第33話 不意

 めちゃくちゃ悩んだ結果、新しく上げた。

 これが作者の限界。

———————————————————————— 


「———ゼロ……? いないの?」

「あ、います、いるいる。全然いるよ寝てもないし何もしてない」

 

 未だどえろい下着姿のアシュエリ様に覆いかぶさったまま、引き攣りそうになる顔を表情筋で抑え込んで言葉を返した。

 この間も、ずっとアシュエリ様の腕は俺の首をガッチリ拘束して離さない。


「そ、そう……。あ、あのね……ちょっと扉の外に出ることってできる?」


 普段はハキハキとハッキリ話すエレスディアにしては、随分としおらしいというか緊張の孕んだ口調で問い掛けてくる。

 何か可愛らしいな……と思いつつも、今直ぐ向かうことは不可能なので……。


「ちょっ、ちょっと待ってくれん? 今色々とアレがアレで……」


 こういうことしか出来ない。

 しかし、こんな抽象的の極みといえる言葉でもエレスディアには伝わったらしい。

 扉の向こう側で何やら息を呑む音が聞こえたかと思えば、


「そ、そうよね……アンタも男だし、アシュエリ様が寝ておられるなら、ひ、1人で……その……ナニしてても……ご、ごめんなさい」

「ちょっと待てええええええい!! お、おおおい滅多なこと言うなよ! ち、違うからな!? 別に1人で何もしてないからな!?」


 確実に思い違いをしているであろうエレスディアの羞恥に染まった声色で言葉が紡がれ、同じ様に俺も顔を真っ赤にしながら反射的に俺は言い返した。

 

 …………あれ、別に間違いじゃないのか……?

 だって今エレスディアが来てなかったら、俺は確実にアシュエリ様とアレがああなってたわけで……ほぼ正解っていっても過言じゃない……?


 今の状況を思い出して頭がこんがらがる俺が黙ったことで、エレスディアが慌てて擁護するように言葉を並べる。


「わ、分かってるわ、アンタだってそういう年頃だって……! 私は、し、仕方ないと思っているわ! ……そ、それに、私だって……ひ、1人でナニ……」

「………………ほぅ」


 皆さん聞きましたか?

 あのエレスディアが今完全に口を滑らせましたよ。

 この方、ドMの他にムッツリすけべの属性をお持ちのようですよ。

 寧ろ最高じゃないですか———おっと思わず本音が……今はそんなことを考えている暇なんてないのに。


 俺は内なる変態を心の奥底に押し込み、俺の下で不服そうに口を尖らせるアシュエリ様に助けを求めた。


「……アシュエリ様、どうしよう」

「見せつけてやれば、いい。望むところ」

「さてはアシュエリ様、今日エレスディアが来ること知ってたでしょ!?」

「……黙秘」

 

 焦るのは俺1人で、一向に焦った様子を見せないどころか笑みを深めるアシュエリ様の姿に、何となくこの状況を仕立て上げたのが彼女だと分かった。

 もちろん、何でこんな状況にしたのかはサッパリ分からないのだが———ってそんなことよりも、だ。


 間違いなくこの状況は拙いよな?

 てか遂に童貞卒業かと思ったら、何でこんな危機的状況に陥ってんだよ!

 これ、バレたら一生エレスディアに口利いてもらえなくなるよな!?

 マジで考えろゼロおいお前ならこの状況を打開できるはずだ……!!


 そう、俺が必死に己を鼓舞して頭を回していると。


「……」

「うわっ———あ、アシュエリ様!?」


 突然アシュエリ様が腕に力を入れたかと思えばグルっと一回転して、俺とアシュエリ様の立ち位置が反対に変わる。

 つまりは俺をアシュエリ様が押し倒している、という意味だ。

 しかもアシュエリ様が俺の下腹部に女の子座りの格好で腰を下ろした。

 

 えっとぉ……お、お尻に当たりそうなんですが……それ以上動かれると物凄くヤバいんですが……。


 そう俺が目で訴えるも、彼女は一向に聞き入れることなく……それどころかしなだれ掛かって来て、ピタッと俺にくっ付いた。

 お陰で超絶整った顔が俺の直ぐ目の前にあるし、俺の胸に彼女の豊満な胸が押し付けられて、それはもうすんごいことになっている。

 彼女はそのまま、怪しげな光を瞳に宿したアシュエリ様が俺の耳元に口を近付けて囁いた。




「———今からヤる、ヤらない。どっち?」




 …………えーっと、もう無理な予感がしてきました。

 いい加減俺の理性も瀕死を通り過ぎて完全に消滅しそうです。


 ゴリゴリと理性のHPが削れていく感覚を感じながら、もう身を任せようかな……何て思ったその時。




「…………ん? 何でアシュエリ様とゼロの気配がピッタリ———っっ!?!?」


 


 今までのしおらしさはどこ行ったのと思うくらいに力強く『バンッ!』と扉が開かれると同時に、俺とエレスディアの視線が絡む。

 その真紅の瞳がどんどんと極寒に近付いていくのを眺めながら……心の中でポツリと呟いた。



 ———そう言えば、エレスディアって気配の感知が出来たんだったなぁ……。










「———どういうことか説明して」

「……はい」


 床に正座を余儀なくされた俺の前で仁王立ちしたエレスディアが、大凡感情という感情が抜け落ちた冷たい瞳と表情で命令する。

 もちろんそんな状態の彼女に逆らえるほど命知らずでもない俺が、大人しくありのままを説明しようとすると。


「……私が、誘惑した。ゼロは、私の身体に欲情した。する直前に、エレスディアが来た」

「んなっ!?」

「間違ってないけどぉ……間違ってないけど、もう少し言い方がぁ……」


 横からベッドに腰掛けたアシュエリ様が最も端的に説明を終えた。

 エレスディアは彼女の言葉にボフンッという効果音が付きそうなくらいに顔を真っ赤に染めてしゃがみ込むと同時に、居た堪れなくて肩を狭める俺を潤んだ瞳でキッと睨んだ。


「…………大きい方が良いのね」

「え?」

「ええ、私は小さいもの。アシュエリ様とは比べるまでもなく小さいものね。それに私は可愛くお願いとか絶対出来ないし似合わないものね」

「いやいや待て待て待て! 俺は一言も大きい方が好きなんて言ってないが!? それに俺のいた村(日本)では小さいのも愛されてたから! 俺だって全然嫌いじゃないし寧ろ好きだから! それにお前の性格は俺の村では『ツンデレ』という一種の究極ジャンルを確立した超大人気な性格だから! 俺ももちろん大好きです!!」

「……へっ?」


 燃えるんじゃないかと思えるほどに真っ赤な顔で言った俺の言葉を聞いたエレスディアは、呆気に取られたように声を漏らして目を見開いた。

 対する俺は、羞恥で完全に殺られていた。


 うぅぅぅぅ……何で俺がこんな性癖開示をしないといけないんだ……!!

 しかも相手は男子じゃなくて女の子だぞ……!?

 もう嫌だ、死にたいよぉ……死んで火葬してもらって誰の記憶からも消去して欲しいよぉ……。


 俺が五大賢者の誰かに頼んで殺してもらおうか本気で考えていると。




「———あ、アンタは、こんな私でも良いの……?」




 潤んだ瞳に何処か期待するような光を宿し、物欲しげな表情で俺の顔を覗き込むエレスディアの顔が目の前にあった。

 また、零した声色も普段の力強く美しいモノではなく、どこか儚くも可愛らしいモノに変化している。

 俺の視界の隅でアシュエリ様が何かイレギュラーでも起こったかのように顔を顰めているが……今はそれどころじゃなかった。



 ———これ、モテ期来たんじゃね?



 そう、あのモテ期である。 

 沢山の女子に好かれるという男にとって夢のような人生絶頂期。

 最近では殆ど都市伝説と化していたが……これはワンチャンあるのでは?


「……ゼロ……?」

「…………えーっと、エレスディアは今のままで良いと思います。今のままのお前が1番好きです」

「……今のままで良い……ふふっ、そっかぁ」


 俺が小さく呟けば、エレスディアが噛み締めるように俺の言葉を反芻すると、嬉しそうに顔を綻ばせ……そっと俺の手に自らの手を重ねた。

 その表情と手に伝わる熱にドキッと胸が高鳴る。

 顔に籠もる熱が更に増してむず痒い気分に陥る。

 照れやら恥ずかしさで彼女を見ていられなくなって、スッと目を逸らせば……俺の服の袖を掴んで、超至近距離からむすっとした表情を浮かべたアシュエリ様がジトーっとした瞳で俺を見つめていた。


「……ゼロは、浮気者」

「ま、待ってよ……俺はそんなクズじゃない……」

「……ふんっ」


 俺の必死の弁論もアシュエリ様には効かず、ふいっとそっぽを向かれてしまった。

 しかしそれも束の間、エレスディアが未だ顔を真っ赤に染めたまま、何処か決意するように頷いたかと思えば———




「———わ、私、ゼロとなら……いいよ?」




 俺の右腕を控えめに抱き締めていつもの自信満々な表情は鳴りを潜め、恥ずかしさを我慢しつつ、潤んだ瞳で俺を見上げながら消え入るほどのか恥じらいの孕んだ声で言った。


「っ!?」

「……む、見過ごせない」


 エレスディアのまさかの大胆な行動に、俺は声も出せずに驚愕で目を見開く。

 対するアシュエリ様は、エレスディアに対抗するようにぎゅっと俺の腕を抱き締めて宣言する。



「……ゼロ、私とやる」

「ゼロ……私としようよ」



 それに感化されたエレスディアが潤んだ…………何かおかしくね?

 いや流石の俺でもこれがおかしいって気付くぞ。

 エレスディアとか、もはやアンタ誰レベルじゃん。

 もうこれ完全にエロゲー作品のハーレム主人公みたいな状況に陥っているじゃん。

 今までそんなの欠片もなかったのに何で今日いきなり……ハッ!?


 俺の頭にビビッと電流が走り、この現象の真相が分かった。



 ———これは俺が作った都合のいい夢なのだ、と。



 だって冷静に考えて、こんな美少女達に迫られるほど魅力的な男か俺?

 常に行き当たりばったりの掌くるくる馬鹿だよ俺。


 …………まぁでも、別に夢ならいっか。


「ふあっ……」

「……っ」


 俺はどうせ夢なら、と意気揚々に俺の両腕を抱きしめる2人をそっと抱きかかえると共に、優しくベッドにおろす。

 突然行動を起こした俺に、ボフンッとベッドに沈み込むエレスディアとアシュエリ様が困惑と期待、情欲の入り混じった瞳を向けてくる中———俺は目をカッと見開いて宣言した。




「———俺の名前はゼロ。この国を救った英雄だ。よって、据え膳食わぬ軟弱な男では無い!!」




 いざ童貞卒業へ(夢の中だけど)と靴を脱ぎ、上のシャツを脱ぎながら勢い良く一歩を踏み出し———。



 ———ツルッ。



「…………ふぇ?」



 気付いた時は、本来カーペットが敷かれているはずの大理石みたいな床が直ぐ目の前に迫っていた。

 もはや魔法を使う暇も、受け身を取る時間すら無い。

 つまりは……。



「———ぶべらっ!?」

「「ゼロ!?」」



 無防備な状態で床に顔面を強打。

 2人の慌てる声が遠くから聞こえ……そのまま白目を剥いて気絶したのだった。







 目の前に目を瞑ったゼロの姿。

 既に傷は治り、ただ眠っているだけに見える。


「「…………ごくっ」」


 その身体を、タガの外れた者達が———

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