すぎる気が……。
何て心を揺り動かされながらも物凄く渋る俺に、いつの間にか降りてきていたらしいアシュエリ様が相変わらず無表情のままジッと俺を見つめて言った。
「……今回は、私も指揮官の1人として戦争に参加する。だから———信頼してる人が側に居て欲しい。私は、ゼロに居て欲しい」
そう真摯な瞳で言われ……チラッと見た国王陛下の苦虫を噛み潰したかのような表情に
も相まって、俺は何も言えなくなった。
……おかしいなぁ……。
この前も思ったが、最近の俺は自分らしくない行動ばかり取ってる気がする。
自分の命が優先第一のはずなのに……何故か毎度の如く面倒事に首を突っ込んで死にかけている。
間違いなく俺が嫌っている偽善者の道まっしぐらだよな。
でも———ここで逃げたら、俺は絶対に後悔するんだろう。
「はぁ……でもコッチを選んだとしても、どうせ絶対後で死ぬほど後悔するんだろうなぁ……。ごめんよ、未来の俺……」
視界のアシュエリ様とエレスディアが顔を輝かせる。
俺はそんな2人の様子に大きなため息を吐いてガシガシと頭をかくと。
「———分かったよ……やってやる、やってやりますよ! 殲滅の魔女? 大量の戦略級魔法使い? どいつもこいつも掛かって来いよ! どうせなら全員ぶっ倒して1番手柄立ててやんよ!!」
やけくそ気味にそう宣言したのだった。
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