第34話 宣戦布告(始めはエレスディア視点)
色々とドタバタしたお詫び。
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———や、やらかした……っ!!
私———エレスディアは、目が覚めると同時に視界に飛び込んできた寝息を立てるゼロの姿と、自分があられもない姿で彼に抱き着いていたことで……否応なしに夜のことを思い出してバッと跳ね起き、シーツで身体を隠しながら頭を抱える。
た、確かに初めての夜は女性から誘うって言うけれど……あ、アレは流石に幾ら何でもアウトよね!?
これじゃあ私の方がよっぽどゼロより変態じゃない!?
で、でも、アレだけ期待させておいて気絶するゼロも悪いと思うのよ!
自分の責任を棚に上げつつ、何も知らない様子で気持ちよさげに眠るゼロをキッと睨んでいると。
「……ん、おはよう」
「……おはようございます、アシュエリ様」
私と同じく淑女とは思えぬあられもない姿を晒したアシュエリ様がムクリと起き上がり……眠たそうにボヤーっとしている目をこすりながら私を見つめる。
しかし直ぐに視線を外して次にゼロへと視線を移せば———大きく瞠目すると共にビシッと石のようにその場で動きを止めた。
そして、ポツリと呟いた。
「…………ヤバい」
どうやら私と同じように罪悪感に苛まれているらしい。
そもそも昨日は何かおかしかった。
幾らアシュエリ様をゼロが襲っていて焦っていたと言っても……流石にあ、あんな痴女みたいな行動にでることはないはず……。
何て考えていた私の耳に、アシュエリ様の衝撃的な言葉が飛び込んできた。
「……えっちな気分になるアロマキャンドル、恐るべし。シーアは、どこで見つけてきた?」
「ちょっと待ってください!? え、エッチな気分になるアロマキャンドル……?」
私が恐る恐る問い掛けると。
「ん。シーアに、オススメされた」
「恥ずかしながら、私めがご用意させて頂きました」
いつの間にか、2人分の服を持った顔見知りの茶髪のメイド———シーアさんがベッドの横に立っていた。
彼女は素早くアシュエリ様に服を着せると、私の下にやって来て、同じ様に服を着せようとしてきたので慌てて止める。
「わ、私は大丈夫だから……!」
「左様ですか。では、此方に置かせて頂きます」
そう言って私の横に服を置いたかと思えば『また御用があればなんなりとお申し付けを』との言葉と共に部屋から出て行ってしまった。
再び2人きりとなり、最初こそ私が着替える音がしたが……今では沈黙と規則正しいゼロの寝息だけがこの空間を支配している。
そんな中、意外にもアシュエリ様が先に口を開いた。
口を尖らせながら、如何にも不服そうにムスッとした表情で呟く。
「……昨日のは、ゼロに言わない」
「え?」
それは私にとって、意外な言葉だった。
メイドであるシーアさんがアロマキャンドルを用意したということは、恐らく国王陛下や王妃殿下も公認だと思われるからだ。
そう考えると、十分にアシュエリ様がゼロを誘惑する理由も分かるし……寧ろ既成事実を作ったので、言った方がゼロを上手く取り込める気もする。
というか、言わないのは王族として拙い気がするのだが……まぁそこは彼女自身で何とかするだろう。
しかし、アシュエリ様が言いたいことも理解できた。
彼女は……アシュエリ様は、私と同じくゼロが好きなのだ。
だから、ゼロの意識があるときならいざ知らず、彼が気絶している時に襲っていながら『責任を取って』などと言いたくないのだろう。
私だって言わないようにしようと考えていた。
昨日やらかした私が言うことでもないけれど……ちゃんと私を好きになって貰ってから、そういうことをして初めて、責任を取って欲しい。
我ながら何とも我儘なことだ、と自嘲する私を、アシュエリ様が真剣な眼差しで見据えると。
「———ちゃんと次は、ゼロが起きてる時にする。ゼロと、2人で」
そう、一種の宣戦布告とも呼べる決意を、私に向かって言い放った。
しかし、その決意は無駄なモノだ。
いや、私が無駄にさせてみせる。
私はアシュエリ様を真正面から見つめ返し、覚悟を篭めて告げた。
「———いえ、私がゼロとします。幾らアシュエリ様であろうと……彼は絶対に譲りません」
彼のことが1番好きなのは———この私だ。
「———ん、んーっ……あ、あれ? 何で俺がアシュエリ様のベッドに……?」
心地良い微睡みから浮上した俺が目を覚ますと……いつものソファーではなくアシュエリ様のベッドの上だった。
しかも、辺りを見回してみるが……アシュエリ様の姿も気配もない。
途端に心臓が早鐘を打ち、溢れ出す大量の冷や汗。
……え、どこに行かれた……?
いっつも俺の方が起きるのめちゃくちゃ早いですやん。
何で姿が見当たらないので?
焦燥に駆られた俺はベッドから降り———机の上に置いてある高級そうなアロマキャンドル的な物が無性に気になり、視線が固定された。
別に何の変哲もなさそうなのだが……俺の全細胞がこれを放っておいてはいけないと叫んでいる。
「……何だこれ?」
俺が目の前にあるアロマキャンドルを眺めていると。
「———ん、目を覚ました」
そんな声が聞こえ、声の方———アシュエリ様の部屋の入口に目を向れば……正装である高級そうな甲冑に身を包んだエレスディアと、同じく正装と思われる白を基調としたドレスを身に纏うアシュエリ様が立っていた。
その後ろには、アシュエリ様お付きの顔見知りの茶髪メイドさんもいる。
2人は俺を見るなりホッと安堵のため息を吐いてゆっくり近付いてきては、何かを探るような目を向けてきた。
「おはよう、ゼロ。調子はどうかしら?」
「まぁ良いけど……その格好は?」
「……ん、ゼロ、おはよう。昨日の、覚えてる?」
「あ、無視なのね……そんで何でしたっけ? 昨日のこと? え、昨日の俺が何かヤバいことでもやらかしたんですか?」
そう言えば昨日の記憶ないな……。
でも何か、物凄く俺に良いことと悪いことが同時に起こった気が……。
俺が眉を潜めて顎に手を当てて考え込むと、アシュエリ様もエレスディアも何故か少し慌てた様子で、俺の思考を邪魔するように口を揃えて声を上げた。
「……分からないなら、いい。平和」
「そうね、私もそう思うわ」
「ホントに何があったの!? 俺に教え……おいこら目を逸らすなよ! それに何で頬を染めるの!? やめて、マジで心配になるじゃん!! お願いします、どうか教えて下さい!」
何も言わずに複雑そうな表情を浮かべたのち、何かを思い出したかのようにサッと頬を赤らめる2人の様子に、俺がいつにもなくオロオロしながら頭を下げれば。
「……ヒント、あげる」
「ほんとか!? 何で教えてくれないのか本当に意味分かんないけど、取り敢えず教えて下さい!!」
「……まぁヒントくらいなら。でも、それ以上は言わないわ」
「その理由がサッパリだけどありがとうございます!」
仕方ないと言った様子の2人に、俺は期待を籠めたつぶらな瞳を向ける。
そんな俺にエレスディアが頬を染めながらも罪悪感の籠もった眼差しを向け、対するアシュエリ様は何処か不服そうに口を尖らせた。
「ごめんなさい……わ、悪かったと思ってるわ。でも……仕方ないと思うの。アンタがあんなに私達を期待させたから……」
「……ん、ごめん、ゼロ」
2人の言葉が理解出来ず……俺はポカーンと呆けた表情を浮かべる。
俺が悪いことをしたと思っていたが……どうやらそうでもないらしい。
「……あの、意味が分からないんですけど。それ、ホントにヒントか?」
「ヒントよ。ざっくり説明したらさっきの言葉に集約されるのよ」
「そう言うなら、まずは俺の目を見てから言おうぜ」
一向に俺を見ないように目を逸らし続けるエレスディアに、俺がジトーっとした視線を向けたのち……小さくため息を吐いて机の上のアロマキャンドルを手に取った。
「まぁもう昨日のことは聞かないけど……これって何なん?」
「「「…………」」」
「え、何で皆んな固まるの? しかも普段寡黙なメイドさんまで!?」
突然エレスディアやアシュエリ様だけでなく、後ろに控えていたメイドさんまでビシッと石のように固まる。
皆んなの顔に、明らかな動揺と焦りが浮かんでいた。
しかし、流石わがまま姫のメイドさん。
一瞬で硬直から元に戻ると。
「申し訳ございません、ゼロ様。此方は私めの方で勝手に置かせて頂いた、最近女性の間で流行っているインテリアでございます」
至極真面目な顔でそう言って、どこからともなく机に置いてあるものと同じ物を取り出した。
そのマジシャンのような鮮やかな手口に思わず声を上げる。
「ほえぇ……そんなのがあるんですね」
「お気に召していただけませんでしたか……?」
不安げな表情で問い掛けてくるメイドさんに、俺は慌てて手をブンブン振る。
言えないよ、物凄く胡散臭いなんて。
後ろの2人の目も怖いし。
「いえいえ、物凄く気に入りました! 良いですよね、アロマキャンドル! 何かこう……お、落ち着きますし!」
「そう言ってくださると私めと致しましても嬉しい限りでございます。…………効果は真反対なのですけれど」
最後何か言っていたような気がするが、俺が問い掛ける前にいつも通りの勝ち気な表情に戻ったエレスディアが口を開く。
「それより早く起きなさいよ。もう時間がないわよ?」
「さっきからずっとなによ、時間無いって。それに2人はどうしてそんなガチガチの格好してるん?」
ベッドの上で俺が世間話程度の気持ちで問い掛けると。
「呼び出しよ、国王陛下からの招集。『
「……今までで、最大」
エレスディアが眉間に皺を寄せて険しい表情を浮かべる。
アシュエリ様も表情こそ変わらないものの、何処か警戒している様子だった。
ただ、1つだけ言わせて欲しい。
…………今それ言う?
正直昨日のことが気になりすぎて殆ど話が入ってこないんだけど。
普通にテンションの差が凄くない?
そんな感じでイマイチ危機感を持ててない俺だが、
「ほら、早く着替えて!」
「ん、急いで」
「そんなに言うなら、もっと早く起こしてくださいませんかね!?」
取り敢えず今は考えるのをやめることにして、遅れないように2人に急かされながら着替えるのだった。
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